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Google、悪質な住宅用プロキシネットワークNetNutを継続的に破壊

Google、悪質な住宅用プロキシネットワークNetNutを継続的に破壊

NetNutとは何か、住宅用プロキシの仕組み

NetNutとは何か、住宅用プロキシの仕組み

今回Googleが措置を取ったNetNut(別名Popa)は、世界最大級の住宅用プロキシネットワークだ。住宅用プロキシとは、一般家庭が契約するISP(インターネットサービスプロバイダ)のIPアドレスを経由してトラフィックを中継する仕組みである。大規模なボットネットによって実現され、NetNutは少なくとも200万台のデバイスを出口ノードとして抱えていたと見られている。

住宅用プロキシの大きな特徴は、一見すると正当な住宅回線からの通信に見える点だ。攻撃者はこの特性を悪用し、実際の位置や身元を隠蔽する。データセンター経由のプロキシとは異なり、ブラックリストに載りにくいため、アカウント不正アクセスやパスワードスプレー攻撃などに利用される。

従来のプロキシ悪用の流れ(Before)
攻撃者 指令を送信 NetNut C2サーバー 感染した住宅デバイス
住宅デバイス 被害者サイトへアクセス 標的サイト
攻撃者のIPはプロキシで隠蔽される
家庭のデバイスが踏み台にされる
Googleの対策後(After)
Google アカウント無効化&Play Protect警告
C2サーバー → 通信不能に
住宅デバイス → ネットワークから切断され、数百万人のデバイスが解放
悪用可能な出口ノードが大幅に減少

Google Threat Intelligence Group(GTIG)の推計によると、NetNutには世界で200万台以上のデバイスが接続されていた。このボットネットは主にスマートテレビやストリーミングボックスなど、家庭に常時設置されるデバイスに潜むSDKを通じて構築される。KrebsOnSecurityの報道やGoogle自身の調査により、NetNutがこうしたデバイスを悪用してプロキシネットワークを肥大化させていた実態が明らかになっている。

Googleが取った具体的な対策とその効果

Googleが取った具体的な対策とその効果

Googleは2026年7月2日、FBIやLumenなどのパートナーと連携し、NetNutの運営基盤に対して以下の施策を実施した。

Googleアカウントとサービスの無効化

NetNutがマルウェアのC2(コマンド&コントロール)に使用していたGoogleアカウントと関連サービスを、利用規約違反として無効化した。これにより、攻撃者がボットネットを制御する主要な通信路が遮断された。

技術情報の共有とエコシステム全体への働きかけ

NetNutが利用していたSDKやバックエンドのC2インフラに関する技術情報を、プラットフォーム事業者や法執行機関、研究機関と共有した。この情報に基づき、各組織が同様のネットワークを監視・遮断できるようになり、より広範な防御が可能になった。

Google Play Protectによる自動防御

Androidの組み込みセキュリティ機能であるGoogle Play Protectが、NetNutのSDKを組み込んだアプリを検出し、ユーザーに警告を発するとともに自動で無効化する措置を取った。今後も新たなインストール試行に対して保護を継続する。これによって、一般ユーザーが意図せずボットネットの一部になるリスクが大幅に低減された。

これらの連携措置により、NetNutのプロキシネットワークから数百万台のデバイスが切り離され、可用性が著しく低下した。NetNutにはホワイトラベル(再販)プログラムも存在し、多くの有名住宅用プロキシブランドが実態としてNetNutのボットネットを利用していたことが分かっている。そのため、今回の措置はプロキシ業界全体に波及効果をもたらすと見られている。

ただしGTIGは、過去のIPIDEAネットワークの事例から、個別のネットワークが一見復元力を持つように見えることもあると指摘している。プロキシ事業者は自前のボットネットが弱体化すると競合からキャパシティを購入し、事実上の再販業者に転じる傾向がある。持続的な抑止には、複数の相互接続されたネットワークを同時に標的とするスケールした取り組みが不可欠だ。

なぜ住宅用プロキシがここまで危険なのか

なぜ住宅用プロキシがここまで危険なのか

NetNutのような住宅用プロキシは、攻撃者にとって理想的な隠れ蓑になる。2026年6月の1週間だけでも、GTIGはNetNutの出口ノードを疑われるIPから316もの異なる脅威クラスタを観測した。これにはサイバー犯罪グループだけでなく、国家支援が疑われるスパイ活動グループも含まれていた。

デバイス所有者への直接的な被害

感染したデバイスが出口ノードになると、その家庭のIPアドレスから不正な通信が行われる。最悪の場合、同じホームネットワーク内の他のプライベートデバイスにもアクセスされ、外部の脅威に晒される。ユーザーが気付かないうちに自宅の回線が犯罪に利用され、プロバイダからフラグを立てられ通信を制限されるなどの二次被害も発生する。

大規模DDoS攻撃の踏み台としての利用

SynthientやSpur、Nokia Deepfieldなどの公開レポートによれば、NetNutのインフラはMirai亜種などのDDoSボットネットにデバイスを感染させる経路としても使われていた。住宅用プロキシは単なる匿名化ツールにとどまらず、より破壊的なサイバー攻撃の温床になっている。

住宅用プロキシ悪用による主なリスク
アカウント乗っ取り
正規の住宅IPに見えるため、ログイン試行のブロックを回避
内部ネットワークへの侵入
出口ノード化したデバイス経由で同一LAN内の機器にアクセス
DDoS攻撃の踏み台
多数の住宅デバイスから一斉にトラフィックを送り標的を圧迫
ユーザーへの風評被害
ISPに不正通信として検知され、正規の通信がブロックされる可能性
直接的なリスク  二次的なリスク  大規模攻撃への加担

こうしたリスクは、一般消費者のデバイスが知らぬ間に犯罪インフラの一部と化す構造的な問題だ。「無料VPN」や「帯域を共有するだけで報酬」といった甘い言葉でインストールを促すアプリが、実は住宅用プロキシのSDKを仕込んでいるケースが後を絶たない。

一般消費者が今すぐ取るべき3つの対策

一般消費者が今すぐ取るべき3つの対策

NetNutのような脅威から自分や家族のデバイスを守るために、以下の点に注意したい。

「未使用の帯域を共有する」アプリを警戒する

「帯域を貸すだけで収入が得られる」とうたうアプリは、悪質なプロキシネットワークへの参加を促す典型的な手口だ。こうしたソフトウェアは、意図せず自宅のIPを犯罪者に貸し出す結果になる。Googleは公式アプリストアの利用と、サードパーティVPNやプロキシの権限を厳格に確認するよう呼びかけている。

Google Play Protectを有効に保つ

Androidスマートフォンやテレビデバイスでは、Play Protectが自動的にNetNut関連の不正アプリを検出・無効化する。設定から保護機能が有効になっているか確認することが第一歩だ。Play Protect認証を受けていないデバイスは、セットトップボックスなどでも注意が必要だ。

信頼できるメーカーのデバイスを選ぶ

特にスマートテレビやストリーミング端末を購入する際は、公式のAndroid TV OSを搭載し、Play Protect認証を受けているかどうかを確認すべきだ。Android TVの公式サイトではパートナーメーカーの最新リストが公開されており、購入前のチェックに役立つ。

今後の展望と持続的な対策の必要性

今後の展望と持続的な対策の必要性

今回のNetNut無効化は、2026年1月のIPIDEAネットワーク対策に続くGoogleの断固たる意思表示だ。しかし住宅用プロキシ業界は急速に拡大しており、単発の措置だけでは長期的な解決にならない。事業者同士がボットネットを再販し合う流動的なエコシステムでは、1つのネットワークを潰しても別のネットワークがカバーする。

GTIGも認めるように、持続的な抑止には複数の主要プロバイダのインフラを同時に標的とし、モバイルプラットフォーム、ISP、テクノロジー企業が継続的に情報を共有し、悪意あるC2サーバーをブロックする取り組みが必要だ。Googleは「業界全体の協調努力なくして根本的な解決は難しい」との立場を明確にしている。

我々一般消費者も、知らぬ間にサイバー攻撃の一端を担わされないよう、デバイスの購入元とアプリの権限に対して常に敏感でありたい。技術的な防御だけでなく、ユーザーリテラシーの向上が、悪質な住宅用プロキシの成長を鈍化させる最後の砦になる。

住宅用プロキシ対策のエコシステム全体像
個人ユーザー 信頼できるデバイス購入・Play Protect有効化
Google・プラットフォーマー SDK情報共有、アカウント遮断、自動防御(Play Protect)
ISP・法執行機関 C2サーバーブロック、違法ネットワークの摘発
防御の第一線(デバイス所有者)
技術的対策の要(プラットフォーム)
法執行・インフラレベルでの遮断

Googleはこの発表の中で、同様の取り組みを加速させる意向を示しており、今後の脅威インテリジェンス共有の枠組みがさらに重要になるだろう。

この記事のポイント

  • GoogleがNetNut(Popa)と呼ばれる世界最大級の住宅用プロキシネットワークをFBIなどと協力して無効化
  • アカウント無効、SDK情報共有、Play Protectによる自動防御で数百万台のデバイスをネットワークから切り離し
  • 住宅用プロキシは一般家庭のデバイスを踏み台にし、アカウント乗っ取りやDDoS攻撃の温床に
  • 消費者は「未使用帯域の共有」アプリを避け、Play Protectの有効化や信頼できるデバイス選びが重要
  • 業界全体での継続的な情報共有と協調した遮断が、長期的な対策には不可欠
Amazon EKSにKubernetesロールバック機能、アップグレードの不安を解消

Amazon EKSにKubernetesロールバック機能、アップグレードの不安を解消

Amazon EKSにKubernetesバージョンロールバック機能が導入された。クラスタのバージョンアップグレードはこれまで戻り道のない一方通行だったが、今回の機能により最大7日間であれば以前のバージョンに巻き戻せる。AWSのDonnie Prakoso氏とChanny Yun氏が2026年7月1日付のAWS News Blogで発表した内容だ。

KubernetesコミュニティではKEP-4330に基づくエミュレートバージョンでロールバックを緩和する動きが進んでいる。しかしEKSのロールバックはエミュレーションではなく、本番環境で事前に検証済みの状態へ完全に戻る点が異なる。クラスタ管理者にとってはアップグレード作業の心理的ハードルを大幅に下げる機能だ。

本記事では、この新機能の仕組みや利用手順、EKS Auto Modeでの挙動の違いを中心に、運用現場へのインパクトを具体的に整理する。

Kubernetesバージョンロールバックの概要

Kubernetesバージョンロールバックの概要
従来のアップグレードフロー(Before)
K8s v1.34 稼働中
v1.35 へアップグレード 実行
問題発生 互換性エラー・アプリ障害
⚠️ ロールバック不可。クラスタ再構築が必要
EKSバージョンロールバック搭載後(After)
K8s v1.34 稼働中
v1.35 へアップグレード 実行
問題発生 互換性エラー・アプリ障害
✅ 7日以内であれば v1.34 へロールバック可能
復旧完了 クラスタは元のバージョンで稼働継続

この図はアップグレード失敗時の対応の違いを示している。従来はクラスタ再構築が必要だったが、新機能では「元に戻す」操作が可能になった。

ロールバックが求められてきた背景

Kubernetesは年に3回のマイナーバージョンアップがリリースされる。多数のクラスタを抱える組織、とりわけ金融や医療など規制の厳しい業界では、アップグレードに数か月単位の準備期間を設ける例も珍しくない。問題発生時に復旧できる確証がなければ、アップグレードそのものを先送りする判断になりやすい。

この結果、クラスタは古いバージョンに留まり、セキュリティパッチが未適用のまま延長サポート期間に突入するケースが増えていた。ロールバック機能はこうした「アップグレード恐怖症」を解消する安全装置として位置づけられる。

エミュレートバージョンとの違い

KEP-4330で提案されているエミュレートバージョンは、クラスタを移行用の中間状態に置くアプローチだ。対してEKSのロールバックは、実際に本番で稼働していた検証済みの状態へ戻る。エミュレーションではないため、ロールバック後の動作は以前のバージョンそのものになる。運用チームにとっては「テスト環境で確認済みの状態」に復帰できる点が安心材料だ。

