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CiscoとOpenAI、Codexでエンタープライズ開発を再定義

CiscoとOpenAI、Codexでエンタープライズ開発を再定義

CiscoがOpenAI Codexを実際のエンタープライズ開発ワークフローに組み込み、大幅な成果を上げている。AI Defenseをはじめとする新製品の開発スピードは数四半期から数週間に短縮され、1,500時間超の工数が毎月削減された。

新規AI機能の95%以上をCodexが生成し、C/C++の大規模コードベースにおける欠陥修正の処理速度は従来の10〜15倍に達した。大規模リポジトリ間のビルド最適化やフレームワーク移行も短期間で完了している。

単なるコード補完ツールではなく、自律的にコンパイルやテストを繰り返しながら修正を加えるエージェントとして機能する。CiscoはCodexを「もう一人のAIエンジニア」と位置づけ、プロダクション環境全体に組み込んだ。

Codexのエージェント性がもたらす変化

Codexのエージェント性がもたらす変化
従来の開発支援ツール
コード補完 補完候補を表示
エンジニアが毎回判断し手動で適用する必要がある
OpenAI Codex(エージェント型)
自律実行 コンパイル → テスト → 修正を自動ループ
レビューやガバナンスの枠組み内で動作しつつタスクを完結させる

Codexが従来の開発支援ツールと一線を画すのは「エージェント性」だ。Ciscoのエンジニアリングチームは、Codexが単なるコード提案を超えて複雑な判断と実行を繰り返せる点に着目した。相互に依存する大規模リポジトリを横断して推論し、C/C++のような複雑な言語を扱い、CLIベースのコンパイル、テスト、修正ループを自律的に回す。

これらの作業が既存のレビューやセキュリティ、ガバナンスの枠組みの中で動作することも重要だ。CiscoはCodexを「ツール」から「チームの一員」へと位置づけを変えたことで、従来の工数見積もりの概念そのものが変わりつつある。

コード補完とエージェントの違い

一般的なコード補完ツールは、エンジニアが書き始めたコードに対して次の候補を提示する。エンジニアはその候補を読んで判断し、手動で適用する。一方、エージェント型のCodexは「このリポジトリ全体のビルド時間を短縮せよ」といった高レベルな指示を与えると、自らログを解析し依存関係を調査し、修正を加えたうえでテストまで実行する。

この違いが特に威力を発揮するのは、コードベースが巨大で複数のチームやリポジトリにまたがるエンタープライズ環境だ。人間が一つひとつ手作業で確認するには時間がかかりすぎる問題に対して、Codexは自律的に解決策を提示し、適用する。

AI Defenseの開発期間を数四半期から数週間に短縮

AI Defenseの開発期間を数四半期から数週間に短縮
従来の開発ペース(Before)
新機能を顧客に届けるまで数四半期
設計、実装、レビュー、テストの各工程が順次進行
Codex導入後(After)
新機能を顧客に届けるまで数週間
Codexが実装の大部分を自律生成し、エンジニアは判断と検証に集中

CiscoのAIセキュリティ製品「AI Defense」は、このエージェント型開発の成果を如実に示す事例だ。AI DefenseはAIが引き起こす安全性やセキュリティのリスクから組織を守るエンドツーエンドのソリューションである。CiscoのチームはCodexを活用してAI Defenseのコードの大部分を生成し、ほぼすべての新機能をCodexが作成した。

OpenAI Blogの記事によれば、従来の開発手法では数四半期を要していた機能が、Codexの導入により数週間で顧客に提供可能になったという。AIの安全性という領域で、AIを活用した開発が威力を発揮した好例だ。

Daybreak構想とAIセキュリティ

CiscoはOpenAIの「Daybreak」構想にも中核的なセキュリティ組織として参画している。DaybreakはOpenAIのモデル、Codex、セキュリティパートナーを結集し、サイバー防御とソフトウェアの継続的セキュリティを加速させる取り組みだ。このプログラムの一環として、Ciscoはサイバー防御者向けモデル「GPT-5.5-Cyber」へのアクセスを管理している。

また、CiscoはCodexの支援を受けてオープンソースツール「Defense Squad」を構築した。このツールはアイデア出しから開発者コミュニティへの提供まで1週間未満で完了している。Codexの迅速なプロトタイピング能力が、セキュリティ領域におけるOSS開発のスピードを大幅に引き上げた形だ。

ビルド最適化で月1,500時間超の工数を削減

ビルド最適化で月1,500時間超の工数を削減
STEP 1 15以上のリポジトリのビルドログをCodexが解析
STEP 2 依存関係グラフから非効率な箇所を特定
STEP 3 ビルド時間を約20%短縮、月1,500時間超の工数削減

