
Amazon Bedrock AgentCoreにランタイムインスタンス発表、本番AIエージェント向け永続コンピューティング
AWSは2026年8月6日、Amazon Bedrock AgentCoreに新たな計算オプション「ランタイムインスタンス」を追加した。AIエージェントのプロトタイプを本番環境に移行する際、長時間の状態維持やマルチエージェント協調、GPUアクセスといった要求に応える、永続的なマネージドインフラだ。
従来のAgentCore Runtimeでは、マイクロVM上で最大8時間のステートフルな呼び出しが可能だったが、日をまたぐワークフローやOSレベルへの直接アクセスが必要なシナリオには限界があった。ランタイムインスタンスは、14日間のセッション永続化とEC2ベースのフルマネージド環境を提供し、本格的なエージェント運用基盤を実現する。
ランタイムインスタンスが解決する本番運用の3つの課題

AIエージェントをプロダクションに投入するとき、開発者はインフラの壁にぶつかる。ランタイムインスタンスはその3つの主要な課題を解消する。
長時間の状態維持とセッション永続化
通常のサーバーレス実行環境では、処理が終わるとメモリやストレージが破棄される。エージェントが数時間〜数日にわたる複数ステップのワークフローを扱う場合、途中結果を外部ストレージに退避させるなどの手間が生まれる。ランタイムインスタンスでは、最大14日間の共有セッションストレージが標準で提供される。セッションは停止・再開が可能で、アイドル期間のコストを抑えながら、必要なときに前回の状態から処理を再開できる。
マルチエージェントの同一ホスト協調
現実の複雑なタスクは、コード生成・レビュー・テスト・デプロイといった複数の専門エージェントが連携して初めて完結する。ランタイムインスタンスでは、複数のエージェントを同一のEC2ホストにデプロイし、共有ファイルシステムを介して直接データをやり取りできる。API呼び出しやネットワーク越しのストレージを挟むオーバーヘッドがなく、シームレスな協調が可能だ。
GPUとOSへの直接アクセス
画像認識や動画解析、重い数値計算を伴うエージェントはGPUを必要とする。ランタイムインスタンスはGPUアクセラレーテッドなインスタンスタイプに対応し、OSレベルへのアクセスも提供する。コードのコンパイル、セキュリティスキャン、GUI自動操作など、コンテナだけでは実現しにくいタスクをエージェントに任せられる。
コードライターとレビュアーの連携を実際に見る

公式デモでは、自然言語でPythonコードを生成する「コードライターエージェント」と、生成されたコードのバグやスタイルをレビューする「コードレビュアーエージェント」を同じランタイムインスタンス上にデプロイし、協調動作させる手順が紹介された。
このデモのポイントは、2つのエージェントが完全に独立したアプリケーションでありながら、セッションIDで紐づく共有ディレクトリを経由してファイルをやり取りする点にある。外部APIを呼び出すことなく、同一ホストのファイルシステム上で完結するため、レイテンシが極めて小さい。
/tmp/agentcore-session/{session_id}/code.py に書き込む各エージェントはStrands Agentsフレームワークと好みのモデル(デモではClaude Sonnet)を使い、単一のPythonファイルに @app.entrypoint デコレータを付けるだけで実装できる。パッケージングもzipまたはコンテナイメージで済み、インフラ管理の負担は大きく軽減される。
セットアップから初回実行までの流れ

ランタイムインスタンスの利用は、大きく3つのステップで完了する。AWSマネジメントコンソールを使う場合の手順を簡潔にまとめた。
- 容量プロバイダの作成 、 エージェントが稼働するEC2インスタンスのスペックとネットワークを定義する。OS(ARM64またはx86_64)、インスタンスタイプ、VPC、サブネット、セキュリティグループを設定。ストレージはgp3ボリュームがデフォルトで用意される。
- ランタイムの作成とエージェントのデプロイ 、 コンピュートタイプに「Instances」を選び、先ほど作成した容量プロバイダを紐づける。エージェントのコードをzipでアップロードし、ランタイム(Python 3.11〜3.14)とエントリポイントを指定。IAMロールもコンソールが自動生成する。
- エージェントの呼び出しと協調 、 デプロイ完了後、コンソールの「Runtime playground」からテスト用のJSONペイロードを送信できる。セッションIDを明示的に指定し、同じIDで別のエージェントを呼び出せば、両者が同一の共有ストレージを使ってシームレスに連携する。
容量プロバイダは一度作成するとOSやインスタンスタイプの変更ができない。本番用と検証用を分けるなど、事前の設計が求められる。
主要スペックと料金モデル

- 対応OS 、 Linux(ARM64、x86_64)。Windowsは現時点ではサポート外
- セッション持続 、 最大14日間。停止・再開が可能で、アイドル中のコスト削減に有効
- ランタイム 、 Python 3.11〜3.14(ネイティブコードに対応)。コンテナイメージのデプロイもサポート
- GPU 、 対応インスタンスタイプを選択すれば、GPUを使った推論や計算が可能
- 統合 、 既存のAgentCore API、IAM、監視機能と完全互換。マイクロVMとのハイブリッド構成も取れる
- 料金 、 使用したEC2インスタンスの標準料金に、AgentCoreオーケストレーションの管理手数料が加算される
- リージョン 、 米国東部(オハイオ、バージニア北部)、米国西部(オレゴン)、アジアパシフィック(ムンバイ、シンガポール、シドニー、東京)、欧州(フランクフルト、アイルランド)
マイクロVMベースの従来のAgentCore Runtimeとランタイムインスタンスは、同じAPIセットで併用できる。軽量なオーケストレーターエージェントをマイクロVM側に置き、重い処理や永続状態が必要なワーカーエージェントをインスタンス側に委譲するハイブリッド構成が、現実的なアーキテクチャパターンとして紹介されている。
始め方と最初の一歩

ランタイムインスタンスを試すには、Amazon Bedrock AgentCoreのドキュメントに掲載されているランタイムインスタンスの公式ガイドを参照し、容量プロバイダの作成から始めるのが近道だ。コンソールの左ナビゲーションから「Runtime」→「Capacity providers」を選び、今回紹介した手順に沿って設定すれば、最初のエージェントデプロイまで数分で到達できる。
この記事のポイント
- ランタイムインスタンスは、最大14日間のセッション永続化とEC2ベースのマネージド環境を提供するAgentCore新オプション
- 同一ホスト上でのマルチエージェントファイル共有により、APIを介さないシームレスな協調が可能
- GPUインスタンスやOS直接アクセスが必要な高度なエージェントワークロードに対応
- 従来のマイクロVMと組み合わせたハイブリッド構成で、軽量なオーケストレーションと重いバックエンド処理を分離できる

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DynamoDBにベクトル検索がGA、リアルタイムな類似検索が可能に
AWSは2026年8月5日、Amazon DynamoDBにベクトル検索機能を正式に追加した。これにより、既存の運用データと同じテーブルに埋め込みベクトルを格納し、類似度にもとづくリアルタイムな検索が可能になる。
従来、ベクトル検索を追加するには専用のベクトルデータベースを用意し、データの同期パイプラインを自前で維持する必要があった。今回の発表によって、DynamoDBだけでミリ秒単位の低レイテンシと99%以上の再現率、トリリオン規模のベクトルに対応するスケーラビリティが手に入る。サーバーやソフトウェアの管理は一切不要で、ゼロダウンタイムのメンテナンスが保証される。
DynamoDBにベクトル検索が一般提供開始