基本的な制約と料金

ロールバック可能な期間はアップグレード後7日間である。バージョンは1つ前のマイナーバージョンのみ戻せる。たとえば1.34から1.35にアップグレードした場合、戻り先は1.34だ。1.33へ一気に下げることはできない。

料金はロールバック機能そのものに追加コストは発生しない。標準のEKS料金とコンピューティングコストのみで利用できる。全商用AWSリージョンで本日から提供開始されている。

ロールバックの実践的な利用手順

ロールバックの実践的な利用手順

AWSのブログでは、Donnie Prakoso氏が実際にEKSコンソールからロールバックを試した手順が紹介されている。ここではその流れを整理しつつ、運用現場で意識すべきポイントを補足する。

STEP 1 EKSコンソールで対象クラスタを選択
STEP 2 クラスタ設定画面でロールバック開始のオプションと有効期限を確認
STEP 3 ロールバックインサイトでノード互換性やアドオン依存関係を事前チェック
STEP 4 ロールバック実行。クラスタは稼働継続したまま制御プレーンが切り戻される(所要約20分)

この手順は標準的なアップグレード操作と大きく変わらない。所要時間は制御プレーンのロールバックが約20分で、通常のアップグレードと同程度だ。

ロールバックインサイトによる事前評価

EKSはロールバック実行前に、クラスタインサイト機能を使ってロールバックの準備状況を自動評価する。ノードのバージョン互換性やアドオン依存関係に問題があれば事前にフラグが立つ仕組みだ。事前評価をスキップして強制的にロールバックを進めたい場合は、--forceフラグが用意されている。

トラブルシューティング中の緊急時にはこの強制実行が有効だが、通常はインサイトの結果を確認してから進めるのが安全だ。互換性の警告を見落とすと、ロールバック後に別の問題が顕在化するリスクがある。

制御プレーンとノードのロールバック

制御プレーンのロールバックはすべてのEKSクラスタで利用できる。一方、ノードのロールバックはEKS Auto Modeを利用しているクラスタが対象となる。自分でノードを管理している構成では、制御プレーンだけがロールバックされ、ノード側は別途対応が必要になる点に注意したい。

EKS Auto ModeでのロールバックとキャンセルAPI

EKS Auto ModeでのロールバックとキャンセルAPI

EKS Auto Modeはコンピューティング、ネットワーク、ストレージ管理を自動化するフルマネージドオプションだ。このモードでは制御プレーンと管理ノードの両方をロールバックする必要があり、ノードのロールバックはPod Disruption Budget(PDB)を尊重しながら進むため、設定によっては時間がかかる。

EKS Auto Mode ロールバックの流れ
制御プレーン ロールバック開始(約20分)
管理ノード PDBを尊重しながら順次ロールバック
キャンセルAPI 必要に応じてノードロールバックを中断可能
復旧完了 クラスタ全体が元のバージョンで稼働

Auto Modeでは制御プレーンとノードが連動してロールバックされる。キャンセルAPIを使えば、所要時間が長すぎる場合に中断して戦略を練り直せる。

PDBを尊重する設計の意図

EKSはロールバック中にデフォルトでPDBをバイパスしない。ワークロードの安定性を最優先する設計思想だ。ノードの切り戻し中にPodが過剰に停止すると、アプリケーションの可用性が損なわれるからである。

ロールバックを急ぎたい場合は、運用者が自らPDBを修正または削除することで高速化できる。システムが一方的にPDBを無視しないため、安全性とスピードのバランスを利用者側でコントロールできる仕組みになっている。

キャンセルAPIの実用シナリオ

キャンセルAPIはノードロールバックの進行中に中断を指示できる機能だ。次のような状況で役立つ。ロールバックにかかる時間が想定以上に長く、ビジネスへの影響が懸念される場合。あるいはロールバック以外の代替手段(特定ノードだけの切り戻しなど)の方が適切と判断した場合だ。

中断後はPDBの調整やロールバック戦略の見直しを行い、再度実行するか別の手段を選ぶかを決められる。この柔軟性は、大規模クラスタを運用するチームにとって重要なセーフティネットになる。

運用現場へのインパクトと今後の展望

運用現場へのインパクトと今後の展望

ロールバック機能の登場は、Kubernetes運用の前提を変える可能性がある。これまでは「アップグレードの前に数週間の検証期間を設けるのが常識」だったが、ロールバックが可能になったことで「まず上げてみて、問題があれば戻す」というアプローチが現実的になる。

アップグレードサイクルの短縮

Kubernetesのマイナーバージョンアップは年3回のペースで進む。これに追従するには、アップグレードサイクルを四半期以内に収める必要がある。ロールバック機能によって心理的ハードルが下がれば、検証期間を短縮しつつ最新バージョンへの追随速度を上げられる。

規制業界でも「7日間の戻し窓口がある」という事実が監査対応やリスク評価でプラスに働く可能性がある。セキュリティパッチの適用遅延リスクを低減する効果も見込めるだろう。

注意すべき制約

ロールバックは万能ではない。7日間の期間制限を過ぎると元に戻せないため、アップグレード後の監視と問題検知の仕組みは引き続き重要だ。またノードを自前管理している構成ではノードロールバックが自動化されないため、制御プレーンのみの切り戻しでは不十分なケースも想定される。

ロールバックインサイトが示す警告を無視して強制実行した場合、アドオンの互換性問題などが残る可能性もある。事前チェックを飛ばすのはあくまで緊急時の手段と心得たい。

この記事のポイント

  • EKSの新機能「バージョンロールバック」はアップグレード後7日間、1つ前のマイナーバージョンに戻せる
  • 制御プレーンのロールバックは全EKSクラスタ、ノードロールバックはAuto Modeクラスタが対象
  • ロールバックインサイトで互換性リスクを事前評価し、--forceでスキップも可能
  • PDBを尊重する設計でワークロードの安定性を維持しつつ、キャンセルAPIで中断も選べる
  • 追加料金は不要で全商用リージョンで提供開始。アップグレードサイクル短縮の追い風になる
VercelがDockerfileサポートを発表、任意のHTTPサーバーをデプロイ

VercelがDockerfileサポートを発表、任意のHTTPサーバーをデプロイ

VercelがDockerfileサポートを発表、任意のHTTPサーバーをワンコマンドでデプロイ可能に

VercelがDockerfileサポートを発表、任意のHTTPサーバーをワンコマンドでデプロイ可能に

2026年6月30日、VercelはDockerfileサポートを正式に発表した。プロジェクトにDockerfile.vercelというファイルを追加するだけで、Vercel上でコンテナイメージのビルド、保存、デプロイ、そしてオートスケールが完結する。

従来、Vercelはフロントエンドとサーバーレス関数のプラットフォームだった。今回の発表で、Express、Rails、Spring Boot、FastAPIといったフル機能を持つHTTPサーバーも、同一のプラットフォームで運用できるようになる。バックエンドとフロントエンドの垣根は、ほぼゼロになった。

この記事では、Dockerfile.vercelの仕組み、対応スタック、Fluid computeによる運用面の利点、そしてVercelが10年越しでこの機能を実現した理由について解説する。

Dockerfile.vercelの基本的な使い方

Dockerfile.vercelの基本的な使い方

最小限のHTTPサーバーをデプロイする手順

仕組みを理解するため、Goで書かれた最低限のHTTPサーバーを例に見ていこう。このサーバーは環境変数PORTからポート番号を読み取り、全リクエストに挨拶文を返すだけのシンプルなものだ。

package main

import (
	"fmt"
	"net/http"
	"os"
)

func main() {
	port := os.Getenv("PORT")
	if port == "" {
		port = "80"
	}

	http.HandleFunc("/", func(w http.ResponseWriter, r *http.Request) {
		fmt.Fprintln(w, "Hello from a container on Vercel 👋")
	})

	http.ListenAndServe(":"+port, nil)
}

このコードを動作させるため、Dockerfile.vercelをプロジェクトルートに置く。内容は次のような2段階ビルドだ。ビルドステージでバイナリをコンパイルし、軽量なAlpineイメージにコピーして実行する。

FROM golang:1.24-alpine AS build
WORKDIR /src
COPY . .
RUN go build -o /server main.go

FROM alpine:3.20
COPY --from=build /server /server
CMD ["/server"]

あとはvercelコマンドを実行するだけだ。

vercel deploy
Vercel CLI
✓ Building image from Dockerfile.vercel
✓ Stored image in your project's registry
✓ Deployed to Fluid compute
Production: https://my-server.vercel.app

たった2ファイルで、本番公開まで完了する。git pushのたびにイメージが再ビルドされ、プレビューURLも自動生成される。ブラウザでそのURLを開けば、すぐに応答が返ってくるはずだ。

従来のコンテナデプロイ(Before)
Dockerfile作成イメージビルドレジストリプッシュ
クラスタ設定スケーリング設定ロードバランサ設定
ドメイン設定TLS証明書取得
※多数の手順が必要で、インフラ管理が負担となる
Vercel Dockerfileデプロイ(After)
Dockerfile.vercel作成vercel deploy 実行
ビルド・保存・デプロイ自動化
※インフラ管理はVercelが担当。ドメイン・証明書も自動設定

この例ではGoを使ったが、仕組みはどの言語でも同じだ。サーバーが$PORTで待ち受けること、これが唯一のルールである。HTTPプロトコルを話すサーバーであれば、すべてVercel上で動作する。

すべての言語とフレームワークに対応

すべての言語とフレームワークに対応

VercelのDockerfileサポートは、特定の言語やフレームワークに縛られない。Rails、Spring Boot、Express、Laravel、ASP․NET、FastAPI、そしてnginxの背後にあるウェブサーバーまで、同じ手順でデプロイできる。記事によれば、JavaもPHPも例外ではない。

対応する主なスタック例
Go Ruby on Rails Spring Boot Express Laravel ASP.NET FastAPI PHP Java
唯一のルール
サーバーが $PORT で待ち受ける デフォルトは 80

フレームワーク自動検出がVercelの主軸だが、検出対象外のフレームワークや、FFmpegやChromiumのようなシステムライブラリを必要とするサービスは、Dockerfileで直接定義できる。既存のアプリケーションを、今の構成のまま移行したい場合の受け皿にもなる。

Fluid computeがもたらす自動スケールとコスト最適化

Fluid computeがもたらす自動スケールとコスト最適化

コンテナはVercelプラットフォームのファーストクラス市民として扱われる。フロントエンドや他のVercelサービスと同一のコンピュート基盤、Fluid compute上で動作し、以下の恩恵を受けられる。

  • プッシュごとのプレビューデプロイ 全コミットに不変のURLが付与され、共有やロールバックが容易になる
  • 双方向オートスケール トラフィック到来でスケールアウトし、アイドル時はインスタンスが縮退する。フリートのサイジングや同時実行数の見積もりは不要
  • アクティブCPU課金 コードが実際に動作している時間だけ支払う。遅いクエリや上流API待ちでサーバーが待機している間は、CPU時間を消費しない
  • オブザーバビリティの統合 ログ、トレース、メトリクスを同一のダッシュボードで確認できる
  • 単一プロジェクト・単一ドメイン コンテナはフロントエンドや他のサービスと並んで配置され、Vercelネットワーク上でプライベートに通信する。フルスタックが1デプロイで完了する
従来のサーバー課金(Before)
インスタンスがアイドル状態でも、稼働時間(Wall time)に対して料金が発生する
※外部API応答待ちの時間も課金対象
Fluid compute課金(After)
CPUが実際にコードを実行している時間だけ課金される
※待機時間やアイドル時間は課金ゼロ

とくにアクティブCPU課金は、トラフィックが散発的なサービスにとってコスト面のインパクトが大きい。常時稼働のサーバーを抱える必要がなくなり、使った分だけの支払いで済む。

高速起動を支える最適化技術

高速起動を支える最適化技術

コンテナの価値は、最初のリクエストに応答するまでの速さで決まる。Vercelはイメージビルド時に、最適化ブートイメージを生成する。これはコンテナのディスクスナップショットを圧縮し、起動速度に特化させた形式だ。