CiscoのエンジニアリングチームがCodexに与えた最初の大きな課題の一つが、クロスリポジトリのビルド最適化だ。15以上の相互接続されたリポジトリにまたがるビルドログと依存関係グラフをCodexが分析し、非効率な箇所を特定した。

その結果、ビルド時間が約20%短縮され、グローバル環境全体で毎月1,500時間以上のエンジニアリング工数が削減された。ビルド時間の短縮は開発サイクル全体を加速させる。待ち時間が減れば、エンジニアはより多くの時間を設計や検証に充てられる。

C/C++コードベースの欠陥修正を10〜15倍に高速化

C/C++コードベースの欠陥修正を10〜15倍に高速化
従来の手動修正(Before)
エンジニア 手動で欠陥を特定 修正コードを記述 テスト
数週間かかる大規模修正も
Codex CLIの自律修正(After)
Codex 反復的エージェント実行 自動コンパイル 修正完了
数時間で完了、処理スループットは10〜15倍

Codex CLIを使った「CodeWatch」と呼ばれる取り組みでは、大規模なC/C++コードベースを対象に、反復的かつエージェント型の欠陥修正を自動化した。C/C++はメモリ管理やポインタ操作が絡む複雑な言語であり、欠陥の修正には深い理解と慎重なテストが欠かせない。

従来は数週間の手作業を要していた修正が、Codex CLIによって数時間で完了するようになった。欠陥解決のスループットは10〜15倍に向上し、エンジニアは設計や検証といったより高度な判断業務に集中できるようになった。

フレームワーク移行やCI/CDへの統合

フレームワーク移行やCI/CDへの統合

Splunkチームの事例では、複数のUIをReact 18からReact 19へ移行する作業にCodexが投入された。Codexが反復的な変更の大部分を自律的に処理したことで、数週間かかる作業が数日に圧縮された。エンジニアは判断を要する部分に集中し、機械的な書き換えはCodexに任せるという分業が成立している。

OpenAI Blogの記事でCiscoの関係者は「Codexに計画ドキュメントを生成させて従わせることで、レビューチームがプロセスと生成されたコードの両方を容易に理解できるようになった」と述べている。コードを書くだけでなく、意図や計画を文書化する能力も実務では大きな価値を持つ。

エンタープライズ開発パイプラインへの組込み

CiscoはCodexをスタンドアロンのツールとしてではなく、既存の開発パイプラインに直接組み込んだ。セキュリティやコンプライアンス、ガバナンスの要件を満たしながら動作させることが、エンタープライズ環境では不可欠だからだ。

この実運用から得られた継続的なフィードバックは、OpenAIがCodexを大企業向けに強化するうえで重要な役割を果たした。特にコンプライアンス対応、長時間実行タスクの管理、既存パイプラインとの統合といった領域が改善された。CiscoとOpenAIの協業は、次世代AIを採用するための再現可能なモデル「深い技術パートナーシップ、実際のワークロード、初日からのリーダーシップの一致」を確立したと言える。

この記事のポイント

  • CiscoはCodexを導入し、新規AI機能の95%以上を自動生成している
  • AI Defenseの開発期間が数四半期から数週間に短縮された
  • クロスリポジトリのビルド最適化で月1,500時間超の工数を削減
  • C/C++コードベースの大規模欠陥修正を10〜15倍に高速化
  • Codexはコード補完を超えたエージェントとして、自律的にコンパイルとテストを繰り返しながら開発を進める
VS Code 1.121が公開、AIエージェントのターミナル連携とモデル管理が進化

VS Code 1.121が公開、AIエージェントのターミナル連携とモデル管理が進化

マイクロソフトは2026年5月20日、コードエディタ「Visual Studio Code」のバージョン1.121を公開した。今回のリリースでは、Copilot Chatが備えるエージェント機能とターミナルとの連携部分に多くの改良が加えられている。

具体的には、ツール呼び出しの表示が見やすくなり、特定のLLMモデルをピン留めして素早く選択できる仕組みが追加された。加えて、長いテストやビルドの出力を自動で圧縮する範囲が大幅に拡大され、エージェントが生成するコマンドの実行効率と可読性が一段と向上している。

開発者のワークフローに与える影響は小さくない。ターミナルに流れるログ情報が整理され、エージェントが勝手にバックグラウンド処理に移行するタイミングが賢くなったおかげで、より思考の流れを途切らせずに済むのだ。本記事ではこれらの改善点を実務的な視点で掘り下げていく。

エージェントホストの操作性向上

エージェントホストの操作性向上

まず目を引くのが、エージェントホスト内でのツール表示まわりの改善だ。Copilot Chatのエージェントモードでは、AIが「ファイルを読む」「ターミナルでコマンドを打つ」などのツールを自律的に呼び出す。今回のアップデートで、それらのツール名がより直感的な表示になった。