ベクトルインデックスにはストレージ制限がなく、データの増大に合わせて水平スケールする。セマンティックな検索が必要なエージェント向けメモリ、検索拡張生成(RAG)、レコメンデーションエンジン、パーソナライズされた体験、異常検知などのユースケースを、DynamoDBのネイティブ機能として実装できる。
ベクトル検索の機能は、最大4096次元のベクトルに対応し、ユークリッド距離、コサイン類似度、ドット積のいずれかの距離関数を選択可能。また、パーティションキーによるスコープ指定や、インラインフィルタを使った絞り込みにも対応する。
ベクトル検索統合の背景とメリット

DynamoDBをすでに利用しているアプリケーションでは、これまでセマンティック検索を追加するために、専用のベクトルデータベースを別途プロビジョニングし、テーブル間でデータの同期を維持するパイプラインを構築・運用する必要があった。この構成は追加の運用コスト、データ転送料金、ライセンス費用に加え、大規模環境での低レイテンシ維持を難しくする要因だった。
DynamoDBのベクトル検索では、ベクトルと運用データが同一のサーバーレス基盤で管理され、同じ従量課金モデルが適用される。これにより、同期パイプラインや外部ベクトルストアの運用から解放される。
検索の仕組みとAPIの使い方

DynamoDBのベクトル検索は、既存のテーブルに新しいタイプのインデックスを追加する方式で実現する。ユーザーは任意の埋め込みモデル(Amazon Bedrock Titan Text Embeddings、Cohere Embed、OpenAIの埋め込みモデルなど)を使ってベクトルを生成し、標準のPutItemまたはUpdateItem APIでフロート値のリストとしてテーブルに格納する。その後、対象の属性に対してベクトルインデックスを作成し、次元数と距離関数、オプションのフィルタ属性を指定する。
List型でベクトルを格納検索時はSearchVectors APIを使い、クエリベクトルと返却件数(最大100件)、オプションのフィルタ条件を指定する。結果は類似度順にランキングされて返る。パーティションキーを指定すれば、特定の市場やテナントに対象を絞り込んだ検索も可能だ。インラインフィルタでは完全一致のみサポートしており、範囲条件(BETWEENなど)は利用できない。
距離関数は、コサイン類似度がテキスト埋め込みの意味比較に効果的だが、ユークリッド距離はベクトルの大きさが意味を持つ場合(購入数によるクラスタリングなど)に、ドット積は方向と大きさの両方を評価するレコメンデーションシステムに適する。埋め込みモデルを訓練した際の距離関数と合わせるのが精度を上げる基本になる。
既存テーブルへの追加手順

AWSの公式ブログでは、スポーツ用品のオンラインストアを例に、商品カタログテーブルへのベクトル検索の追加手順が紹介されている。すでにproductId、category、descriptionなどの属性を持つテーブルに、商品説明の埋め込みベクトルを追加していく流れだ。
まず、既存の商品説明テキストから埋め込みモデルを使ってベクトルを生成し、UpdateItem呼び出しでdescriptionEmbeddingという新しい属性として各アイテムに追加する。DynamoDBは既存のListデータ型をそのまま使い、スキーマ変更や新しいデータ型の追加は不要。各要素が埋め込みの1次元に対応するNumber型のリストとして格納される。
次に、DynamoDBコンソールでテーブルの「インデックス」タブを開き、「ベクトルインデックスの作成」を選択する。インデックス名、ベクトル属性(descriptionEmbedding)、次元数(埋め込みモデルに合わせる)、距離関数(ここではコサイン)、パーティションキー(例:marketplace)、インラインフィルタ属性(例:category)を設定する。パーティションキーはオプションだが、大規模データで高スループットを保つために推奨される。
インデックスがアクティブになったら、同じ埋め込みモデルで生成したクエリベクトルを使って検索を実行する。コンソールの「項目の探索」からベクトル検索モードに切り替え、インデックスとクエリベクトル、トップK、パーティションキー値、フィルタ条件を入力する。この例では「US」マーケットプレイスに絞り、カテゴリを「footwear」に限定して「軽量の夏用ランニングシューズ」といった自然言語に近いクエリで類似商品を取得できる。
返却される結果には、類似度スコアと共に商品名や価格などの運用属性が含まれる。コサイン距離とユークリッド距離ではスコアが小さいほど類似度が高く、0は同一ベクトルを示す。ドット積では大きい値が類似度の高さを示す。
想定されるユースケースと拡張性

ベクトル検索がDynamoDBに統合されたことで、セマンティック検索が必要な様々なアプリケーションを単一のデータベースで実現できる。たとえば、エージェントの過去の対話や記憶をベクトル化して素早く参照するエージェントメモリ、大規模言語モデルの回答精度を高めるRAG、ユーザーの行動履歴から類似商品を即座に提示するレコメンデーション、個人の好みに応じたコンテンツのパーソナライズ、過去のパターンとの類似性から異常を検出する監視システムなどが挙げられる。
また、4096次元までのベクトルに対応し、距離関数やフィルタの選択肢も実用的だ。マルチテナントアプリケーションでは、パーティションキーで検索範囲をテナント単位に区切れるため、全データをスキャンすることなく高いスループットを維持できる。あらゆる商用AWSリージョンおよびGovCloudリージョンで利用可能となっている。
この記事のポイント
- DynamoDBのネイティブ機能としてベクトル検索が一般提供開始された
- 運用データと同じテーブルに埋め込みを格納し、ミリ秒単位で類似検索が可能
- 専用ベクトルDBや同期パイプラインが不要になり、サーバーレスでスケールする
- 最大4096次元、コサイン・ユークリッド・ドット積の距離関数をサポート
- RAG、レコメンデーション、エージェントメモリ、異常検知など幅広い用途に対応

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AWS Certificate ManagerがACME対応、TLS証明書の自動更新を実現
AWS Certificate Manager が ACME プロトコルに対応

