
Cloudflare Organizationsベータ版登場!複数アカウントの一元管理とセキュリティ強化の全容
Cloudflare(クラウドフレア)は、大規模なエンタープライズ企業が自社のインフラをより効率的に管理するための新機能「Cloudflare Organizations(クラウドフレア・オーガニゼーションズ)」をベータ版として公開した。この機能は、これまで独立していた複数のCloudflareアカウントを一つの「組織」としてまとめ、一元的な管理を可能にするものだ。
大規模な組織では、数千人規模のユーザーが開発やセキュリティ、ネットワークなどの多岐にわたる業務でCloudflareを利用している。今回のアップデートにより、管理者は個別のログインや設定の繰り返しから解放され、組織全体のアナリティクスやポリシーを一括で制御できるようになる。
なぜこの機能が重要なのか。それは、セキュリティの鉄則である「最小権限の原則」を維持しながら、管理の複雑さを劇的に解消できるからだ。本記事では、Cloudflare Organizationsがもたらす変化とその技術的な背景を詳しく解説していく。
Cloudflare Organizationsが解決する大規模運用の課題

多くのエンタープライズ企業は、セキュリティを担保するために複数のCloudflareアカウントを使い分けている。これは、特定のチームに必要以上の権限を与えないための「最小権限の原則(Principle of Least Privilege)」に基づいた運用だ。
複数アカウントによる管理の断片化
最小権限の原則とは、ユーザーに業務遂行に必要な最小限のアクセス権だけを与える考え方だ。例えば、マーケティングチームが管理する特設サイトの設定と、基幹システムのネットワーク設定は、異なるアカウントで管理するのが望ましい。これにより、万が一ひとつのアカウントが侵害されても、被害を限定的に抑えられるからだ。
しかし、この運用には大きなデメリットがあった。管理者はすべてのアカウントに個別にアクセスし、権限を設定しなければならない。アカウントが増えるほど管理は「断片化」し、誰がどのアカウントに対してどのような権限を持っているのかを把握することが困難になっていたのだ。
運用の煩雑さとヒューマンエラーのリスク
従来、全社的なセキュリティレポートを作成する場合、管理者は各アカウントにログインして個別にデータを収集する必要があった。また、共通のセキュリティポリシーを適用する際も、アカウントごとに同じ設定を手動で繰り返す必要があり、これが設定ミスや漏れといったヒューマンエラーの原因となっていた。
Cloudflare Organizationsは、こうした「セキュリティのためのアカウント分割」が生み出した管理コストを削減するために設計されている。アカウントの独立性を保ったまま、管理レイヤーだけを統合する仕組みだ。
■ アカウントB(本番用)→ 個別にログイン
■ アカウントC(外部用)→ 個別にログイン
※管理者がバラバラに管理する必要がある
├ ■ アカウントB
└ ■ アカウントC
このデモは、Organizationsがアカウントの階層構造をどのように整理するかを視覚化したものだ。
Organizationsの主要機能と新しい管理ロール

Cloudflare Organizationsの導入により、新しい管理権限の仕組みが導入された。その中心となるのが「Org Super Administrator(組織スーパー管理者)」というロールだ。
「Org Super Administrator」の役割
これまで、管理者は各アカウントの「Super Administrator」として登録される必要があった。しかし、Organizationsでは組織レベルで管理者を任命できる。この組織スーパー管理者は、組織に紐づけられたすべてのアカウントに対して、自動的に最高権限を持つことになる。
特筆すべきは、この管理者が個別のアカウントのユーザーリストに表示されない点だ。これにより、アカウント内の一般ユーザーが誤って管理者を削除してしまうといった事故を防ぐことができる。また、新しくアカウントが組織に追加された際も、管理者は即座にそのアカウントを制御できるため、オンボーディングのスピードが向上する。
複数アカウントを横断するダッシュボード
Organizationsのもう一つの大きな特徴は、アカウントを跨いだ情報の集約だ。ベータ版ではまず、HTTPトラフィックのアナリティクスが提供される。これにより、組織全体のトラフィック傾向や、特定のドメインでの異常なアクセス増加を一つの画面で監視できるようになった。
今後は、監査ログ(Audit Logs)や請求レポート(Billing Reports)も組織レベルで統合される予定だ。これにより、誰がいつ、どのアカウントで設定を変更したのかを組織全体で追跡できるようになり、コンプライアンスの強化にもつながる。
セキュリティと効率を両立する共有ポリシー