これまでは内部的で分かりにくかった呼称が、人間にとって理解しやすい「ファイル読み取り」「コマンド実行」といったラベルに置き換わっている。入力と出力のUIも再設計され、どのツールに何を渡し、何が返ってきたかが一目で追えるようになった。エージェントの行動をレビューしたり、デバッグしたりする局面で役立つ変更だ。

自動承認ピッカーとワークスペースの事前選択

もうひとつ、エージェントホスト接続時の「自動承認ピッカー」が追加された。外部のエージェントホストへ接続する際に、あらかじめ信頼できるものを選んでおける仕組みで、毎回承認操作を求められる煩わしさが減る。

また、VS Codeを既に特定のワークスペースで起動している場合、エージェントウィンドウを開くとそのワークスペースのフォルダが自動で事前選択される。手動でプロジェクトフォルダを指定し直す手間が不要になるため、作業開始時のリズムが良くなる。小さな改良だが、1日に何度も繰り返す操作だけに、開発効率への積み重ね効果は意外と大きい。

Before
ツール表示:run_in_terminal (何をするツールか直感的に分からない)
エージェント起動時:フォルダ未選択の状態 (手動で毎回選ぶ必要がある)
After
ツール表示:コマンド実行(ターミナル) (ツールの役割がラベルからすぐ分かる)
エージェント起動時:現在のワークスペースが自動選択 (操作を1ステップ省略できる)
変更前   変更後

上の図は、ツール表示とワークスペース選択の流れをビフォーアフターで示したものだ。変更前は開発者がエージェントの内部的な動きを読み解く必要があったが、変更後は視覚的に整理され、作業開始時の手数も減っている。

モデル管理の進化と「お気に入り」機能

モデル管理の進化と「お気に入り」機能

続いて、言語モデルピッカーに「ピン留め」機能が追加された。これは、よく使うモデルをお気に入り登録して、ドロップダウンリストの上部に固定する機能だ。

現在、VS CodeのCopilot Chatでは複数のAIモデルを切り替えて使える。コーディング向きのモデル、自然言語のやり取りに向いたモデル、軽量で反応が速いモデルなど、タスクに応じて選び分ける開発者も多い。ピン留め機能により、毎回リストをスクロールして探すストレスから解放される。

環境変数「VSCODE_AGENT」の追加とその効果

Copilot Chatがターミナルでコマンドを実行する際、専用の環境変数「VSCODE_AGENT」がセットされるようになった。この変数は、AIが起動したターミナルセッションであることを明示的に示すためのものだ。

実務では、シェルのプロンプト表示を変えたり、エージェント向けのログフォーマットを自動判別したりする用途に使える。たとえば、AI用のターミナルでは冗長なカラー表示をオフにして、パースしやすいテキスト出力に切り替える、といった使い方が考えられる。自分でシェル初期化ファイルをカスタマイズしている開発者にとっては、自動化の可能性が広がる嬉しい追加だ。

チャットと統合ブラウザの連携強化

チャットと統合ブラウザの連携強化

統合ブラウザ(Simple Browser)で表示中のWebページを、ワンクリックでCopilot Chatに共有できる「Add to Chat」オプションが右クリックメニューに追加された。

VS Codeの統合ブラウザは、エディタ内でドキュメントやAPIリファレンスを閲覧するのに使われる。今回の機能で、例えばReactの公式ドキュメントを開きながら「このセクションの内容を要約して」とAIに投げる操作が、ドラッグやコピーペーストなしで完結する。Web上の情報をコーディングの文脈にスムーズに取り込めるのは、エディタを離れずに作業を続けたい開発者にとって大きな利点だ。

また、チャットエージェントが内部的に生成したバックグラウンドターミナルは、コマンド完了後に自動で破棄されるようになった。これにより、使われないプロセスが蓄積してシステムリソースを圧迫するのを防げる。エージェントがテストの実行や依存関係のインストールなどを一括操作した後、きれいに後片付けされるイメージだ。

統合ブラウザ活用フロー
📄 ドキュメント閲覧 🖱️ 右クリックでAdd to Chat 💬 Copilot Chatに内容共有 📝 エディタでコード生成
バックグラウンドターミナルのライフサイクル
エージェントがコマンド実行 バックグラウンドターミナル生成 コマンド完了後に自動破棄 (不要なプロセスが残らない)