2026年6月30日、AWS Certificate Manager(ACM)が ACME(Automatic Certificate Management Environment)プロトコルに対応した。この機能追加により、AWS 上で稼働するアプリケーションの公開 TLS 証明書の取得・更新を、Certbot や cert-manager といった既存の ACME クライアントから自動化できるようになる。
証明書の有効期限は短縮の一途をたどっている。CA/Browser Forum の規定により、公開 TLS 証明書の最大有効期間は 2027 年 3 月に 100 日へ、さらに 2029 年までに 47 日へと段階的に引き下げられる見通しだ。手動での更新運用はもはや現実的ではなく、自動化が不可避の状況にある。
ACM の ACME 対応は、単なる証明書自動化の一手を超えて、組織全体の証明書ガバナンスを一元化する大きな転換点となる。PKI 管理者は DNS 管理権限をエンドポイントに集約しつつ、アプリケーション担当者には EAB(External Account Binding)認証情報だけを配布すればよく、DNS キーを組織内にばらまくリスクを排除できる。
短命化する証明書と自動化の必然性
従来の TLS 証明書は最大 1 年を超える有効期間が一般的だった。しかし、CA/Browser Forum は証明書のライフサイクル短縮を段階的に進めており、2027 年 3 月には最大 100 日、2029 年までには 47 日への短縮が義務付けられる。これは証明書の更新頻度が年 1 回から年 3〜4 回、最終的には年 7〜8 回に跳ね上がることを意味する。
手動による更新フローでは、この頻度に耐えられない。更新漏れによる証明書切れは顧客にエラー画面を表示させ、サービス自体の停止を招く。ACME プロトコルはこうした課題に対処するために策定されたオープン標準であり、Let’s Encrypt をはじめとする多数の認証局が採用している。
このデモで示すように、ACME プロトコルを利用すると証明書ライフサイクルから人手を排除できる。AWS が ACME エンドポイントをマネージドサービスとして提供することで、利用者は証明書発行インフラの運用負荷からも解放される。
Amazon Trust Services による証明書発行
ACM が ACME 経由で発行するのは、Amazon Trust Services(ATS)を認証局とする公開証明書だ。ATS のルート証明書は主要なブラウザおよび OS にデフォルトで信頼されているため、発行された証明書は即座に本番環境で利用できる。
証明書の鍵タイプは ECDSA P-256 がデフォルトだが、RSA 2048 や ECDSA P-384 も選択可能だ。クライアント側の要件に合わせて設定できる柔軟性を持ちつつ、デフォルトではより高速でセキュアな ECDSA が推奨されている。
ACME エンドポイントの設定とドメイン検証の仕組み

ACM の ACME 対応で最も特徴的なのは、ドメイン検証を PKI 管理者がエンドポイントレベルで一括実施する点だ。一般的な ACME 環境では、証明書を必要とするクライアントごとに DNS レコードの設定権限が必要になる。これに対して ACM の方式では、管理者がエンドポイント作成時にドメインを検証し、以後の証明書リクエストはそのエンドポイントが管理する。
エンドポイントの作成手順
ACM コンソールの「ACME 証明書」ページからエンドポイントを作成する。設定項目は以下の通りだ。
- エンドポイント名(任意の識別名)
- エンドポイントタイプ(Public を選択)
- 証明書タイプ(Public を選択)
- 鍵タイプ(ECDSA P-256 がデフォルト)
- ドメイン名(証明書を発行する対象ドメイン)
- ドメインスコープ(厳密なドメイン、サブドメイン、ワイルドカードの許可設定)
ドメインスコープの設定はガバナンス上とくに重要だ。Exact domain(完全一致ドメイン)だけを許可すれば、サブドメインやワイルドカード証明書の発行を防げる。たとえば本番系のエンドポイントでは Exact domain と Subdomains のみを有効化し、Wildcards は無効にすることで、証明書の発行範囲を厳格に制限できる。
エンドポイント作成後、DNS 検証が実行される。Route 53 を利用していれば CNAME レコードが自動で作成されるため、手動での DNS 設定は不要だ。外部の DNS プロバイダーを使っている場合は、表示される CNAME レコードを手動で登録する必要がある。
EAB 認証情報によるクライアント登録
エンドポイントの準備が整ったら、EAB(External Account Binding)認証情報を発行する。EAB は Key ID と HMAC Key のペアで構成され、ACME クライアントがエンドポイントにアカウントを登録する際の初回認証に使われる。
一度クライアントが登録されれば、以降の証明書リクエストはクライアント自身が生成した非対称鍵ペアで認証される。EAB 認証情報はあくまで登録時のみの使い切りであり、有効期限を設定して不要な長期保管を防ぐのが望ましい。
この仕組みにより、PKI 管理者はドメイン検証という強力な権限をエンドポイントに閉じ込めつつ、アプリケーション担当者には EAB 認証情報だけを安全に配布できる。DNS キーを組織全体に配る必要がなくなる点が、従来の ACME 運用と決定的に異なる。
Certbot を使った証明書リクエストの実例
ACM コンソールには、Certbot と acme.sh 向けの CLI リファレンスが用意されている。以下は AWS News Blog の記事で紹介されている Certbot のコマンド例を再構成したものだ。
certbot certonly --standalone --non-interactive --agree-tos \
--email <EMAIL> \
--server https://acm-acme-enroll.us-east-1.api.aws/<ENDPOINT_ID>/directory \
--eab-kid <EAB_KID> \
--eab-hmac-key <EAB_HMAC_KEY> \
--issuance-timeout <ISSUANCE_TIMEOUT> \
-d <DOMAIN>--eab-kid と --eab-hmac-key に、先ほど発行した EAB 認証情報を指定する。各 ACME クライアントで引数名や設定ファイルの記法は異なるため、利用するクライアントのドキュメントを参照する必要がある。
コマンドが成功すると、Amazon Trust Services によって署名された有効な証明書が発行される。openssl コマンドで証明書の内容を確認したうえで、アプリケーションにインストールすればよい。発行された証明書は ACM コンソールの「ACME 証明書」タブにも表示され、コンソールや API 経由で発行した証明書と統合管理される。
一元管理がもたらす運用面の利点

ACM による ACME 対応は、単に証明書の自動発行を可能にするだけではない。最大の価値は、組織全体の証明書ライフサイクルを可視化し、ガバナンスを一元化できる点にある。
IAM ロールによるきめ細かなアクセス制御
ACM の ACME エンドポイントは IAM ロールと統合されている。ACME アカウントに対して IAM ロールをバインドすることで、どのクライアントがどのドメインの証明書をリクエストできるかを細かく制御できる。これにより、開発チームごとに発行可能なドメイン範囲を限定するといった運用が実現する。
監査ログとメトリクスの統合
すべての証明書リクエストは AWS CloudTrail に記録される。誰がいつどのドメインの証明書を要求したかを完全に追跡できるため、監査要件を満たすうえで強力な武器となる。また Amazon CloudWatch と連携することで、証明書の発行数やエラー率といった運用メトリクスもリアルタイムに把握できる。
ACM が標準で備える有効期限通知機能も ACME 経由で発行された証明書に適用される。更新が迫った証明書のアラートを一元管理でき、従来のように証明書管理ダッシュボードと ACME クライアントの管理画面を行き来する必要はなくなる。
上記のスタックは、ACM 単体で証明書管理から監査、予防までをカバーできることを示している。従来は外部の認証局と ACM の間で証明書管理が分断されていたが、ACME 対応によってこの断絶が解消された。
利用可能リージョンと料金体系

ACM の ACME 対応は、発表時点で全商用 AWS リージョンで利用可能だ。AWS GovCloud(US)および中国リージョン、AWS European Sovereign Cloud パーティションについては、後日の対応が予定されている。
料金は証明書発行時に含まれるドメインごとに課金される方式で、完全修飾ドメイン名(FQDN)とワイルドカードで単価が異なる。ボリュームティアは AWS アカウント単位で月間の全証明書における総ドメイン出現数に基づいて計算される。具体的な価格は ACM の公式料金ページで確認できる。
この課金体系は、ACME 経由で発行される証明書も従来の ACM 証明書と同じ仕組みでカウントされるため、新たなコスト管理の複雑さは生じない。
この記事のポイント
- ACM が ACME プロトコルに対応し、Certbot や cert-manager など既存クライアントからの証明書自動発行が可能になった
- PKI 管理者はエンドポイントレベルでドメイン検証とスコープ制御を一括管理でき、DNS キーを組織内に配布する必要がなくなる
- CloudTrail・CloudWatch・有効期限通知により、証明書ライフサイクル全体を単一ダッシュボードで可視化・監査できる
- 証明書の有効期間短縮が進む中、手動運用からの脱却と自動化基盤の構築が急務となっている
- 全商用リージョンで即日利用可能。費用はドメイン数ベースで、従来の ACM 料金体系に準じる