コンテナ起動時には、イメージ全体をダウンロードし終える前に、必要な部分からストリーミングと解凍が行われる。大きなイメージでも、ダウンロード完了を待たずにリクエスト処理を開始できる仕組みだ。

インスタンスが立ち上がった後は、Fluid computeがそのインスタンスを温かく保ち、複数のリクエストを処理する。リクエストごとに新しいコピーを起動するわけではないので、応答性は常時稼働サーバー並みでありながら、アイドル時はスリープするという課金上の利点が両立する。

各コンテナはステートレスプロセスとして設計される。リクエストを受け取り、レスポンスを返し、その間に状態を保持しない。永続的なデータはVercel Marketplaceで提供されるデータベースやキャッシュなどのバッキングサービスに依存する。これにより、インスタンスの追加と削除が自由に行え、トラフィック変動への追従がシンプルになる。記事によれば、コンテナに永続ストレージを直接接続する機能も現在開発中とのことだ。

10年越しで実現したDockerfileサポートの背景

10年越しで実現したDockerfileサポートの背景

Vercelの最初のプラットフォームは、1コマンドでDockerfileをデプロイできるツールだった。2016年頃の話だ。アイデア自体は正しかったが、当時のインフラでは十分に扱いきれなかった。

その後、Vercelはビルド、Functions、Sandboxと、プラットフォームを構成する基盤技術を一つひとつ磨いてきた。これらは現在、Vercel上で動作するすべてのワークロードを支えている。今回のDockerfileサポートは、それらの積み重ねの上に成り立っている。コンテナも、それらと同一のシステム上で動くファーストクラス市民になった。

フレームワーク自動検出はVercelの入り口だ。コードを読んでインフラを導出する。ほとんどのアプリではそれが最速の出荷手段となる。Dockerfileは、それ以外のすべてをカバーする。FFmpegやChromiumのようなシステムライブラリが必要なサービス、まだ自動検出が対応していないフレームワーク、あるいは既存の構成をそのまま持ち込みたいアプリケーション。Dockerfileは、プログラムのビルド方法を定義する普遍的な手段であり、フレームワークが読めない場合にはそれを直に受け取る。

Dockerfile以外の設定は不要だ。イメージを指定するだけで、ビルド、レジストリ、ロールアウト、スケーリング、URL発行まですべてが自動的に行われる。Vercelの発表文には「ゼロコンフィグレーション」という言葉が使われているが、まさにそれを体現する機能と言える。

バックエンド開発の新しい当たり前

バックエンド開発の新しい当たり前

バックエンドが、フロントエンドと同じ方法で出荷される時代が来た。ワンプッシュ、ワンプレビュー、ワンプラットフォーム。VercelのDockerfileサポートは、その簡潔さとスケーラビリティにおいて、バックエンド開発の風景を変える可能性を秘めている。

具体的な手順やテンプレートは公式ドキュメントで公開されている。GoやRailsだけでなく、あらゆるHTTPサーバーが対象だ。既存のDockerfileを持つプロジェクトがあれば、それをDockerfile.vercelにリネームするだけでVercel上での稼働を試せる。

コンテナを扱うためにローカルでデーモンを動かす必要も、レジストリを用意する必要も、クラスタを管理する必要もない。必要なのは、Dockerfile.vercelという1つのファイルと、vercel deployという1つのコマンドだけだ。その先の複雑さは、すべてVercelが引き受ける。

STEP 1 プロジェクトに Dockerfile.vercel を追加
STEP 2 vercel deploy を実行
STEP 3 イメージビルド・保存・Fluid computeへのデプロイが自動で進行
STEP 4 本番URL発行。以後git pushごとにプレビューURL自動生成

この記事のポイント

  • VercelがDockerfileサポートを開始し、任意のHTTPサーバーをワンコマンドでデプロイ可能になった
  • サーバーが$PORTで待ち受けることさえ守れば、Go、Rails、Spring Boot、PHPなど全スタックが動作する
  • Fluid computeにより、トラフィックに応じた自動スケールと、CPU実行時間のみの課金が実現する
  • イメージのストリーミング起動技術により、大きなコンテナでも高速にリクエスト処理を開始できる
  • この機能は10年にわたるプラットフォーム基盤の改良の上に成り立っており、コンテナがVercelのファーストクラス市民として統合された
Cisco SD-WAN Managerにゼロデイ攻撃、root権限奪取の手口を解説

Cisco SD-WAN Managerにゼロデイ攻撃、root権限奪取の手口を解説

Google傘下のMandiantは2026年6月24日、Cisco Catalyst SD-WAN Managerを標的としたゼロデイ攻撃の分析レポートを公開した。脆弱性CVE-2026-20245を悪用し、認証済みの限定的なアクセスからroot権限を奪取する高度な手口が確認されている。

この攻撃は2026年初頭からサービスプロバイダーを狙ったもので、不正なピアリング接続と巧妙な痕跡消去を組み合わせていた。ネットワーク機器を管理するソフトウェア定義型のコントローラーが、国家支援型の脅威アクターにとって格好の標的になっている実態が浮き彫りになった。

Cisco SD-WAN Managerを狙ったゼロデイ攻撃の概要

Cisco SD-WAN Managerを狙ったゼロデイ攻撃の概要

問題の脆弱性CVE-2026-20245は、Cisco Catalyst SD-WAN ManagerのCLI(コマンドラインインターフェース)に存在する。ファイルアップロード機能が悪意あるデータを適切にフィルタリングしない点に起因し、細工したCSVファイルを送り込むだけでroot権限のコマンド実行が可能になる。

Mandiantの調査によると、攻撃者はまず何らかの方法で管理者権限を取得した後、この脆弱性を利用して特権を昇格させた。一連の流れの中で特に注目すべきは、攻撃後にシステム設定を元に戻し、侵入の痕跡を徹底的に消去するアンチフォレンジック手法が用いられた点だ。こうした手口は、ネットワークの中央制御プレーンが持つ「ブラックボックス性」を悪用するもので、従来型の境界防御だけでは検知が難しい。

STEP 1 不正ピアリング接続でSSHアクセスを確立
STEP 2 vmanage-adminでadminパスワードを変更しWeb UIから設定を窃取
STEP 3 悪意あるCSVをアップロードしCVE-2026-20245を悪用、root権限を取得
STEP 4 痕跡消去と検証スクリプト実行でアンチフォレンジック

この攻撃キャンペーンの特徴は、単一の脆弱性を突くだけではなく、ピアリング認証の弱点やデフォルトアカウントの操作を組み合わせている点にある。ネットワーク機器のセキュリティ対策において、パッチ適用だけでなくアカウント管理やログ監視の重要性を改めて示す事例だ。

SD-WANとピアリングの基礎知識

SD-WANとピアリングの基礎知識

従来のWANとSD-WANの違い

従来のWAN(Wide Area Network)は、拠点ごとに専用ルーターを設置し、物理的な回線で接続する構成が一般的だった。この方式は拡張性に乏しく、クラウドサービスの利用が増えるにつれて運用負荷が高まる課題があった。

これに対しSD-WAN(Software-Defined Wide Area Network)は、ネットワークの制御機能をハードウェアから分離し、集中管理するアプローチを取る。銀行、小売チェーン、医療機関など拠点が多い組織では、単一の管理画面から全拠点のルーター設定やトラフィック制御を一元的に操作できる利点がある。ただし、その中央集権的な構造自体が、攻撃者にとっては魅力的な標的にもなる。

ピアリングとは何か

SD-WAN環境におけるピアリングとは、エッジルーターやハブ、コントローラーといった機器間で信頼関係を確立するプロセスを指す。具体的には、機器同士がデジタル証明書を使って相互認証し、セキュアな通信トンネルを自動構築する。

このピアリングの認証メカニズムに脆弱性があると、攻撃者は正規の証明書がなくてもネットワークに不正に接続できる。今回の攻撃でも、Ciscoが別途公表しているCVE-2026-20127やCVE-2026-20182が初期アクセスに悪用された可能性が指摘されている。これらの脆弱性は、リモートから認証をバイパスして管理者権限を奪取できる深刻なものだ。

侵入キャンペーンの詳細

侵入キャンペーンの詳細

不正ピアリング接続による初期アクセス

Mandiantの観測では、2025年末から2026年1月にかけて、被害組織のSD-WAN Managerに対して複数の不正なピアリング接続が行われていた。この時期、CVE-2026-20127およびCVE-2026-20182のパッチは未提供であり、それらが悪用された可能性が高い。

2026年3月には、これらの脆弱性の影響を受けないソフトウェアバージョンの機器でも不正ピアリングが確認された。Ciscoの分析によれば、この接続はCVE-2026-20182を利用したものではなく、過去の侵害で窃取された証明書が再利用されたとみられる。攻撃者が同一かどうかは現時点では不明だが、標的の機器に対して持続的に関心を持っていたことは明らかだ。

管理者パスワードの操作と設定情報の窃取

攻撃者は不正ピアリングで確立したSSHセッションを使い、vmanage-adminアカウントでログインした。このアカウントはデフォルトで存在するが、単体ではroot権限を持たない。

ログイン後、攻撃者はadminアカウントのパスワードを変更し、Web管理インターフェースに直接アクセスした。そして、SD-WANファブリック全体の設定情報をHTTPリクエストで引き出したことがログから確認されている。設定情報の窃取が完了すると、パスワードを元に戻してセッションを切断するという慎重な手口が取られた。日常的な管理者ログインと見分けがつかないように偽装する意図があったと考えられる。

攻撃前の状態(通常運用)
管理者 adminアカウントで通常ログイン
パスワードは日常的に変更されず、監査ログも定常的なパターン
攻撃者の操作(検知困難な偽装)
攻撃者 vmanage-adminで侵入 → adminパスワード変更 → 設定窃取 → パスワード復元
セッション切断後は通常のログと見分けがつかない

この手法は「Living off the Land」と呼ばれる戦術の一種で、正規のツールやアカウントを悪用することで異常検知を回避する。SD-WAN Managerのような中央管理装置では、管理操作そのものが日常的に発生するため、こうした偽装が特に有効になりやすい。

CVE-2026-20245を利用した権限昇格

2026年4月、攻撃者はadminアカウントでSSHセッションを確立した後、evil_tenant.csvというファイルをアップロードするコマンドを実行した。このCSVには、システムのパスワードファイルに新しいroot権限ユーザーを追加するペイロードが含まれていた。

具体的には、以下のような処理が行われる。

  • 既存のテナント設定ファイルをバックアップし、不正なCSVで上書き
  • /etc/passwd/etc/shadowをバックアップ後、trootというroot権限ユーザーを追記
  • 攻撃者はsuコマンドでtrootに切り替え、完全なシステム制御を取得

この一連の操作は、ファイルアップロード機能が入力を適切に検証しない設計上の欠陥を突いたものだ。Cisco Catalyst SD-WAN ManagerのCLIは、本来テナント管理のために用意されたコマンドが、結果的に任意コード実行へのゲートウェイになった。

痕跡消去とアンチフォレンジック手法

攻撃者は目的を達成した後、作成したファイルをすべて削除し、変更した設定を元に戻した。さらに、自らが残した痕跡が完全に消えているかを確認する検証スクリプトまで実行している。

このスクリプトは、evil_tenant.csvやバックアップファイルの存在、trootアカウントの有無、テナント設定ファイルの復元状態をチェックするものだった。こうした徹底したクリーンアップは、攻撃者が長期的な潜伏を意図しているか、あるいはフォレンジック調査を著しく困難にする高度な運用セキュリティ意識を持っていることを示唆する。

組織が取るべき対策と修復手順

組織が取るべき対策と修復手順

今回の攻撃から得られる教訓は、パッチ適用の迅速化だけにとどまらない。複数のセキュリティレイヤーを組み合わせた多層防御が不可欠だ。

脆弱性の修正とパッチ適用

CiscoはCVE-2026-20245、CVE-2026-20127、CVE-2026-20182に対する修正版をリリースしている。対象バージョンは20.9.9.2、20.12.7.2、20.15.4.5、20.15.5.3、20.18.3.1、26.1.1.2以降だ。これらのバージョンへのアップグレードを最優先で進める必要がある。