これらの改善は、AIアシスタントを「裏方」として使う際の体験を底上げする。情報収集からコード生成、実行、後始末まで、一連の流れに無駄がなくなっていく方向性だ。

ターミナルツールの出力処理が大幅に改善

ターミナルツールの出力処理が大幅に改善

今回のリリースで最も実務的なインパクトが大きいかもしれないのが、ターミナルツールの出力圧縮まわりの拡張だ。

エージェントがテストランナーやビルドツールを実行すると、膨大なログが出力され、チャット画面が埋め尽くされることがある。この問題に対応するため、出力圧縮(冗長な行を折りたたみ、重要な結果だけを強調表示する仕組み)の対象が一気に広がった。

圧縮対象が大幅に拡大されたコマンド群

新たに対象となったのは、以下のツール群だ。

  • テストランナー: pytestjestcargo test
  • ビルドツール: tsc(TypeScriptコンパイラ)、cargo buildmake
  • リンター類
  • Docker関連コマンド
  • パッケージマネージャ(npm、yarn、pipなど)

これらのツールが出力する長大なログから、本当に必要なエラー行やサマリーだけを抽出し、チャット画面上ではコンパクトに表示してくれる。テストが数千件走っても、失敗したケースだけに集中できるわけだ。

アイドルサイレンスタイマーで同期実行を自動バックグラウンド化

ターミナルツールには、同期コマンドが一定時間まったく出力を返さない場合に、自動的にバックグラウンド実行に切り替える「アイドルサイレンスタイマー」が導入された。設定した時間内に何の進捗も表示されなければ、AIエージェントはそのコマンドをバックグラウンドに回し、別のタスクに取り掛かれる。

従来は、長時間かかる処理が走っている間、エージェントの思考がブロックされがちだった。この機能は、CI/CDパイプラインや重いデータベースマイグレーションの待ち時間中に、エージェントが他の作業を並行して進められるようにするものだ。

従来の同期実行
$ pytest –long-suite
(数千行のログが流れる)
エージェントは完了まで他の操作ができない
1.121での改善
$ pytest –long-suite
出力が折りたたまれ、エラー行のみ表示
一定時間出力なし → 自動でバックグラウンド化
ブロックされていた時間   他の作業を並行実行できる

アイドルサイレンスタイマーは設定可能なため、プロジェクトの特性に合わせて閾値を調整できる。テストが沈黙するのはバグではなく重い処理の前触れ、というチームなら長めに取ればいい。

マルチラインコマンドの修正とConPTYの最新化

エージェントホストのターミナルツールでは、複数行にまたがるシェルコマンドの実行時に問題が発生することがあったが、今回のアップデートで修正された。bashやPowerShellでループや条件分岐を含むスクリプトを生成させるケースで、従来は行の継続が正しく解釈されないバグに遭遇することがあった。この修正によって、AIが生成した複数行スクリプトの信頼性が高まっている。

さらに、Windows環境向けに、擬似ターミナルAPIの基盤となるConPTY(conpty.dll)の新しいバージョンがVS Code本体に直接バンドルされるようになった。これまではシステム側のバージョンに依存しており、古いWindowsではターミナルの描画に問題が出ることがあった。バンドル化により、VS Code側で一貫したターミナル挙動を保証できるようになった。

SSH接続におけるキーボード対話認証のサポート

SSH接続におけるキーボード対話認証のサポート

最後に、エージェントホストがSSH接続する際に、キーボードインタラクティブ認証(パスワード入力やワンタイムパスコードの要求を含む対話形式の認証)がサポートされた。多要素認証が求められるサーバーや、接続時に追加の質問が表示される環境でも、エージェントホスト経由の自動接続が可能になったわけだ。

セキュリティ要件が厳しい本番環境や、企業ポリシーで対話認証を強制されているサーバーに対して、Copilot Chatのエージェントを遠隔操作するハードルが下がる。VS Code Remote Developmentの既存ユーザーにとっては、よりシームレスにAI支援を組み込めるようになる変更だ。

エージェントホストのSSH認証フロー
🔑 SSH接続試行 🔐 キーボード対話認証(OTP・質問応答) ✅ 接続確立
※従来はキーボード対話認証が未対応で、多要素認証が必要なサーバーではエージェントの遠隔接続に支障があった
認証試行   接続成功

この機能は、特にDevSecOpsの文脈で歓迎されそうだ。開発環境と本番環境を明確に分離しつつ、AIアシスタントの支援を安全に受けられる選択肢が増えたことを意味する。

この記事のポイント

  • VS Code 1.121ではAIエージェントのツール表示が見直され、入力と出力の可読性が向上した
  • モデルピッカーにお気に入りのピン留め機能が追加され、切り替え操作が高速化した
  • ターミナル出力の圧縮対象が拡大され、テストやビルドのログがコンパクトに表示される
  • アイドルサイレンスタイマーにより、長時間コマンドの自動バックグラウンド化が可能になった
  • SSHのキーボード対話認証サポートで、よりセキュアな環境へのエージェント接続が容易になった