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AWS Graviton5搭載EC2 C9gインスタンスが一般提供開始
計算負荷の高いワークロードを扱う企業にとって、「もう少しだけ処理が速ければ」という場面は多い。AWSが6月30日に発表したEC2 C9g/C9gdインスタンスは、その不満を根本から解決する新世代の計算特化型インスタンスだ。Graviton5プロセッサの投入により、前世代からvCPUあたり最大25%の性能向上を実現した。今回の発表で特に注目すべきは、クラウド最速級となるDDR5-8800MT/sメモリの採用と、正式検証済みのハイパーバイザー分離エンジン「Nitro Isolation Engine」の搭載だ。本記事では、CPU負荷の高いバッチ処理や動画エンコーディングを中心に、新しいインスタンスがどのような場面で威力を発揮するのかを詳しく解説する。
C9g/C9gdインスタンスの位置づけを見極める

AWSのEC2には多様なインスタンスファミリーが存在する。頭文字の「C」はCompute Optimized(計算最適化)を意味し、他のメモリ最適化(Rシリーズ)やストレージ最適化(Iシリーズ)とは設計思想が異なる。計算最適化インスタンスは、vCPUあたりの演算性能を最大化することに特化している。リアルタイム分析、機械学習の推論、動画エンコーディングなど、1秒でも短く計算を終えたい処理に適している。
今回発表されたC9g/C9gdは、2024年秋に登場したGraviton4搭載C8gの後継にあたる。AWS GravitonシリーズはArmベースの独自プロセッサで、x86系のIntel XeonやAMD EPYCと比較して、コストパフォーマンスに優れる点が強みだ。C9gの「g」はGravitonを示し、末尾に「d」がつくC9gdはNVMe SSDによる高速なローカルストレージを内蔵する。
Graviton5プロセッサの進化点を知る
Graviton5の最大の改良点は、メモリ帯域幅の拡張とレイテンシの低減にある。C9gインスタンスはDDR5-8800MT/sのDIMMを採用し、これは現在クラウド上で提供されているプロセッサインスタンスの中で最速のメモリ速度だ。数字だけでは実感しにくいが、これはメモリとCPU間のデータ転送速度が秒間8800メガトランスファー(MT/s)ということを意味する。前世代のC8gがDDR5-5600MT/sだったため、実に57%もの速度向上にあたる。
さらに、CPUのL3キャッシュ容量が5倍に拡張された。キャッシュはCPUとメインメモリの間に位置する超高速なデータ置き場で、容量が大きいほどメモリアクセスの待ち時間を減らせる。AWS News Blogの著者Seb氏によると、これらの改善により、インメモリ分析のスループット向上や、より応答性の高いエージェント型AIループが期待できるという。
ネットワーク面でも強化が施されている。パケット処理性能はGraviton4ベースのインスタンスと比較して最大3倍に向上し、インスタンスサイズ全体の平均でネットワーク帯域が約15%、EBS帯域が約20%増加した。
C9g/C9gdの主要スペック詳細と設計思想

スペック表を見ると、C9g/C9gdは最小のmedium(1vCPU/2GBメモリ)から、最大のmetal-48xl(192vCPU/384GBメモリ)まで11サイズで展開される。48xlargeではネットワーク帯域が100Gbps、EBS帯域が72Gbpsに達し、これは前世代の2倍にあたる。大規模な分散処理やリアルタイム分析基盤において、ネットワークがボトルネックになる状況を回避しやすくなるだろう。
C9gdシリーズには、ローカルのNVMe SSDストレージが追加される。容量は最小のmediumで59GB、最大の48xlargeでは3台合計で11,400GB(3×3,800GB)に達する。NVMe SSDはEBSよりもレイテンシが低いため、以下のような用途に適している。
- HPCシミュレーションのスクラッチスペース(一時的な作業領域)
- 機械学習推論の一時キャッシュ
- アドサーバーのローカルバッファ
ストレージ性能も向上しており、ローカルストレージのパフォーマンスは前世代比で約30%向上した。NVMe経由の詳細なI/Oパフォーマンス統計はCloudWatchやnvme-cli経由で取得可能で、I/Oサイズ別のレイテンシヒストグラムが1秒単位で確認できる。この機能は追加料金なしで利用できる。
Instance Bandwidth Configurationの実用性を測る
C9g/C9gdには、Instance Bandwidth Configuration(IBC)と呼ばれる帯域調整機能が搭載されている。これは、EBSとVPCネットワークの帯域配分を最大25%の範囲で調整できる仕組みだ。例えば、データベースやキャッシュ用途でEBSの帯域を優先したい場合、ネットワーク側を絞ってEBS側に割り当てを寄せることが可能になる。逆に、ネットワーク集約型の分散処理ではVPC側を優先すればよい。固定的な割り当てに縛られない柔軟性は、実運用のチューニングで大きな武器になる。
C9gとC9gdの使い分けフローを整理する
C9gとC9gdはスペックが似ているため、どちらを選ぶべきか迷う場面があるだろう。選択の決め手は「ローカルのNVMe SSDが必要かどうか」に尽きる。AWS News Blogでは、C9gを「バッチジョブ、動画エンコードパイプライン、分散分析」向け、C9gdを「HPCシミュレーションのスクラッチスペース、ML推論の一時キャッシュ、アドサーバーのローカルバッファ」向けとしている。EBSで十分な永続ストレージが足りるならC9g、一時的でも高速なローカルストレージが不可欠ならC9gdを選べばよい。
Graviton5がもたらすエージェント型AIへの適性を読み解く

AWS News Blogの発表では、C9gのワークロード例として「エージェント型AI(agentic AI)」が明記されている。エージェント型AIとは、単なる質問応答を超えて、コードを実行し、複数ステップのタスクを自律的に組み立てて完了させるAIシステムを指す。OpenAIのOperatorやAnthropicのComputer Useが代表例だ。
この種のワークロードでは、大規模言語モデル(LLM)の推論そのものに加えて、Pythonコードの実行、API呼び出し、結果の検証といったCPUバウンドな処理が連続的に発生する。Graviton5のコア数向上と大容量キャッシュは、こうした「思考と行動のループ」を高速化する土台となる。AWSの著者Seb氏によれば、アプリケーションがデータを待つ時間を削減し、結果的にエージェントループの応答性が高まるとのことだ。
AI推論といえばGPUの印象が強いが、実際には前処理、後処理、オーケストレーションの多くがCPU上で動く。ArmベースのGraviton5は、これらの処理を低コストでさばける点が実務的な魅力となる。
Nitro Isolation Engineのセキュリティ強化を理解する