IOCスイープと脅威ハンティング

すべてのSD-WANコントロールプレーンコンポーネントでrequest admin-techコマンドを実行し、ログと診断データを収集する。Mandiantが公開したIOC(Indicators of Compromise)と照合し、不審なピアリング接続やvmanage-adminアカウントの不正使用がないかを調査する。

アカウントとログの強化

デフォルトアカウントのパスワードポリシーを厳格化し、vmanage-adminのような特権アカウントのSSHログインを監視する。/var/log/auth.logにおける短時間でのパスワード変更や、suコマンドによる予期しないユーザー切り替えをアラート対象にする。

Ciscoが提供する「Cisco Catalyst SD-WAN Hardening Guide」に従い、管理プレーン、コントロールプレーン、データプレーンの各層でセキュリティ設定を見直すことも有効だ。

IOCと脅威ハンティング

IOCと脅威ハンティング

Mandiantは今回の攻撃に関連するIOCをVirusTotalのGTI Collectionで公開している。ネットワークインジケーターに加え、フォレンジック調査で回収された悪意あるCSVペイロードの痕跡も含まれる。

実際のハンティングでは、以下のようなログパターンに注目する必要がある。

  • vmanage-adminアカウントに対する外部IPからのSSHログイン
  • adminアカウントのパスワードが短時間で変更され、元に戻されるイベント
  • /var/log/scripts.logにおけるvconfd_script_upload_tenant_list.shの不正実行
  • suコマンドによるtrootなど未知のアカウントへの切り替え

これらの兆候は、正規の管理操作と見分けがつきにくいため、普段の運用パターンとの差異を基準に判断することが求められる。疑わしいアクティビティを検出した場合は、Cisco TAC(Technical Assistance Center)に連絡し、詳細な調査を依頼するのが安全だ。

この記事のポイント

  • CVE-2026-20245はファイルアップロード機能の不備を突き、root権限を取得できる深刻な脆弱性
  • 攻撃者は不正ピアリング、パスワード操作、痕跡消去を組み合わせた高度な手口を使用
  • SD-WANのような集中管理型ネットワーク機器は、侵害された場合の影響範囲が広いため標的になりやすい
  • パッチ適用に加え、アカウント監視とログ分析による多層防御が不可欠
  • Mandiantが公開したIOCとTTPを活用し、プロアクティブな脅威ハンティングを実施すべき
AWS Lambda MicroVMs発表、Firecrackerで隔離サンドボックスを即時起動

AWS Lambda MicroVMs発表、Firecrackerで隔離サンドボックスを即時起動

AWS Lambda MicroVMs発表、Firecrackerで隔離サンドボックスを即時起動する新サーバーレス

AWSが2026年6月22日、Lambdaファミリーの新たなコンピュートサービス「Lambda MicroVMs」を発表した。Firecrackerを基盤に、VMレベルの強固な隔離とスナップショットからの即時起動を両立する。AIが生成したコードやユーザー提供のスクリプトを安全に実行したいマルチテナントアプリケーション向けに設計されている。

この新サービスは、従来の仮想マシンとコンテナ、FaaS(Function as a Service)の間にあった溝を埋める。強い隔離が必要だが起動速度も妥協できない、さらにセッション中の状態も保持したい。そうした要件を単一のサービスで満たす選択肢がついに登場した。

Lambda MicroVMsとは何か

Lambda MicroVMsとは何か

Lambda MicroVMsはAWS Lambdaの一部として提供される新しいサーバーレスコンピュートだ。最大の特徴は、エンドユーザーごと、あるいはセッションごとに専用の隔離実行環境を割り当てられる点にある。基盤技術にはFirecrackerを採用しており、この技術はすでに月間15兆回以上のLambda関数呼び出しを支える実績を持つ。

従来の選択肢との違い

従来、隔離されたコード実行環境を構築するには3つの選択肢があった。それぞれにトレードオフが存在する。仮想マシン(VM)は隔離性能に優れるが起動に数分かかる。コンテナは数秒で起動するが、カーネルを共有するため信頼できないコードを安全に実行するには追加の堅牢化が必須だ。FaaSはイベント駆動のリクエスト-レスポンス型ワークロードに最適だが、長時間の対話セッションや状態保持には向いていない。

Lambda MicroVMsはこの3つの間隙を埋める。VMレベルの隔離を持ちながら、スナップショットからの即時起動で高速なレスポンスを実現し、セッション中の状態も保持できる。さらにアイドル時には自動サスペンドでコストを抑えつつ、トラフィック受信時に自動レジュームする仕組みを備えている。

従来の選択肢(Before)
VM 強力な隔離だが起動に数分
コンテナ 高速起動だがカーネル共有で隔離に課題
FaaS イベント駆動に最適だが状態保持と長時間実行が苦手
※隔離と起動速度と状態保持を同時に満たせない
Lambda MicroVMs(After)
MicroVM VMレベルの隔離(Firecracker)
MicroVM スナップショットから即時起動・レジューム
MicroVM セッション中の状態保持と自動サスペンド対応
※隔離・起動速度・状態保持を単一サービスで統合
VM コンテナ FaaS MicroVMs

この比較図が示すように、Lambda MicroVMsは3つの要件を単一サービスで満たす。開発者はインフラ管理から解放され、アプリケーションの構築に専念できる。

なぜ今MicroVMsが必要なのか

なぜ今MicroVMsが必要なのか

ここ数年で、アプリケーション開発者が書いていないコードをエンドユーザーごとに安全に実行する必要があるマルチテナントアプリケーションが急増している。AIコーディングアシスタント、対話型コード実行環境、データ分析プラットフォーム、脆弱性スキャナ、ユーザースクリプトを実行するゲームサーバーなどがその代表例だ。

市場が求める新たな実行環境

こうしたアプリケーションに共通する要件は明確だ。強い隔離で安全性を担保しつつ、エンドユーザーが待たされない起動速度を実現し、対話セッション中は状態を保持し続けること。しかし従来のサービス群では、このすべてを満たす選択肢が存在しなかった。開発者は性能と隔離のトレードオフを受け入れるか、独自の仮想化基盤を構築するために多大なエンジニアリングリソースを投じるかの二者択一を迫られていた。

Firecrackerが支える信頼性

Lambda MicroVMsの基盤となるFirecrackerは、AWSがオープンソースで提供する軽量仮想化技術だ。すでにLambda FunctionsとFargateで運用実績があり、月間15兆回の呼び出しを支える実績は、この新サービスの信頼性を裏付ける。各MicroVMは独立したカーネルで動作し、ユーザー間のリソース共有は一切ない。あるユーザーが実行した信頼できないコードが、他の環境や基盤システムにアクセスすることはない。

技術的な仕組み

技術的な仕組み

Lambda MicroVMsの中核には3つの技術要素がある。VMレベルの隔離、スナップショットベースの高速起動とレジューム、そしてステートフルな実行だ。これらが組み合わさることで、従来にない実行環境が実現されている。

イメージ作成から起動までの流れ

MicroVMsのライフサイクルは「イメージ作成→起動→実行→サスペンド→レジューム」という流れをたどる。まずDockerfileとアプリケーションコードをzipアーティファクトとしてS3にアップロードし、MicroVM Imageを作成する。AWS LambdaがDockerfileを実行し、アプリケーションを初期化したあと、実行環境のメモリとディスク状態のFirecrackerスナップショットを取得する。以降のMicroVM起動はすべて、このスナップショットからレジュームされるため、コールドスタートが発生しない。

STEP 1 DockerfileとコードをS3にアップロード
STEP 2 AWS LambdaがDockerfileを実行しアプリを初期化
STEP 3 Firecrackerスナップショットを取得(メモリ+ディスク状態)
STEP 4 スナップショットから即時レジュームで起動完了
※以降の全MicroVM起動はSTEP 4から始まり、コールドスタートなし

このフローにより、数ギガバイト規模の対話セッションでもエンドユーザーが体感できるレスポンス速度でレジュームされる。アプリケーションはスナップショット時点で完全に初期化済みのため、起動完了と同時にリクエストを受け付けられる状態になる。

サスペンドとレジュームの自動化

Lambda MicroVMsにはアイドルポリシーが設定できる。設定可能な最大アイドル時間を超過すると自動的にサスペンドされ、メモリとディスク状態がスナップショットとして保存される。サスペンド中は実行コストが大幅に低減し、次のリクエストが到着すると自動的にレジュームされる。クライアント側からはサスペンドの発生を意識することなく、一貫した対話セッションが維持される。1MicroVMあたり最大8時間の連続実行が可能で、vCPUは最大16基、メモリは32GB、ディスクも32GBまでサポートする。

実際の利用シーン

実際の利用シーン

発表時点で対応リージョンは米国東部(バージニア北部、オハイオ)、米国西部(オレゴン)、欧州(アイルランド)、アジア太平洋(東京)だ。アーキテクチャはARM64で、価格はAWS Lambdaの料金ページで公開されている。

想定されるユースケース

AIコーディングアシスタントは最も直接的なユースケースだ。ユーザーがAIに生成させたコードを、安全な隔離環境で即座に実行し結果を返す。データ分析プラットフォームでは、ユーザーごとに専用の分析環境を割り当て、ノートブック形式の対話セッションを長時間維持できる。脆弱性スキャナでは、疑わしいコードを隔離環境で安全に実行し、その振る舞いを観察するといった使い方が考えられる。

Lambda Functionsとの共存

Lambda FunctionsとLambda MicroVMsは競合ではなく補完関係にある。イベント駆動のバックボーンにはLambda Functionsを使い、信頼できないコードを隔離実行する必要がある処理だけをMicroVMsに委ねる構成が自然だ。両者は異なるAPIサーフェスを持ち、それぞれの得意領域で使い分ける設計になっている。

クラウド実行環境の新たな選択肢

Lambda MicroVMsの登場は、サーバーレスコンピュートの概念を一歩拡張するものだ。従来のサーバーレスが「インフラ管理からの解放」を旗印にしてきたのに対し、MicroVMsは「隔離実行環境の構築からの解放」を目指している。開発者は仮想化の専門知識を持たずとも、VMレベルの隔離と高速な起動を両立した環境を手に入れられる。

コスト設計のポイント

サスペンド機能の活用がコスト最適化の鍵を握る。対話型アプリケーションでは、ユーザーが考え込んでいる時間や離席中の時間が少なくない。こうしたアイドル時間に自動サスペンドを適用すれば、状態を保持したまま実行コストを抑えられる。アイドルポリシーの設定値はアプリケーションの特性に合わせて調整する必要がある。短すぎると頻繁なサスペンドとレジュームが発生し、長すぎると不要な実行コストが蓄積する。

今後の展望

初期リリースではARM64アーキテクチャのみのサポートだが、今後のアップデートでx86対応やリージョン拡大が期待される。また、スナップショット作成時にネットワーク接続を確立するアプリケーションや、エフェメラルデータを読み込むアプリケーションでは、サービス提供のフックとの統合が必要になる点にも注意が必要だ。

この記事のポイント

  • Lambda MicroVMsはFirecrackerベースでVMレベルの隔離とスナップショット即時起動を両立する新サーバーレス
  • AIコーディング支援やデータ分析など、ユーザー提供コードを安全実行するマルチテナントアプリに最適
  • アイドル時の自動サスペンドとレジュームで、状態を保持したままコストを最適化できる
  • Lambda Functionsとは補完関係にあり、イベント駆動処理と隔離実行を使い分ける設計が推奨される
  • 東京リージョン含む5リージョンで即日利用可能、最大8時間の連続実行に対応
Amazon Bedrock AgentCoreにWeb Search機能が一般提供開始、AIエージェントの回答を最新Web情報で根拠づけ

Amazon Bedrock AgentCoreにWeb Search機能が一般提供開始、AIエージェントの回答を最新Web情報で根拠づけ

AWSは2026年6月17日、Amazon Bedrock AgentCoreにWeb Search機能の一般提供を開始した。AIエージェントがユーザーからの質問に対し、最新のWeb情報を参照しながら根拠のある回答を提示できるようにする。トレーニングデータだけではカバーしきれない直近の出来事や新事実を、AWS環境内で安全に取得できる点が最大の特徴だ。