エンタープライズ企業にとって、セキュリティ基準を社内全体で統一することは至上命題だ。Cloudflare Organizationsは、この課題に対して「共有ポリシー」という強力な解決策を提示している。
WAFやGatewayポリシーの一括適用
これまでは、WAF(Web Application Firewall / ウェブアプリケーションファイアウォール)のルールを更新する場合、各アカウントにログインして同じ作業を繰り返す必要があった。しかし、Organizationsでは、特定のアカウントで作成したポリシーセットを、組織内の他のアカウントへ共有できる。
例えば、セキュリティ専門チームが管理する「マスターアカウント」で最新の脆弱性対策ルールを作成し、それを全社のアカウントに一括で適用するといった運用が可能になる。これにより、セキュリティレベルのばらつきをなくし、全社的な防御力を底上げできる。
この仕組みにより、各チームの担当者は自前で複雑なセキュリティ設定を行う必要がなくなり、本来の開発業務に集中できるようになる。
開発の舞台裏とパフォーマンスの改善

このOrganizations機能の実現は、Cloudflareの内部システムにおける大規模な刷新の結果でもある。Cloudflareのチームは、これを単なる新機能の追加ではなく、システム基盤の再構築として取り組んだ。
13万行のコード刷新とインナーソース開発
開発にあたっては「インナーソース(Innersource)」という手法が採用された。これは、オープンソースの開発手法を社内のプロジェクトに適用するものだ。このプロジェクトでは、約133,000行の新しいコードが追加され、32,000行の古いコードが削除された。Cloudflareの権限システム史上、最大級の変更となったという。
この刷新の目的は、古いコードパスを排除し、すべての認可チェックを「ドメインスコープのロールシステム」に集約することだ。これにより、将来的に新しいロールや機能をより迅速にリリースできる強固な土台が完成した。
権限チェック速度が27%向上
この基盤刷新は、ユーザー体験にも直接的なメリットをもたらしている。特に、数千ものアカウントやゾーン(ドメイン)にアクセス権を持つパワーユーザーにおいて、アカウント一覧やゾーン一覧の表示速度が課題となっていた。今回の最適化により、権限チェックのパフォーマンスが27%向上し、大規模環境での管理画面のレスポンスが大幅に改善された。
Organizationsの導入方法と今後の展望

Cloudflare Organizationsは、まずエンタープライズプランの顧客を対象にパブリックベータとして公開されている。今後数ヶ月以内に、Pay-as-you-go(従量課金)プランを含むすべての顧客に拡大される予定だ。
安全な移行プロセス
導入はセルフサービス形式で行われる。エンタープライズアカウントのスーパー管理者であれば、ダッシュボードに招待が表示される仕組みだ。Cloudflare側が勝手に組織を作成することはない。これは、意図しない権限昇格を防ぐための配慮だ。
もし社内の別のユーザーがすでに組織を作成している場合は、そのユーザーから招待を受けるか、自分を組織の管理者として追加してもらう必要がある。このプロセスにより、どのアカウントを組織に含めるかを、各アカウントの管理者が明示的に承認する形が維持されている。
ロードマップに並ぶ強力な機能
Organizationsは、今後一年をかけてさらに進化する予定だ。現在公開されているロードマップには以下の項目が含まれている。
- 組織レベルの監査ログ(Audit Logs)
- 組織レベルの請求レポート
- より詳細なアナリティクスレポートの拡充
- 組織レイヤーでの追加ユーザーロール
- セルフサービスによる新規アカウント作成
独自の分析:なぜ今、Cloudflareは「組織」単位の管理に注力するのか

今回のアップデートは、Cloudflareが単なる「CDNベンダー」から、企業の「統合ネットワークインフラ」へと完全に脱皮したことを象徴している。かつてCloudflareは、個々のドメインを高速化・保護するためのツールだった。しかし現在、企業はアイデンティティ管理(Zero Trust)やサーバーレス開発(Workers)など、ビジネスの根幹をCloudflare上で動かしている。
利用範囲が広がれば、当然ながら管理する単位はドメインから「組織」へとシフトする。Organizationsの導入は、AWS(Amazon Web Services)が「AWS Organizations」を導入した際と同様の進化のプロセスと言えるだろう。
特に、WAFポリシーの共有機能は、セキュリティの民主化を加速させる可能性がある。高度なスキルを持つ中央のセキュリティチームが作成した「盾」を、全社の開発チームが意識することなく利用できる。この「ガードレール」としての役割こそが、現代のプラットフォームエンジニアリングが目指す姿だ。Cloudflareは今回の基盤刷新により、その理想を実現するための強力な武器を手に入れたと言える。
この記事のポイント
- Cloudflare Organizationsにより、複数のアカウントを一元管理できるようになった
- 「組織スーパー管理者」ロールにより、個別のアカウント管理が不要になる
- WAFやGatewayのポリシーを組織全体で共有・一括適用が可能に
- 内部システムの刷新により、権限チェックの速度が27%向上した
- 現在はエンタープライズ向けベータ版で、順次全ユーザーに開放予定

・ 複数業界における17年間のデジタルビジネス開発経験
・ ウェブサイト開発のためのHTML、PHP、CSS、Java等の実用的知識
・ 15ヶ国語対応の多言語SaaSの開発経験
・ 17年間にも及ぶ、Eコマース長期運営経験
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