C9g/C9gdは、計算最適化インスタンスとして初めて「Nitro Isolation Engine」を搭載した。これはAWS Nitro Systemの拡張機能で、仮想マシン間のメモリ空間、CPUレジスタ状態、I/Oデバイスへのアクセスを数学的正確さで強制的に分離する仕組みだ。
通常、ハイパーバイザーによる分離はソフトウェアの実装品質に依存する部分があるが、Nitro Isolation Engineは形式検証(formal verification)と呼ばれる数学的手法を用いて分離の正しさを証明している。形式検証とは、仕様を数理論理で記述し、実装がその仕様を厳密に満たすことを機械的に検証する手法だ。テストのように「見つかったバグがない」ではなく、「特定の前提条件下でバグが存在し得ない」ことを保証する。
AWSは2025年にこの技術を発表した際、ハイパーバイザーの分離を形式検証する取り組みについてホワイトペーパーを公開している。今回のC9g/C9gdで初めて、計算最適化インスタンスに実装されたことになる。
セキュリティ要件の厳しい金融サービスや医療データの分析をEC2上で行うケースでは、この正式検証済みの分離機構はインフラ選定の重要な判断材料になる。ソフトウェアレベルではなく、ハードウェア支援と形式検証の組み合わせで隔離を実現している点は、AWSの設計思想として特筆に値する。
利用可能リージョンと料金モデルを確認する

2026年6月30日時点で、C9g/C9gdは米国東部(オハイオ、バージニア北部)、米国西部(オレゴン)、欧州(フランクフルト)の4リージョンで利用可能だ。AWSは追加リージョンへの展開も予定している。
料金モデルはSavings Plans、オンデマンド、スポットインスタンス、Dedicated Instances、Dedicated Hostsに対応する。常時稼働させるワークロードではSavings Plans、短期的なバッチ処理ではスポットインスタンスと使い分けられる。EBSボリュームは仮想インスタンス1台あたり最大128個までアタッチ可能で、大規模データの処理でもストレージ不足に悩むことは少ない。
インスタンスの起動はAWSマネジメントコンソール、AWS CLI、AWS SDKのいずれからでも可能だ。GravitonはArmアーキテクチャのため、AMIやコンテナイメージはArm向けにビルドされたものを選ぶ必要がある。公式のAmazon Linux 2023やUbuntuのArm版AMIはすでに提供されているため、新規導入時の障壁は低い。
この記事のポイント
- C9g/C9gdはGraviton5搭載の計算最適化インスタンス、vCPUあたり25%の性能向上を達成
- DDR5-8800MT/sメモリと5倍のL3キャッシュにより、メモリ待ち時間を大幅に削減
- 48xlargeでは100Gbpsネットワーク帯域と72GbpsのEBS帯域、前世代比2倍に拡張
- Nitro Isolation Engine搭載、形式検証による仮想マシン分離を実現
- エージェント型AIやHPC、動画エンコードなどCPU負荷の高い処理に最適

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Amazon EKSにKubernetesロールバック機能、アップグレードの不安を解消
Amazon EKSにKubernetesバージョンロールバック機能が導入された。クラスタのバージョンアップグレードはこれまで戻り道のない一方通行だったが、今回の機能により最大7日間であれば以前のバージョンに巻き戻せる。AWSのDonnie Prakoso氏とChanny Yun氏が2026年7月1日付のAWS News Blogで発表した内容だ。
KubernetesコミュニティではKEP-4330に基づくエミュレートバージョンでロールバックを緩和する動きが進んでいる。しかしEKSのロールバックはエミュレーションではなく、本番環境で事前に検証済みの状態へ完全に戻る点が異なる。クラスタ管理者にとってはアップグレード作業の心理的ハードルを大幅に下げる機能だ。
本記事では、この新機能の仕組みや利用手順、EKS Auto Modeでの挙動の違いを中心に、運用現場へのインパクトを具体的に整理する。
Kubernetesバージョンロールバックの概要

この図はアップグレード失敗時の対応の違いを示している。従来はクラスタ再構築が必要だったが、新機能では「元に戻す」操作が可能になった。
ロールバックが求められてきた背景
Kubernetesは年に3回のマイナーバージョンアップがリリースされる。多数のクラスタを抱える組織、とりわけ金融や医療など規制の厳しい業界では、アップグレードに数か月単位の準備期間を設ける例も珍しくない。問題発生時に復旧できる確証がなければ、アップグレードそのものを先送りする判断になりやすい。
この結果、クラスタは古いバージョンに留まり、セキュリティパッチが未適用のまま延長サポート期間に突入するケースが増えていた。ロールバック機能はこうした「アップグレード恐怖症」を解消する安全装置として位置づけられる。
エミュレートバージョンとの違い
KEP-4330で提案されているエミュレートバージョンは、クラスタを移行用の中間状態に置くアプローチだ。対してEKSのロールバックは、実際に本番で稼働していた検証済みの状態へ戻る。エミュレーションではないため、ロールバック後の動作は以前のバージョンそのものになる。運用チームにとっては「テスト環境で確認済みの状態」に復帰できる点が安心材料だ。
基本的な制約と料金
ロールバック可能な期間はアップグレード後7日間である。バージョンは1つ前のマイナーバージョンのみ戻せる。たとえば1.34から1.35にアップグレードした場合、戻り先は1.34だ。1.33へ一気に下げることはできない。
料金はロールバック機能そのものに追加コストは発生しない。標準のEKS料金とコンピューティングコストのみで利用できる。全商用AWSリージョンで本日から提供開始されている。
ロールバックの実践的な利用手順

AWSのブログでは、Donnie Prakoso氏が実際にEKSコンソールからロールバックを試した手順が紹介されている。ここではその流れを整理しつつ、運用現場で意識すべきポイントを補足する。
この手順は標準的なアップグレード操作と大きく変わらない。所要時間は制御プレーンのロールバックが約20分で、通常のアップグレードと同程度だ。
ロールバックインサイトによる事前評価
EKSはロールバック実行前に、クラスタインサイト機能を使ってロールバックの準備状況を自動評価する。ノードのバージョン互換性やアドオン依存関係に問題があれば事前にフラグが立つ仕組みだ。事前評価をスキップして強制的にロールバックを進めたい場合は、--forceフラグが用意されている。
トラブルシューティング中の緊急時にはこの強制実行が有効だが、通常はインサイトの結果を確認してから進めるのが安全だ。互換性の警告を見落とすと、ロールバック後に別の問題が顕在化するリスクがある。
制御プレーンとノードのロールバック
制御プレーンのロールバックはすべてのEKSクラスタで利用できる。一方、ノードのロールバックはEKS Auto Modeを利用しているクラスタが対象となる。自分でノードを管理している構成では、制御プレーンだけがロールバックされ、ノード側は別途対応が必要になる点に注意したい。
EKS Auto ModeでのロールバックとキャンセルAPI