この機能は、Amazonが長年培ってきた検索インフラ上に構築されている。Alexa+やAmazon Quick、Kiroといった製品で実績のある基盤を活用し、WebインデックスとAmazon Knowledge Graphを組み合わせたマルチソースな根拠付けを実現する。検索クエリは外部APIプロバイダに送信されず、AWS環境内で完結するため、企業のガバナンス要件にも適合する。

本記事では、Bedrock AgentCore Web Searchの仕組み、料金体系、導入事例を詳しく解説する。

Web Search機能の概要と背景

Web Search機能の概要と背景

Bedrock AgentCoreの位置づけ

Amazon Bedrock AgentCoreは、AIエージェントの構築と運用を管理するフレームワークである。エージェントに必要なツールやデータソースとの接続をGatewayという仕組みで一元管理し、モデルの推論と外部機能の呼び出しを連携させる。今回発表されたWeb Searchは、AgentCore Gateway上で利用できる組み込みコネクタターゲットのひとつだ。

Web Searchが解決する課題

LLM(大規模言語モデル)は、学習時点のデータに基づいて回答を生成するため、つねに最新の情報を反映できるとは限らない。たとえば、企業の決算発表や法改正、製品アップデートなど、学習後に発生した出来事には対応できない。Web Searchを用いれば、エージェントがリアルタイムにWeb検索を実行し、得られたスニペットやURLを参照して回答を生成できる。回答には引用元が明示されるため、情報の信頼性をユーザーが確認しやすくなる。

仕組み:MCP接続とAmazon知識グラフによる根拠付け

仕組み:MCP接続とAmazon知識グラフによる根拠付け

MCP(Model Context Protocol)の役割

Web Searchは、MCP(Model Context Protocol)と呼ばれる標準プロトコルを介してAgentCore Gatewayに接続される。MCPを使うことで、エージェントは自然言語のクエリを送信し、関連性の高い検索結果(スニペット、URL、タイトル、公開日)を取得できる。GatewayがMCPターゲットとしてWeb Searchツールを仲介するため、開発者が個別に検索APIを実装する必要はない。

Amazon知識グラフとの統合

一般的なWeb検索に加え、Amazon Knowledge Graphの構造化データが検索結果に組み込まれる。これにより、単なるWebスニペットではカバーしきれない検証済みの事実情報をエージェントが参照できるようになる。AWSのブログ記事によれば、このマルチソースアプローチが従来のWeb検索だけに頼る場合と比較して、より的確な回答につながるとされている。

エージェントが回答を生成するまでの流れ

以下のデモは、ユーザーが質問してからエージェントが根拠付き回答を返すまでの一連のステップを図示したものだ。

STEP 1 ユーザーが自然言語で質問を送信
STEP 2 Bedrock AgentCore GatewayがMCP経由でWeb Searchツールを呼び出し
STEP 3 Amazonの検索基盤がWebインデックスと知識グラフを検索し、関連スニペットやURLを返す
STEP 4 AIエージェントが検索結果に基づいて回答を生成し、引用元を明示

STEP 3の段階でAmazon Knowledge Graphが活用される点が、単なるWeb検索を超えた信頼性につながる。エージェントは受け取った情報をそのまま返すのではなく、モデルが内容を推論した上で回答を構成するため、質問の文脈に合った自然な応答になる。

AWS環境内で閉じるセキュアなWeb検索の価値

AWS環境内で閉じるセキュアなWeb検索の価値

多くのAIエージェント向けWeb検索ソリューションでは、ユーザーのクエリやプロンプトが外部の検索APIプロバイダに送信される。これに対しBedrock AgentCoreのWeb Searchは、Amazon自身の検索インフラを使用するため、データがAWS環境の外に流出しない。これにより、機密性の高い業務データを扱う企業でも、ガバナンスやコンプライアンスの要件を満たしながらエージェントにWeb検索機能を組み込める。

従来の外部検索API利用(Before)
ユーザー クエリ送信 外部検索API
※データがAWS環境の外に送信されるリスク
Bedrock AgentCore Web Search(After)
VPC内のエージェント MCP経由で検索 Amazon検索基盤
※すべての通信がAWS内部で完結、外部へのデータ送信なし

AWSの説明によれば、この仕組みはAlexa+やKiroなどのプロダクトで培われた検索技術を基盤にしており、信頼性とスケーラビリティの両面で実績がある。ユーザーは外部の検索サービス契約やAPIキー管理を気にすることなく、AgentCoreの設定画面上でWeb Searchを有効化するだけで利用を開始できる。

料金体系と利用開始手順

料金体系と利用開始手順

料金詳細

Web Searchの料金は従量課金制で、エージェントが実行した検索クエリの数に応じて計算される。具体的には、1,000クエリあたり7ドルである。新規のAWS顧客には最大200ドル相当の無料利用枠も提供される。利用料はすべてAWSの請求に統合されるため、別途外部サービスへの支払い管理は不要だ。

セットアップ手順

Bedrock AgentCoreコンソール(us-east-1リージョン)にアクセスし、Gatewayを作成する。ターゲットの追加時に「MCP target」プロトコルと「Connectors」タイプを選択し、プリコンフィギュアされた「Web Search tool」を指定する。Gatewayの詳細ページに遷移すると、PythonやMCP Inspectorを用いた呼び出しコードのサンプルが表示されるため、これをコピーして自環境に組み込むだけで統合が完了する。

テスト用途であれば、MCP InspectorをGatewayのリソースURLに接続し、Web Searchツールにクエリを直接入力して動作を確認できる。実運用では、エージェントのプロンプト設計にWeb検索の呼び出しトリガーを組み込み、回答生成時に適宜検索が走るように構成することになる。

企業での活用事例

企業での活用事例

Benchling:科学研究の加速

ライフサイエンス分野のR&Dプラットフォームを提供するBenchlingは、早期アクセスを通じてWeb Searchを試験導入した。同社AIエージェント責任者Nicholas Larus-Stone氏によると、科学者が研究対象について質問すると、Benchling内の組織データと公開文献の両方に基づく回答が得られるようになったという。これにより、仮説生成の質が向上し、顧客のデータ管理ポリシーにも適合する安全な環境を維持できている。

Gen Digital:オンライン評判管理の強化

消費者向けセキュリティ製品を展開するGen Digital(Nortonブランド)は、Norton RevampというサービスにWeb Searchを組み込んだ。プロフェッショナルが自身のオンライン評判を構築する際、最新のトレンドや事実に基づいたコンテンツアイデアをエージェントが提案できるようになる。同社AI・イノベーション部門シニアディレクターIskander Sanchez-Rola氏は、すべてのクエリが信頼できるAWS環境内で処理される点を高く評価しているとコメントした。

いずれの事例でも、外部サービスを利用せずにAWS内で完結するセキュリティと、Amazon独自の検索インデックスによる高精度な情報取得が決め手となっている。

この記事のポイント

  • Amazon Bedrock AgentCoreでWeb Search機能が一般提供開始。MCP経由でWeb検索と知識グラフを統合し、エージェントの回答を最新情報で根拠づける
  • 検索クエリはAWS環境外に出ず、Amazonの検索インフラで処理されるため、データガバナンスとコンプライアンスに対応
  • 料金は1,000クエリあたり7ドルの従量課金。新規顧客向けに200ドル分の無料枠あり
  • BenchlingやGen Digitalなどの企業がすでに導入し、研究支援や評判管理の精度向上に活用している
  • us-east-1リージョンで利用可能。AgentCoreコンソールから数ステップで設定できる
ShinyHuntersが教育機関を標的に、Oracle PeopleSoft脆弱性を悪用

ShinyHuntersが教育機関を標的に、Oracle PeopleSoft脆弱性を悪用

CVE-2026-35273を悪用した大規模攻撃、教育機関が標的に

CVE-2026-35273を悪用した大規模攻撃、教育機関が標的に

2026年5月下旬から6月上旬にかけて、Oracle PeopleSoftの重大な脆弱性を悪用するサイバー攻撃が発生した。MandiantとGoogle Threat Intelligence Group(GTIG)の調査により、攻撃者はShinyHunters(UNC6240)として知られるグループであり、標的となったのは主に高等教育機関を含む世界中の組織だった。

攻撃の起点となったのはCVE-2026-35273だ。PeopleSoftのEnvironment Managementコンポーネントに存在するリモートコード実行の脆弱性で、CVSSスコアは最高レベルの9.8。この脆弱性は6月10日にOracleからセキュリティアラートが発表されるまでゼロデイとして悪用されていた。

この記事では、本攻撃キャンペーンの技術的な分析、攻撃者の手口、そして組織が今すぐ取るべき具体的な防御策について、技術に詳しい同僚のようにわかりやすく解説する。

従来の脅威アクターの手口
攻撃者 標的を偵察 攻撃者 脆弱性を悪用 攻撃者 個別サーバーで操作
※個別の侵害にとどまり、検知や追跡が比較的容易だった
ShinyHuntersの高度な手口
攻撃者 標的を偵察・初期侵入 C2サーバー MeshCentralエージェント配布 スクリプト 水平展開・データ窃取を自動化
※C2サーバーを中継点とし、大規模かつ組織的に攻撃を拡大する
攻撃者  中継(C2)サーバー  攻撃ツール・スクリプト

グローバル通知の試みと被害の実態

GTIGはスキャン活動と悪用を検知した後、潜在的に脆弱なエンドポイントを持つ100以上の組織に通知を行った。通知対象の大半は米国に拠点を置き、その68%が高等教育機関だった。一部の組織は脆弱性の修正に成功したが、多くの組織で侵害が確認され、窃取されたデータがShinyHuntersのデータリークサイトに公開される事態に至った。

攻撃の起点となったゼロデイ脆弱性

問題のCVE-2026-35273は、PeopleSoftのEnvironment Management Hub(EMHub)における重大な欠陥だ。この機能は管理者やシステム間コンポーネント向けであり、エンドユーザーが直接利用するものではない。しかし、認証なしでリモートからのコード実行が可能であることが攻撃成立の決定的な要因となった。

攻撃基盤の構築から内部偵察までの技術分析

攻撃基盤の構築から内部偵察までの技術分析

攻撃者の手口は、ステージングサーバーの構築から始まった。2026年5月27日、攻撃者はオープンソースのリモート管理ツールであるMeshCentralをインストールし、C2(コマンド&コントロール)環境を整えた。その際、正規のMicrosoft Azureサービスを装うドメイン「azurenetfiles.net」を取得し、SSL証明書まで自動化する念の入れようだ。

ステージングサーバーには、MeshCentralエージェントが配置された。エージェントのファイル名は「meshagent32-azure-ops.exe」など、正規のAzure運用エージェントに見せかけられていた。これらのエージェントは、攻撃者が自由に遠隔操作を行うためのバックドアとして機能する。

STEP 1 攻撃者がMeshCentralサーバーを構築し、C2環境を確立
STEP 2 PeopleSoftの脆弱性を悪用し、標的サーバーに偽装エージェントを配布
STEP 3 エージェントがC2サーバー「wss://azurenetfiles.net」に接続
STEP 4 攻撃者がメッシュ経由で遠隔操作、内部ネットワークを自由に探索

内部ネットワークの探索と情報収集

ステージングサーバーのコマンド履歴(.bash_history)からは、侵入後の詳細な偵察活動が明らかになった。攻撃者はmeshctrl.jsというMeshCentralのCLIツールを使い、侵害したマシン上で以下のようなコマンドを実行し、内部ネットワークの地図を作り出していた。

  • システムのホスト名やユーザーIDの確認
  • PeopleSoftのプロセススケジューラ設定ファイル(psappsrv.cfg)の解析による、マシン名とIPアドレスの抽出
  • ネットワークマウントの確認とPeopleSoft関連領域の特定
  • ローカルホストテーブル(/etc/hosts)を精査し、内部の全ノードをマッピング
  • WebLogicサーバーのXML設定ファイルからのアプリケーションサーバー情報の収集

これらの偵察は、後の水平展開を効率的に行うための下準備だ。まずは地図を描き、その後に攻撃を拡大するという、組織的な手口が浮かび上がる。

💻 偵察活動フェーズ
攻撃者 meshctrl.js で遠隔実行 標的ホスト コマンドを実行
設定ファイルの収集
psappsrv.cfg /etc/hosts config.xml
🔍 マウントポイントと内部IPのマッピング