EKS Auto Modeはコンピューティング、ネットワーク、ストレージ管理を自動化するフルマネージドオプションだ。このモードでは制御プレーンと管理ノードの両方をロールバックする必要があり、ノードのロールバックはPod Disruption Budget(PDB)を尊重しながら進むため、設定によっては時間がかかる。
Auto Modeでは制御プレーンとノードが連動してロールバックされる。キャンセルAPIを使えば、所要時間が長すぎる場合に中断して戦略を練り直せる。
PDBを尊重する設計の意図
EKSはロールバック中にデフォルトでPDBをバイパスしない。ワークロードの安定性を最優先する設計思想だ。ノードの切り戻し中にPodが過剰に停止すると、アプリケーションの可用性が損なわれるからである。
ロールバックを急ぎたい場合は、運用者が自らPDBを修正または削除することで高速化できる。システムが一方的にPDBを無視しないため、安全性とスピードのバランスを利用者側でコントロールできる仕組みになっている。
キャンセルAPIの実用シナリオ
キャンセルAPIはノードロールバックの進行中に中断を指示できる機能だ。次のような状況で役立つ。ロールバックにかかる時間が想定以上に長く、ビジネスへの影響が懸念される場合。あるいはロールバック以外の代替手段(特定ノードだけの切り戻しなど)の方が適切と判断した場合だ。
中断後はPDBの調整やロールバック戦略の見直しを行い、再度実行するか別の手段を選ぶかを決められる。この柔軟性は、大規模クラスタを運用するチームにとって重要なセーフティネットになる。
運用現場へのインパクトと今後の展望

ロールバック機能の登場は、Kubernetes運用の前提を変える可能性がある。これまでは「アップグレードの前に数週間の検証期間を設けるのが常識」だったが、ロールバックが可能になったことで「まず上げてみて、問題があれば戻す」というアプローチが現実的になる。
アップグレードサイクルの短縮
Kubernetesのマイナーバージョンアップは年3回のペースで進む。これに追従するには、アップグレードサイクルを四半期以内に収める必要がある。ロールバック機能によって心理的ハードルが下がれば、検証期間を短縮しつつ最新バージョンへの追随速度を上げられる。
規制業界でも「7日間の戻し窓口がある」という事実が監査対応やリスク評価でプラスに働く可能性がある。セキュリティパッチの適用遅延リスクを低減する効果も見込めるだろう。
注意すべき制約
ロールバックは万能ではない。7日間の期間制限を過ぎると元に戻せないため、アップグレード後の監視と問題検知の仕組みは引き続き重要だ。またノードを自前管理している構成ではノードロールバックが自動化されないため、制御プレーンのみの切り戻しでは不十分なケースも想定される。
ロールバックインサイトが示す警告を無視して強制実行した場合、アドオンの互換性問題などが残る可能性もある。事前チェックを飛ばすのはあくまで緊急時の手段と心得たい。
この記事のポイント
- EKSの新機能「バージョンロールバック」はアップグレード後7日間、1つ前のマイナーバージョンに戻せる
- 制御プレーンのロールバックは全EKSクラスタ、ノードロールバックはAuto Modeクラスタが対象
- ロールバックインサイトで互換性リスクを事前評価し、
--forceでスキップも可能 - PDBを尊重する設計でワークロードの安定性を維持しつつ、キャンセルAPIで中断も選べる
- 追加料金は不要で全商用リージョンで提供開始。アップグレードサイクル短縮の追い風になる

・ 複数業界における17年間のデジタルビジネス開発経験
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AWS Lambda MicroVMs発表、Firecrackerで隔離サンドボックスを即時起動
AWS Lambda MicroVMs発表、Firecrackerで隔離サンドボックスを即時起動する新サーバーレス
AWSが2026年6月22日、Lambdaファミリーの新たなコンピュートサービス「Lambda MicroVMs」を発表した。Firecrackerを基盤に、VMレベルの強固な隔離とスナップショットからの即時起動を両立する。AIが生成したコードやユーザー提供のスクリプトを安全に実行したいマルチテナントアプリケーション向けに設計されている。
この新サービスは、従来の仮想マシンとコンテナ、FaaS(Function as a Service)の間にあった溝を埋める。強い隔離が必要だが起動速度も妥協できない、さらにセッション中の状態も保持したい。そうした要件を単一のサービスで満たす選択肢がついに登場した。
Lambda MicroVMsとは何か

Lambda MicroVMsはAWS Lambdaの一部として提供される新しいサーバーレスコンピュートだ。最大の特徴は、エンドユーザーごと、あるいはセッションごとに専用の隔離実行環境を割り当てられる点にある。基盤技術にはFirecrackerを採用しており、この技術はすでに月間15兆回以上のLambda関数呼び出しを支える実績を持つ。
従来の選択肢との違い
従来、隔離されたコード実行環境を構築するには3つの選択肢があった。それぞれにトレードオフが存在する。仮想マシン(VM)は隔離性能に優れるが起動に数分かかる。コンテナは数秒で起動するが、カーネルを共有するため信頼できないコードを安全に実行するには追加の堅牢化が必須だ。FaaSはイベント駆動のリクエスト-レスポンス型ワークロードに最適だが、長時間の対話セッションや状態保持には向いていない。
Lambda MicroVMsはこの3つの間隙を埋める。VMレベルの隔離を持ちながら、スナップショットからの即時起動で高速なレスポンスを実現し、セッション中の状態も保持できる。さらにアイドル時には自動サスペンドでコストを抑えつつ、トラフィック受信時に自動レジュームする仕組みを備えている。
この比較図が示すように、Lambda MicroVMsは3つの要件を単一サービスで満たす。開発者はインフラ管理から解放され、アプリケーションの構築に専念できる。
なぜ今MicroVMsが必要なのか

ここ数年で、アプリケーション開発者が書いていないコードをエンドユーザーごとに安全に実行する必要があるマルチテナントアプリケーションが急増している。AIコーディングアシスタント、対話型コード実行環境、データ分析プラットフォーム、脆弱性スキャナ、ユーザースクリプトを実行するゲームサーバーなどがその代表例だ。
市場が求める新たな実行環境
こうしたアプリケーションに共通する要件は明確だ。強い隔離で安全性を担保しつつ、エンドユーザーが待たされない起動速度を実現し、対話セッション中は状態を保持し続けること。しかし従来のサービス群では、このすべてを満たす選択肢が存在しなかった。開発者は性能と隔離のトレードオフを受け入れるか、独自の仮想化基盤を構築するために多大なエンジニアリングリソースを投じるかの二者択一を迫られていた。
Firecrackerが支える信頼性
Lambda MicroVMsの基盤となるFirecrackerは、AWSがオープンソースで提供する軽量仮想化技術だ。すでにLambda FunctionsとFargateで運用実績があり、月間15兆回の呼び出しを支える実績は、この新サービスの信頼性を裏付ける。各MicroVMは独立したカーネルで動作し、ユーザー間のリソース共有は一切ない。あるユーザーが実行した信頼できないコードが、他の環境や基盤システムにアクセスすることはない。
技術的な仕組み

Lambda MicroVMsの中核には3つの技術要素がある。VMレベルの隔離、スナップショットベースの高速起動とレジューム、そしてステートフルな実行だ。これらが組み合わさることで、従来にない実行環境が実現されている。
イメージ作成から起動までの流れ
MicroVMsのライフサイクルは「イメージ作成→起動→実行→サスペンド→レジューム」という流れをたどる。まずDockerfileとアプリケーションコードをzipアーティファクトとしてS3にアップロードし、MicroVM Imageを作成する。AWS LambdaがDockerfileを実行し、アプリケーションを初期化したあと、実行環境のメモリとディスク状態のFirecrackerスナップショットを取得する。以降のMicroVM起動はすべて、このスナップショットからレジュームされるため、コールドスタートが発生しない。
このフローにより、数ギガバイト規模の対話セッションでもエンドユーザーが体感できるレスポンス速度でレジュームされる。アプリケーションはスナップショット時点で完全に初期化済みのため、起動完了と同時にリクエストを受け付けられる状態になる。
サスペンドとレジュームの自動化
Lambda MicroVMsにはアイドルポリシーが設定できる。設定可能な最大アイドル時間を超過すると自動的にサスペンドされ、メモリとディスク状態がスナップショットとして保存される。サスペンド中は実行コストが大幅に低減し、次のリクエストが到着すると自動的にレジュームされる。クライアント側からはサスペンドの発生を意識することなく、一貫した対話セッションが維持される。1MicroVMあたり最大8時間の連続実行が可能で、vCPUは最大16基、メモリは32GB、ディスクも32GBまでサポートする。
実際の利用シーン