水平展開の自動化スクリプトとデータ窃取の仕組み

水平展開の自動化スクリプトとデータ窃取の仕組み

攻撃の核心は、自走式の水平展開スクリプト「[victim_abbreviation]_fanout.sh」にある。このスクリプトは、偵察フェーズで収集した内部ホスト情報を基に、SSHの認証情報を総当たりで試行し、侵害範囲を一気に拡大するよう設計されている。

スクリプトは、特定の命名規則を持つホスト名を/etc/hostsから抽出し、事前にハードコードされた複数のユーザー名とパスワードのリストを使ってSSH接続を試みる。この手法はSSHクレデンシャル・スプレー攻撃と呼ばれるものだ。

攻撃が成功すると、スクリプトはPayloadとして「README-IF-YOU-SEE-THIS-YOUVE-BEEN-HACKED.TXT」というファイルを、WebLogicやプロセススケジューラのディレクトリに書き込む。これは単なる嫌がらせの証跡ではなく、被害組織に対する恐喝のマーカーとして機能した。

STEP 1 fanout.sh が /etc/hosts から内部ホスト一覧を取得
STEP 2 ハードコードされた ID・パスワードで SSH スプレー攻撃
STEP 3 接続成功ホストに恐喝マーカーファイルを配置
STEP 4 侵害範囲を可視化、最終的にデータを窃取・公開

データの流出とリークサイトへの接続

水平展開が完了した後、攻撃者は窃取したデータをzstdという高圧縮率のツールでアーカイブし、ステージングサーバー経由で外部へ持ち出した。一連のコマンド履歴の最後には、攻撃者のステージングサーバーから、ShinyHuntersのデータリークサイト公開ミラーをホストするIPアドレス「176.120.22.24」へのSSH接続が記録されていた。

この接続が、侵害された組織のデータが最終的にリークサイトで公開されるまでの一連の流れを決定づけた。実際に2026年6月9日には、複数の被害組織のデータが同サイト上に公開されている。

今すぐ取るべき具体的な防御策

今すぐ取るべき具体的な防御策

この脅威に対抗するため、GoogleとOracleの両方は、PeopleSoftを運用する組織に対し、以下の即時対応を強く推奨している。対策は、ネットワークの遮断、ログ監視、そしてホストレベルの監査という3つのレイヤーに分類できる。

ネットワークレベルでの緊急対応

最も即効性が高いのは、エンドポイントそのものへの外部からのアクセスを遮断することだ。具体的には、ファイアウォールや境界ネットワークで「/PSEMHUB/hub」と「/PSIGW/HttpListeningConnector」へのHTTP POSTリクエストを遮断する。これらのエンドポイントは一般ユーザー向けの機能ではないため、遮断による業務への影響はない。

WAF(Webアプリケーションファイアウォール)だけに頼るのは危険だ。ルールをすり抜けられる可能性があるため、あくまで補助的な対策と考えるべきだろう。

❌ 推奨されない対応
WAFの導入だけで済ませる → バイパスされるリスク大
パッチ適用を先延ばしにする → 侵害が進行する可能性
✅ 直ちに実施すべき対策
緊急対応: /PSEMHUB/* と /PSIGW/* への外部アクセスを遮断
恒久対応: Oracleの公式パッチを適用する
並行調査: フォレンジック監査を開始する

ログとエンドポイントの徹底監視

次に重要なのが、侵入口と内部活動の痕跡をログから探し出すことだ。WebLogicのアクセスログで「/PSEMHUB/hub」や「/PSIGW/HttpListeningConnector」へのPOSTリクエストを調査する。送信元が外部IPや信頼できないアドレスであれば要注意だ。

特に「/PSIGW/HttpListeningConnector」へのリクエストでは、SSRF(サーバーサイドリクエストフォージェリ)攻撃の兆候を探す。リクエストパラメータに「127.0.0.1」や「localhost」などのループバックアドレス、内部IPレンジが含まれていないか確認する必要がある。

さらに、ネットワークレベルでは、PeopleSoftサーバーから外部の不審な宛先へのSMB通信(TCPポート445)を監視する。これは攻撃チェーンの一環として、WindowsマシンのNetNTLMハッシュを窃取するために悪用される可能性があるためだ。

ホストレベルでのフォレンジック監査

最後に、侵害の有無を確定させるためのファイルシステム調査を行う。以下のディレクトリに、通常存在しないファイルやフォルダがないかを重点的にチェックする。

  • WebLogicのアプリケーションディレクトリ内の「PSEMHUB.war」配下に、未知のJSPファイル(WebShell)が生成されていないか
  • 「envmetadata/transactions/」ディレクトリに、不審なフォルダや攻撃者のツールがドロップされていないか
  • 「envmetadata/data/environment/」配下に、最近更新された怪しいXMLファイルがないか(XMLDecoderを介した永続化の可能性)

これらの調査により、攻撃者が仕掛けたバックドアや永続化の仕組みを特定し、再起動後も安全な状態を確保できる。

この記事のポイント

  • ShinyHuntersはCVE-2026-35273をゼロデイとして悪用し、100以上の組織を攻撃した。標的の68%は高等教育機関だった
  • 攻撃者は正規クラウドサービスを装う高度なC2インフラを構築し、MeshCentralを悪用して遠隔操作と水平展開を自動化した
  • スクリプトによるSSHスプレー攻撃で内部ネットワークに拡散し、最終的にデータを窃取。盗まれた情報はリークサイトで公開された
  • 防御の最優先事項は、使用していない管理用エンドポイントをネットワーク境界で遮断すること。これによりWAFバイパスのリスクを根本的に排除できる
  • 遮断と並行して、アクセスログの調査、SMB通信の監視、ファイルシステムのフォレンジック監査を速やかに実施する必要がある
AWS WAFがAIボット収益化機能を追加、コンテンツ所有者が課金可能に

AWS WAFがAIボット収益化機能を追加、コンテンツ所有者が課金可能に

AWSは2026年6月15日、AWS WAFにAIトラフィック収益化機能を追加した。コンテンツ所有者やパブリッシャーが、自社のWebコンテンツにアクセスするAIボットやAIエージェントに対して、ネットワークエッジで直接課金できるようになる。

AIボットによるWebトラフィックは、多くのコンテンツプロバイダーで全体の50%を超え、AI専用クローラーは前年比300%以上増加している。従来の検索エンジンクローラーはリンクを返すことで参照トラフィックをもたらすが、AIボットはコンテンツを要約してAIインターフェイス上で表示するため、元のサイトにはほとんどトラフィックが還元されない。その結果、コンテンツ提供者はインフラコストだけを負担し、広告収入や購読コンバージョンといった従来の収益源が得られない状況が続いていた。

今回の新機能は、このギャップを埋めるものだ。AWS WAF Bot Controlの仕組みを拡張し、コンテンツパスごと、ボットカテゴリごと、検証ティアごとにリクエスト単価を設定できる。また、ステーブルコインによる支払いをウォレットで受け取り、単一のダッシュボードで収益とボットアクティビティを追跡可能にする。

AIボット収益化の新機能がAWS WAFに追加された背景

AIボット収益化の新機能がAWS WAFに追加された背景

AIトラフィックの爆発的な増加

GPTBotやClaude-Web、Perplexity-BotといったAIクローラーは、学習用データやリアルタイム情報の収集のためにWebサイトを大量にクロールする。こうしたトラフィックは増加の一途をたどり、一部のコンテンツプロバイダーではAIボットが全リクエストの50%を超えるまでになっている。検索エンジンのクローラーとは異なり、AIボットはインデックスを生成する代わりにテキストを直接消費し、要約をAIチャット画面に表示する。そのため、元記事を読むための流入はほとんど発生しない。

従来のBot Controlでは限界があった理由

AWS WAF Bot Controlはこれまで、650種類以上のAIボットを検出し、ブロックまたはレート制限をかけることができた。しかし、ボットのトラフィックを完全に遮断するのではなく、課金して収益化したいというニーズは強く存在していた。コンテンツを無料で提供し続ければインフラコストがかさむ一方、単純にブロックすればAIサービスへの露出が途絶えてしまう。そこで、ボットにコンテンツ利用の対価を支払わせる仕組みが求められていた。

AIトラフィック収益化の仕組み

AIトラフィック収益化の仕組み

x402プロトコルとHTTP 402 Payment Required

今回の収益化機能の核は、x402というマシンツーマシン決済のオープンプロトコルだ。ルールに合致したAIボットからのリクエストに対し、AWS WAFはHTTP 402 Payment Requiredレスポンスを返す。このレスポンスボディには、コンテンツの価格(USDC建て)、受け入れ可能なブロックチェーンネットワーク(BaseやSolanaなど)、送金先ウォレットアドレス、支払いタイムアウトを含むJSON形式のプライスマニフェストが含まれる。これを受け取ったx402対応のエージェントランタイムは、自律的に署名付き支払い承認を提出し、AWS WAFがそれを検証したうえでコンテンツを提供するという流れだ。

ステーブルコイン決済の流れ

決済はステーブルコイン(USDC)で行われ、サードパーティのファシリテーターサービス(現在はCoinbaseのx402 Facilitator)がオンチェーン上の決済処理を支援する。Stripeによる直接アカウント決済やMachine Payments Protocol(MPP)への対応も近日中に予定されている。コンテンツ所有者は、AWS WAFの設定パネルでウォレットアドレスを指定するだけでよく、独自の決済インフラを構築する必要はない。また、AWS自体は決済手数料を徴収しない。

従来のAIボットアクセス(Before)
AIボット リクエスト送信 オリジンサーバー コンテンツを無料で返す
※インフラコストだけが発生し、コンテンツ利用の対価はゼロ
収益化後のAIボットアクセス(After)
AIボット リクエスト AWS WAF HTTP 402を返す
AIボット USDC支払いを実行 AWS WAF 支払い確認後コンテンツ提供
※リクエストごとに課金され、コンテンツ利用が正当化される

上記のように、収益化を有効にするとAIボットのアクセスが自動的に402レスポンスに切り替わり、支払いが完了したリクエストだけがコンテンツに到達する。コンテンツ所有者はアクセスを遮断する代わりに料金を設定し、ボットトラフィックを収益源に変えることができる。

収益化の設定手順

収益化の設定手順

プロテクションパックの作成

AIトラフィック収益化を使うには、まずAWS WAF Bot ControlをCommonまたはTargetedレベルで有効にしたうえで、プロテクションパック(Protection Pack)を作成する。プロテクションパックとは、どのコンテンツパスを収益化するか、各検証ティアにいくら課金するか、どの支払い方法を受け入れるかといったポリシーをまとめた設定単位だ。AWSマネジメントコンソールで「WAF & Shield」を開き、「Protection packs (web ACLs)」から作成を開始する。

作成時にアプリカテゴリ(コンテンツ・パブリッシングシステム、Eコマースなど)を選択し、保護対象のリソース(CloudFrontディストリビューション)をひも付ける。推奨ルールパッケージが提示されるが、個別のルールを選ぶことも可能だ。プロテクションパックを作成したら、必要に応じて価格帯や支払い方法、コンテンツ範囲、ライセンス条項をカスタマイズする。

収益化ルールの設定

プロテクションパックを選び、「Configure AI monetization」から検証ティアごとにアクションを割り当てる。アクションは6種類ある。Monetize(402を返し課金)、Allow(無料アクセス許可)、Block(完全遮断)、Count(課金せずログだけ記録)、CAPTCHA(人間の確認)、Challenge(ブラウザかどうかのサイレントチェック)だ。Monetizeを選択すると、支払い決済用のブロックチェーンネットワーク(BaseやSolanaなど)を指定し、ウォレットアドレスとUSDC建てのページ単価を設定する。

Monetizeアクションは、Amazon CloudFrontディストリビューションに関連付けられたWeb ACLでのみサポートされる。リージョナルWeb ACLでは使えない点に注意が必要だ。また、本番投入前にテストモード(Currency modeをTestに切り替え)で、テストネット(Base SepoliaやSolana Devnet)を使った検証が可能となっている。テストモードでも実際の402レスポンスと支払いフローが再現され、すべてのイベントにCurrencyMode: TESTのログが付与される。