発表時点で対応リージョンは米国東部(バージニア北部、オハイオ)、米国西部(オレゴン)、欧州(アイルランド)、アジア太平洋(東京)だ。アーキテクチャはARM64で、価格はAWS Lambdaの料金ページで公開されている。
想定されるユースケース
AIコーディングアシスタントは最も直接的なユースケースだ。ユーザーがAIに生成させたコードを、安全な隔離環境で即座に実行し結果を返す。データ分析プラットフォームでは、ユーザーごとに専用の分析環境を割り当て、ノートブック形式の対話セッションを長時間維持できる。脆弱性スキャナでは、疑わしいコードを隔離環境で安全に実行し、その振る舞いを観察するといった使い方が考えられる。
Lambda Functionsとの共存
Lambda FunctionsとLambda MicroVMsは競合ではなく補完関係にある。イベント駆動のバックボーンにはLambda Functionsを使い、信頼できないコードを隔離実行する必要がある処理だけをMicroVMsに委ねる構成が自然だ。両者は異なるAPIサーフェスを持ち、それぞれの得意領域で使い分ける設計になっている。
クラウド実行環境の新たな選択肢
Lambda MicroVMsの登場は、サーバーレスコンピュートの概念を一歩拡張するものだ。従来のサーバーレスが「インフラ管理からの解放」を旗印にしてきたのに対し、MicroVMsは「隔離実行環境の構築からの解放」を目指している。開発者は仮想化の専門知識を持たずとも、VMレベルの隔離と高速な起動を両立した環境を手に入れられる。
コスト設計のポイント
サスペンド機能の活用がコスト最適化の鍵を握る。対話型アプリケーションでは、ユーザーが考え込んでいる時間や離席中の時間が少なくない。こうしたアイドル時間に自動サスペンドを適用すれば、状態を保持したまま実行コストを抑えられる。アイドルポリシーの設定値はアプリケーションの特性に合わせて調整する必要がある。短すぎると頻繁なサスペンドとレジュームが発生し、長すぎると不要な実行コストが蓄積する。
今後の展望
初期リリースではARM64アーキテクチャのみのサポートだが、今後のアップデートでx86対応やリージョン拡大が期待される。また、スナップショット作成時にネットワーク接続を確立するアプリケーションや、エフェメラルデータを読み込むアプリケーションでは、サービス提供のフックとの統合が必要になる点にも注意が必要だ。
この記事のポイント
- Lambda MicroVMsはFirecrackerベースでVMレベルの隔離とスナップショット即時起動を両立する新サーバーレス
- AIコーディング支援やデータ分析など、ユーザー提供コードを安全実行するマルチテナントアプリに最適
- アイドル時の自動サスペンドとレジュームで、状態を保持したままコストを最適化できる
- Lambda Functionsとは補完関係にあり、イベント駆動処理と隔離実行を使い分ける設計が推奨される
- 東京リージョン含む5リージョンで即日利用可能、最大8時間の連続実行に対応

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Amazon Bedrock AgentCoreにWeb Search機能が一般提供開始、AIエージェントの回答を最新Web情報で根拠づけ
AWSは2026年6月17日、Amazon Bedrock AgentCoreにWeb Search機能の一般提供を開始した。AIエージェントがユーザーからの質問に対し、最新のWeb情報を参照しながら根拠のある回答を提示できるようにする。トレーニングデータだけではカバーしきれない直近の出来事や新事実を、AWS環境内で安全に取得できる点が最大の特徴だ。
この機能は、Amazonが長年培ってきた検索インフラ上に構築されている。Alexa+やAmazon Quick、Kiroといった製品で実績のある基盤を活用し、WebインデックスとAmazon Knowledge Graphを組み合わせたマルチソースな根拠付けを実現する。検索クエリは外部APIプロバイダに送信されず、AWS環境内で完結するため、企業のガバナンス要件にも適合する。
本記事では、Bedrock AgentCore Web Searchの仕組み、料金体系、導入事例を詳しく解説する。
Web Search機能の概要と背景

Bedrock AgentCoreの位置づけ
Amazon Bedrock AgentCoreは、AIエージェントの構築と運用を管理するフレームワークである。エージェントに必要なツールやデータソースとの接続をGatewayという仕組みで一元管理し、モデルの推論と外部機能の呼び出しを連携させる。今回発表されたWeb Searchは、AgentCore Gateway上で利用できる組み込みコネクタターゲットのひとつだ。
Web Searchが解決する課題
LLM(大規模言語モデル)は、学習時点のデータに基づいて回答を生成するため、つねに最新の情報を反映できるとは限らない。たとえば、企業の決算発表や法改正、製品アップデートなど、学習後に発生した出来事には対応できない。Web Searchを用いれば、エージェントがリアルタイムにWeb検索を実行し、得られたスニペットやURLを参照して回答を生成できる。回答には引用元が明示されるため、情報の信頼性をユーザーが確認しやすくなる。
仕組み:MCP接続とAmazon知識グラフによる根拠付け

MCP(Model Context Protocol)の役割
Web Searchは、MCP(Model Context Protocol)と呼ばれる標準プロトコルを介してAgentCore Gatewayに接続される。MCPを使うことで、エージェントは自然言語のクエリを送信し、関連性の高い検索結果(スニペット、URL、タイトル、公開日)を取得できる。GatewayがMCPターゲットとしてWeb Searchツールを仲介するため、開発者が個別に検索APIを実装する必要はない。
Amazon知識グラフとの統合
一般的なWeb検索に加え、Amazon Knowledge Graphの構造化データが検索結果に組み込まれる。これにより、単なるWebスニペットではカバーしきれない検証済みの事実情報をエージェントが参照できるようになる。AWSのブログ記事によれば、このマルチソースアプローチが従来のWeb検索だけに頼る場合と比較して、より的確な回答につながるとされている。
エージェントが回答を生成するまでの流れ
以下のデモは、ユーザーが質問してからエージェントが根拠付き回答を返すまでの一連のステップを図示したものだ。
STEP 3の段階でAmazon Knowledge Graphが活用される点が、単なるWeb検索を超えた信頼性につながる。エージェントは受け取った情報をそのまま返すのではなく、モデルが内容を推論した上で回答を構成するため、質問の文脈に合った自然な応答になる。
AWS環境内で閉じるセキュアなWeb検索の価値