STEP 1 AIボットがコンテンツを要求
AWS WAFがリクエストをBot Controlで分類
STEP 2 Monetizeルールに合致 → HTTP 402返却
レスポンスにUSDC価格、ウォレットアドレスを含むJSONマニフェスト
STEP 3 AIエージェントが支払い承認を提出
x402対応ランタイムが自律的に署名付きトランザクションを送信
STEP 4 AWS WAFが決済を検証しコンテンツを返送
Coinbase x402 Facilitator等がオンチェーン決済を確定

この一連の流れは、サイトのオリジンサーバーに一切手を加えることなく、AWS WAFのエッジで完結する。コンテンツ提供者はアプリケーションコードを修正する必要がないため、既存のWebサイトに迅速に収益化機能を追加できる。

AIトラフィック分析ダッシュボードと収益トラッキング

AIトラフィック分析ダッシュボードと収益トラッキング

価格設定を最適化するためのAIトラフィック分析ダッシュボードも提供される。プロテクションパックを選択すると、ボットリクエスト全体、AIボットリクエスト、検証済みAIトラフィック、未検証AIトラフィックの4カテゴリに分けてトラフィックを可視化する。帯域幅の消費量、推定月間コスト、ピークリクエストレートといったインフラ影響指標も表示され、パスごとのヒートマップで時間帯別のAIボット集中度がわかる。

Currency modeをRealに切り替えると、「AI access monetization」ダッシュボードで実際の収益をリアルタイムに追跡可能だ。総収益、検証済みボットと未検証ボットの内訳、リクエストあたりの平均単価が表示され、上位の収益ソースやコンテンツパス別の収益ランキングも確認できる。Settlementsタブでは決済プロバイダーごとの精算状況や支払い失敗の分析も行える。

導入のポイントと今後の展望

導入のポイントと今後の展望

この機能は、CloudFrontを利用するすべてのAWS WAFユーザーに対して追加料金なしで提供される。ただし、Monetizeを適用できるのはCloudFrontディストリビューションに関連付けたWeb ACLのみである点は押さえておきたい。また、テストモードを活用して本番適用前に価格設定やウォレット設定、x402フローを十分に検証することが推奨される。

今後、Stripeの直接アカウント決済やMPPに対応することで、より多様な支払い手段が利用可能になる見通しだ。AIボットのトラフィックが増え続ける中、コンテンツの価値を適切に回収する仕組みとして、この収益化機能は重要な選択肢となる。自社サイトへのAIクローラーの影響を分析している企業は、まずBot Controlのダッシュボードでトラフィックの可視化から始め、段階的に収益化を検討するのが良いだろう。

この記事のポイント

  • AWS WAFにAIボット向け課金機能が追加され、HTTP 402とx402プロトコルでマシンツーマシン決済を実現
  • コンテンツパスや検証ティアごとにリクエスト単価を設定でき、ステーブルコインで収益を受け取れる
  • 設定はプロテクションパック単位で行い、CloudFront環境のエッジで自律的に課金とコンテンツ配信が完結
  • AIトラフィック分析ダッシュボードでコストと収益を可視化し、価格設定を最適化できる
  • テストネットを使った検証モードがあり、本番適用前にリスクを評価可能
AWS Graviton5搭載EC2 M9g/M9gdがGA。汎用インスタンス性能限界突破の全容

AWS Graviton5搭載EC2 M9g/M9gdがGA。汎用インスタンス性能限界突破の全容

AWSが2026年6月10日、Graviton5プロセッサを搭載したEC2 M9gおよびM9gdインスタンスの一般提供を開始した。Armアーキテクチャベースの第5世代カスタムシリコンであり、前世代比で最大25%の計算性能向上を実現したとされている。

2025年末のプレビュー公開から半年、ClickHouseやHoneycombといった企業が実運用環境で検証を重ね、コード変更ゼロで36%の性能向上を確認している。HubSpotではMySQLデータベースのクエリ処理時間が最大60%短縮されたとの報告もある。

Arm系インスタンスはこれまでも存在したが、192コア、5倍のL3キャッシュ、DDR5-8800対応メモリを搭載したGraviton5は次元が異なる。本記事ではM9g/M9gdの技術的進化と、それがビジネスにどう影響するかを具体的に解説する。

Graviton5とは何か。5世代の進化がもたらしたもの

AWSのGravitonプロセッサは、Armアーキテクチャを採用したAWS独自設計のカスタムシリコンだ。第1世代が登場したのは2018年。以来8年にわたり継続的に投資が続けられ、現在では350以上のインスタンスタイプがGravitonで稼働している。

Arm系クラウドインスタンスの現在地

Armアーキテクチャとは、スマートフォンやタブレットで広く使われている省電力設計のCPU命令セットだ。これに対し、従来のサーバCPUの多くはx86アーキテクチャ(IntelやAMDが採用)で動作していた。Armは消費電力あたりの処理効率に優れており、クラウドの大規模データセンターで電気代を抑えつつ高性能を発揮できる点が評価されている。

AWS広報情報によれば、現在12万以上の顧客がGravitonを採用。スタートアップから大企業まで幅広く、Webアプリケーション、マイクロサービス、データベース、機械学習推論、ゲームサーバ、動画エンコーディングなど多様な用途で使われている。x86依存の強い従来のクラウド常識を、Armが着実に塗り替えつつある。

従来のクラウド選択肢(5年前)
x86系 Intel / AMD がほぼ独占
※Armは選択肢として存在せず
現在のクラウド選択肢(Graviton5登場後)
x86系 従来通り利用可
Arm系 Graviton5 で性能・省電力両立

クラウドインスタンスの選択肢は、この5年で一変した。Armはもはや「実験的な選択肢」ではなく、x86と並ぶ本流の一つとして位置づけられる。特にGraviton5では、その傾向がさらに加速するだろう。

Graviton5が前世代から飛躍した3つの要素

Graviton5の改良点を、AWS公式発表から整理する。最も注目すべきは次の3つだ。

  • 計算性能の大幅向上:Graviton4比で最大25%の計算性能向上。Webアプリケーションで最大35%、機械学習推論で最大35%、データベースで最大30%の高速化が実測されている
  • 5倍のL3キャッシュ:CPUが頻繁にアクセスするデータを一時保存する高速メモリ領域が前世代比5倍に拡大。コア間のデータ待ち時間が最大33%削減された
  • DDR5-8800メモリとPCIe Gen6対応:クラウド上のプロセッサインスタンスとして最速水準のメモリ帯域幅を実現。PCIe Gen6はGen5比でデータ転送速度が2倍となり、NVMeストレージや高速ネットワークとの連携性能が飛躍的に伸びる

L3キャッシュの増量は、単なる数値スペックの向上ではない。CPUは計算のたびにメインメモリまでデータを取りに行くと時間がかかる。L3キャッシュが大きければ近くにデータを置けるため、処理待ちが減り、結果として体感性能が大きく向上する仕組みだ。

実際にAWSの広報記事で紹介された顧客事例では、ClickHouseがコード変更なしでM8g比36%の性能向上を達成。Honeycombは6カ月にわたるA/Bテストで、コアあたりのスループットが36%向上したと報告している。これらの数字は、CPUそのものの改良がアプリケーションレベルで直接的な効果を生むことを示している。

M9g/M9gdのラインアップと性能スペック

インスタンスサイズと性能の詳細

M9gは汎用用途向けで、1vCPUあたり4GiBのメモリ比率を採用している。M9gdはこれに加え、高速ローカルNVMe SSDストレージを搭載したバリエーションだ。ラインアップは1vCPUの小規模構成から、192vCPU・768GiBメモリの大規模構成まで幅広く用意されている。

M9g 汎用タイプ
1〜192 vCPU 4〜768 GiB RAM 最大100 Gbps NW
Webアプリ、マイクロサービス、コンテナ、Java大規模アプリに好適
M9gd ローカルNVMe搭載タイプ
1〜192 vCPU 59GB〜11.4TB SSD IOPS 30%向上
キャッシュ、メディア処理、バッチ処理、一時ストレージ用途に好適

最大サイズの48xlarge(192vCPU)では、ネットワーク帯域が100Gbpsに達する。前世代比で最大2倍の帯域幅になっており、大量のデータを扱うデータベースやログ処理基盤での効果が特に大きい。

IBC(Instance Bandwidth Configuration)の実用性

M9g/M9gdでは、IBC(インスタンス帯域幅設定)と呼ばれる新機能が利用可能になった。これはEBS(永続ストレージ)とVPCネットワーク間で、帯域幅の配分を最大25%調整できる仕組みだ。

IBC未使用時(デフォルト配分)
EBS帯域 50%
データベース書き込み速度が制限される
VPC帯域 50%
ネットワーク通信には十分
IBC使用時(DB重視に調整、最大25%シフト)
EBS帯域 62.5%
データベース書き込みが高速化
VPC帯域 37.5%
ネットワーク通信には依然十分

たとえばデータベースサーバではEBSへの書き込み性能がボトルネックになりやすい。IBCを使えばEBS側に帯域を多めに割り当て、クエリ処理やログ書き込みを高速化できる。ネットワーク通信が少ないバッチ処理やキャッシュサーバでも有効だ。

Nitro Isolation Engineが実現する「数学的に証明されたセキュリティ」

Graviton5と同時に発表された技術の中で、最も静かでありながら最も革新的なものがNitro Isolation Engineだ。聞き慣れない用語だが、クラウドセキュリティの考え方を根本から変える可能性がある。

形式検証(Formal Verification)とは何か

通常、ソフトウェアのセキュリティは「テスト」で検証する。攻撃パターンを想定し、実際に動かして問題がないかを確認する手法だ。しかしこの方法では、想定外の攻撃や未知の脆弱性を見逃すリスクが常に残る。

形式検証(Formal Verification)はこれとは根本的に異なる。数学の定理証明と同じアプローチで、「このシステムは絶対に想定外の動作をしない」ことを数理的に証明する技術だ。特定のテストケースだけでなく、あらゆる入力パターンで期待通りに動作することを保証する。

AWSによれば、Nitro Isolation Engineはこの形式検証を適用したクラウドハイパーバイザーとして業界初の事例となる。ハイパーバイザーとは、1台の物理サーバ上で複数の仮想マシンを安全に隔離する基盤ソフトウェアだ。この隔離機能が破られると、他の顧客のデータにアクセスされる重大なセキュリティ事故につながる。Nitro Isolation Engineは、その隔離が破られる可能性を数学的にゼロにする設計となっている。

従来のセキュリティ検証 対 形式検証
従来のテストベース検証
「考えられる攻撃」を列挙し、それらが失敗することを確認。想定外の攻撃は見逃す可能性あり
形式検証(Nitro Isolation Engine)
数学的に「あらゆる入力・あらゆる状況で隔離が破れない」ことを証明。未知の攻撃にも原理的に耐性

この技術は金融機関や医療機関など、厳格なデータ保護が求められる業界にとって特に重要な意味を持つ。セキュリティ監査のレベルが一段引き上げられることになるからだ。なおNitro Isolation EngineはM9g/M9gd専用の機能であり、既存のインスタンスタイプには搭載されない。

エージェントAI時代のCPU需要とGraviton5の位置づけ

AIが「考える」から「行動する」へのシフト

ここ数年、AIの進化は大規模言語モデル(LLM)のテキスト生成能力に注目が集まってきた。しかし現在、AIの主戦場は「質問に答える」から「行動を実行する」へと急速に移行している。いわゆるエージェントAIと呼ばれる分野だ。

エージェントAIとは、ユーザーの指示に対して、コードを実行し、ツールを使い、結果を評価し、複数ステップのタスクを自律的に組み立てるAIシステムを指す。たとえば「今月の売上データを分析してグラフ化し、経営陣向けのサマリをSlackに投稿して」という指示に対し、AIがデータベースに接続し、集計処理を実行し、グラフを生成し、メッセージを送信する一連の流れを自律的に処理する。

このような処理は、GPUなどのアクセラレータだけで完結しない。指示の解釈、コードのコンパイル、データベースクエリの実行、APIの呼び出しなど、CPUに依存する処理が大量に発生する。AWSの広報記事で、MetaがエージェントAI基盤として数千万コア規模のGravitonを導入していると報告されているのは、このトレンドを象徴している。

エージェントAIの処理フローとCPU需要
STEP 1 ユーザー指示の解釈
自然言語の解析、意図の抽出。CPUが実行
STEP 2 コード生成と実行
PythonやSQLのコードを生成し、実際に実行。CPU負荷が高い
STEP 3 ツール操作と結果評価
API呼び出し、データベース接続、結果の検証。並列処理が発生

エージェントAIが実用段階に入るにつれ、クラウド上のCPU需要はむしろ増大する。Graviton5が192コアという高密度設計を採用したのは、こうした並列処理ニーズを先取りしたものといえる。

Web開発者にとっての実務的意味

中小企業のWeb担当者や個人事業主にとって、「エージェントAI」や「192コア」という言葉は遠い世界に感じられるかもしれない。しかし実際には、以下のような形でM9gの恩恵は身近な領域に及ぶ。

  • MySQL/PostgreSQLの応答速度向上:HubSpotの事例ではクエリ時間が最大60%短縮。WordPressサイトやECサイトのデータベース応答が高速化する可能性がある
  • コスト効率の改善:Graviton5はGraviton4比でエネルギー効率も向上。同じ処理をより少ない電力で実行できるため、ランニングコストの削減につながる
  • セキュリティの底上げ:Nitro Isolation Engineによる隔離保証は、顧客データを扱うあらゆるサービスに恩恵がある

重要なのは、これらの恩恵がコード変更ゼロで得られるケースが多い点だ。ClickHouseやHoneycombの報告にあるように、Armネイティブ対応が済んでいるアプリケーションであれば、インスタンスタイプをM8gからM9gに変更するだけで性能向上が見込める。

M9g/M9gdへの移行を検討する際の実践ステップ

Graviton5インスタンスの利用を始めるには、いくつかの準備と確認が必要だ。AWS公式が提供する移行ガイドやツールを活用すれば、想定よりスムーズに移行できる。

Arm対応状況の確認と移行パス

最初に行うべきは、現在稼働中のアプリケーションがArmアーキテクチャに対応しているかの確認だ。Java、Python、Node.js、Go、PHPなど主要な言語ランタイムはすでにArm対応が完了している。ただし、x86固有のアセンブリコードを含むC/C++プログラムや、特定のx86向けバイナリに依存しているアプリケーションでは注意が必要になる。

Graviton移行の3ステップ
ステップ1:対応状況の確認
言語ランタイム、依存ライブラリ、DockerイメージがArm対応か確認。AWS公式のGetting Started Guideを参照
ステップ2:テスト環境での検証
小規模なM9gインスタンスでワークロードを試験運用。性能と安定性を確認
ステップ3:本番移行とコスト最適化
Savings Plansの活用、Graviton Savings Dashboardでのコスト効果測定を並行実施

Javaアプリケーションの場合、AWSが提供する「AWS Transform」というAI支援サービスが利用できる。x86用にコンパイルされたJavaアプリケーションをArm向けに自動変換し、互換性分析や依存関係の更新まで処理するツールだ。コードの書き換えが必要なケースでも、変換作業の多くを自動化できる。

コスト面の評価ポイント

M9g/M9gdは、Savings Plans、オンデマンド、スポットインスタンス、Dedicated Hostsのいずれでも購入可能だ。一般にGraviton系インスタンスはx86系より低価格に設定されており、さらにSavings Plansを組み合わせることで長期利用時のコストを大幅に抑えられる。

AWS公式が提供する「Graviton Savings Dashboard」を使えば、Graviton移行によるコスト削減効果を可視化できる。費用対効果を数字で把握しながら、段階的に移行を進めるのが実務的なアプローチだ。

この記事のポイント

  • AWS Graviton5搭載M9g/M9gdが一般提供開始。前世代Graviton4比で最大25%の計算性能向上
  • ClickHouseで36%、HubSpotのMySQLクエリで最大60%の高速化を実測。コード変更不要のケースが多い
  • Nitro Isolation Engineにより、形式検証を用いた数学的に証明されたVM隔離をクラウドで初めて実現
  • エージェントAIの普及でCPU需要が急増する中、192コアの高密度設計が新たな計算基盤として台頭
  • 移行にはArm対応状況の確認から段階的に進めるのが安全。AWS TransformやSavings Dashboardが支援ツールとして利用可能
Claude Fable 5がGoogle Cloudで一般提供開始。エージェント構築の新たな基盤を考察

Claude Fable 5がGoogle Cloudで一般提供開始。エージェント構築の新たな基盤を考察

Anthropicの最新モデル「Claude Fable 5」が、Google Cloud上で一般提供を開始した。このモデルは複雑な多段階推論や高度なコード生成を得意とし、長期間にわたって自律的に動作するエージェントの構築に適している。クラウドAIの基盤に何が起きているのかを読み解く。

Claude Fable 5の登場とその戦略的な位置付け

Anthropicのモデル群には、Haiku(軽量高速)、Sonnet(バランス)、Opus(超高性能)がある。今回登場したFableシリーズは、これらのニックネームとは明らかに異なる文脈を持つ。筆者の見解では、Fableは「物語(ストーリー)の生成」、つまり長文脈の一貫性維持や、複雑なオーケストレーションを必要とするエージェントタスクに特化した系統と位置付けられる。

このモデルは単に速度や知識量を競うだけでなく、「どれだけ複雑な仕事を最後までやり遂げられるか」を重視している。特に、長期稼働エージェントとしての使用が強く想定されている点が、他のモデルとの差別化要因だ。

Anthropic モデルラインナップの想定マッピング
Haiku 軽量・高速 Sonnet 標準・高品質 Opus 超高性能
特化型 Fable 5
長文脈の一貫性、複雑なオーケストレーション、長期稼働エージェントに特化
長文脈の一貫性 高度なコード生成 マルチモーダル分析

Fable 5は、単発のレスポンスを返すだけではない。途中で文脈を見失ったり、指示を忘れたりする問題を大幅に低減し、ソフトウェア開発や分析業務といった長時間の集中を要するタスクで真価を発揮する。

Fable 5の主要な能力と想定されるユースケース

Fable 5の主要な能力と想定されるユースケース

Google Cloudの公式発表とAnthropicのリリースノートから、Fable 5の中核的な機能強化点を読み解くと、以下の3つに集約される。

複雑な多段階推論と高度なコード生成

Fable 5は、数学的推論やコード生成ベンチマークで大幅な性能向上を達成している。これは単にコードを出力するだけでなく、既存のリポジトリ全体を理解し、アーキテクチャレベルの提案ができることを示す。典型的な「次のトークン予測」を超え、人間のソフトウェアアーキテクトのように数手先を読む能力が強化された。

長期稼働エージェントの実現

多くのLLMは文脈が長くなると応答精度が落ちる。Fable 5は「長時間にわたって自律的にツールを使い、タスクを完了させる」というエージェント動作に最適化されている。カスタマーサポートの自動化、継続的なデータ収集、IT運用の自動化など、数時間から数日単位で動くAIエージェント基盤として機能する。

深いマルチモーダル文書分析

テキストだけでなく、PDF内のグラフ、パワーポイントの図表、画像内のテキストまでを横断的に理解する能力が向上した。これにより、企業内に散在する非構造化データの分析ハードルが大幅に下がる。数百ページの契約書や仕様書を読み込ませ、瞬時に要約や矛盾点の洗い出しを行うといった使い方が視野に入る。

Fable 5 能力のハイライト
🧠
多段階推論
複数の手順を踏む複雑な問題解決
⚙️
コード生成
リポジトリ全体の理解とアーキテクチャ提案
📊
文書分析
非構造化文書の横断的な解析
想定されるインパクト 「AIに任せる」から「AIがやり遂げる」へのパラダイムシフト

これらの能力は、もはや「優秀なアシスタント」ではなく「自立したチームメンバー」という表現が近い。開発現場ではコードレビューを完全自動化し、法務部門では契約書の精査を任せられる。人間が最終判断する仕事の質とスピードが、根本から変わる可能性をはらんでいる。

Google CloudのAgent Platformがもたらす実用性

Google CloudのAgent Platformがもたらす実用性

モデル単体の性能もさることながら、今回の発表で注目すべきはGoogle Cloudの「Agent Platform」上で提供される点だ。これは単なるAPIゲートウェイではない。エージェントの構築、テスト、デプロイ、監視までを垂直統合した基盤である。

具体的には、Googleが持つエンタープライズグレードのセキュリティ(IAM、VPC Service Controls)、Vertex AIのMLOps機能(モデル評価、メタデータ管理)、そしてCloud RunやBigQueryといった周辺サービスとの統合がシームレスに行える。Fable 5のような高度なモデルを「安全に」「堅牢に」本番環境で動かすために必要なピースがあらかじめ揃っている。

Google Cloud Agent Platform の構成概念図
ユーザー Agent Platform Claude Fable 5
ツール実行 BigQuery Cloud Run 外部API
開発者・利用者  エージェント基盤  推論エンジン  データ・サービス連携

ここで重要なのは、強力なモデルを手に入れることと、それをビジネスで使いこなすことの間にあるギャップが、Agent Platformによって埋められる点だ。認証基盤や監査ログが整っていない状態でAIエージェントに重要な業務を任せることは難しい。Google Cloudのプレゼンスは、企業のAI導入における「最後の1マイル」を解決する。

開発者が今日から試すべき3つのアプローチ

Fable 5とAgent Platformが利用可能になったことで、Web制作やシステム開発の現場で即座に試せる実験領域が広がった。筆者の視点から、特に費用対効果が高いと想定される3つのシナリオを提示する。

コードレビューの完全自動化プロトタイプ

GitHub連携をトリガーに、Fable 5がPull Request全体を解析する。コーディング規約のチェックだけでなく、コードの脆弱性、パフォーマンス劣化リスク、過去の類似実装との矛盾点までを自然言語でレビューコメントする。人間のレビューアは、Fable 5が出した指摘が正しいかどうかの最終判断だけに集中できる。

非構造化ドキュメントのデータベース化

クライアントから提供された古い仕様書のPDF、競合分析のスライド、展示会で撮影したホワイトボードの写真などをまとめてFable 5に投入する。モデルはこれらを横断的に解析し、共通する要求定義や矛盾する記述を抽出して構造化データとして出力する。データベースに格納することで、後続の検索やレポート作成が自動化される。

社内向け「なんでも調査エージェント」の起案

定型的なリサーチ業務をエージェント化する。例えば「3ヶ月以内に更新された特定分野の法改正情報を、週次で一覧化してSlackに投げる」といったタスクをFable 5に任せる。モデルが自律的にGoogle検索や社内Wikiを巡回し、複数ステップの推論を経て最終的なサマリーを生成するPoCは、数日あれば構築可能だ。

従来のコードレビュー運用(Before)
1. 開発者がPRを作成
2. レビューアがコード全体を確認(30分〜)
3. 見落とし・属人的な指摘に依存
4. 過去の知見が活かされない
Claude Fable 5 導入後のフロー(After)
1. 開発者がPRを作成
2. Fable 5が10秒で脆弱性・規約・矛盾を指摘
3. 人間のレビューアは「AIの指摘が正しいか」を判断
4. 企業全体のナレッジが常にレビューに反映される

このアプローチによって、人間の工数は「クリエイティブな問題解決」と「AIの提案に対する最終的な意思決定」に集中できるようになる。

この記事のポイント

  • Anthropicの最新モデルClaude Fable 5は、複雑な推論と長期稼働エージェントに特化してGoogle Cloud上で一般提供が開始された
  • 高いコード生成能力と深いマルチモーダル分析を持ち、単なるテキスト生成を超えたタスクの自動化が可能になった
  • Google CloudのAgent Platformとの統合により、エンタープライズレベルのセキュリティと運用基盤が整備されている
  • 人間はAIの最終判断に集中する働き方へシフトするため、コードレビューや文書分析のプロトタイプを早期に試す価値がある