多くのAIエージェント向けWeb検索ソリューションでは、ユーザーのクエリやプロンプトが外部の検索APIプロバイダに送信される。これに対しBedrock AgentCoreのWeb Searchは、Amazon自身の検索インフラを使用するため、データがAWS環境の外に流出しない。これにより、機密性の高い業務データを扱う企業でも、ガバナンスやコンプライアンスの要件を満たしながらエージェントにWeb検索機能を組み込める。
AWSの説明によれば、この仕組みはAlexa+やKiroなどのプロダクトで培われた検索技術を基盤にしており、信頼性とスケーラビリティの両面で実績がある。ユーザーは外部の検索サービス契約やAPIキー管理を気にすることなく、AgentCoreの設定画面上でWeb Searchを有効化するだけで利用を開始できる。
料金体系と利用開始手順

料金詳細
Web Searchの料金は従量課金制で、エージェントが実行した検索クエリの数に応じて計算される。具体的には、1,000クエリあたり7ドルである。新規のAWS顧客には最大200ドル相当の無料利用枠も提供される。利用料はすべてAWSの請求に統合されるため、別途外部サービスへの支払い管理は不要だ。
セットアップ手順
Bedrock AgentCoreコンソール(us-east-1リージョン)にアクセスし、Gatewayを作成する。ターゲットの追加時に「MCP target」プロトコルと「Connectors」タイプを選択し、プリコンフィギュアされた「Web Search tool」を指定する。Gatewayの詳細ページに遷移すると、PythonやMCP Inspectorを用いた呼び出しコードのサンプルが表示されるため、これをコピーして自環境に組み込むだけで統合が完了する。
テスト用途であれば、MCP InspectorをGatewayのリソースURLに接続し、Web Searchツールにクエリを直接入力して動作を確認できる。実運用では、エージェントのプロンプト設計にWeb検索の呼び出しトリガーを組み込み、回答生成時に適宜検索が走るように構成することになる。
企業での活用事例

Benchling:科学研究の加速
ライフサイエンス分野のR&Dプラットフォームを提供するBenchlingは、早期アクセスを通じてWeb Searchを試験導入した。同社AIエージェント責任者Nicholas Larus-Stone氏によると、科学者が研究対象について質問すると、Benchling内の組織データと公開文献の両方に基づく回答が得られるようになったという。これにより、仮説生成の質が向上し、顧客のデータ管理ポリシーにも適合する安全な環境を維持できている。
Gen Digital:オンライン評判管理の強化
消費者向けセキュリティ製品を展開するGen Digital(Nortonブランド)は、Norton RevampというサービスにWeb Searchを組み込んだ。プロフェッショナルが自身のオンライン評判を構築する際、最新のトレンドや事実に基づいたコンテンツアイデアをエージェントが提案できるようになる。同社AI・イノベーション部門シニアディレクターIskander Sanchez-Rola氏は、すべてのクエリが信頼できるAWS環境内で処理される点を高く評価しているとコメントした。
いずれの事例でも、外部サービスを利用せずにAWS内で完結するセキュリティと、Amazon独自の検索インデックスによる高精度な情報取得が決め手となっている。
この記事のポイント
- Amazon Bedrock AgentCoreでWeb Search機能が一般提供開始。MCP経由でWeb検索と知識グラフを統合し、エージェントの回答を最新情報で根拠づける
- 検索クエリはAWS環境外に出ず、Amazonの検索インフラで処理されるため、データガバナンスとコンプライアンスに対応
- 料金は1,000クエリあたり7ドルの従量課金。新規顧客向けに200ドル分の無料枠あり
- BenchlingやGen Digitalなどの企業がすでに導入し、研究支援や評判管理の精度向上に活用している
- us-east-1リージョンで利用可能。AgentCoreコンソールから数ステップで設定できる

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AWS WAFがAIボット収益化機能を追加、コンテンツ所有者が課金可能に
AWSは2026年6月15日、AWS WAFにAIトラフィック収益化機能を追加した。コンテンツ所有者やパブリッシャーが、自社のWebコンテンツにアクセスするAIボットやAIエージェントに対して、ネットワークエッジで直接課金できるようになる。
AIボットによるWebトラフィックは、多くのコンテンツプロバイダーで全体の50%を超え、AI専用クローラーは前年比300%以上増加している。従来の検索エンジンクローラーはリンクを返すことで参照トラフィックをもたらすが、AIボットはコンテンツを要約してAIインターフェイス上で表示するため、元のサイトにはほとんどトラフィックが還元されない。その結果、コンテンツ提供者はインフラコストだけを負担し、広告収入や購読コンバージョンといった従来の収益源が得られない状況が続いていた。
今回の新機能は、このギャップを埋めるものだ。AWS WAF Bot Controlの仕組みを拡張し、コンテンツパスごと、ボットカテゴリごと、検証ティアごとにリクエスト単価を設定できる。また、ステーブルコインによる支払いをウォレットで受け取り、単一のダッシュボードで収益とボットアクティビティを追跡可能にする。
AIボット収益化の新機能がAWS WAFに追加された背景

AIトラフィックの爆発的な増加
GPTBotやClaude-Web、Perplexity-BotといったAIクローラーは、学習用データやリアルタイム情報の収集のためにWebサイトを大量にクロールする。こうしたトラフィックは増加の一途をたどり、一部のコンテンツプロバイダーではAIボットが全リクエストの50%を超えるまでになっている。検索エンジンのクローラーとは異なり、AIボットはインデックスを生成する代わりにテキストを直接消費し、要約をAIチャット画面に表示する。そのため、元記事を読むための流入はほとんど発生しない。
従来のBot Controlでは限界があった理由
AWS WAF Bot Controlはこれまで、650種類以上のAIボットを検出し、ブロックまたはレート制限をかけることができた。しかし、ボットのトラフィックを完全に遮断するのではなく、課金して収益化したいというニーズは強く存在していた。コンテンツを無料で提供し続ければインフラコストがかさむ一方、単純にブロックすればAIサービスへの露出が途絶えてしまう。そこで、ボットにコンテンツ利用の対価を支払わせる仕組みが求められていた。
AIトラフィック収益化の仕組み

x402プロトコルとHTTP 402 Payment Required
今回の収益化機能の核は、x402というマシンツーマシン決済のオープンプロトコルだ。ルールに合致したAIボットからのリクエストに対し、AWS WAFはHTTP 402 Payment Requiredレスポンスを返す。このレスポンスボディには、コンテンツの価格(USDC建て)、受け入れ可能なブロックチェーンネットワーク(BaseやSolanaなど)、送金先ウォレットアドレス、支払いタイムアウトを含むJSON形式のプライスマニフェストが含まれる。これを受け取ったx402対応のエージェントランタイムは、自律的に署名付き支払い承認を提出し、AWS WAFがそれを検証したうえでコンテンツを提供するという流れだ。
ステーブルコイン決済の流れ
決済はステーブルコイン(USDC)で行われ、サードパーティのファシリテーターサービス(現在はCoinbaseのx402 Facilitator)がオンチェーン上の決済処理を支援する。Stripeによる直接アカウント決済やMachine Payments Protocol(MPP)への対応も近日中に予定されている。コンテンツ所有者は、AWS WAFの設定パネルでウォレットアドレスを指定するだけでよく、独自の決済インフラを構築する必要はない。また、AWS自体は決済手数料を徴収しない。
上記のように、収益化を有効にするとAIボットのアクセスが自動的に402レスポンスに切り替わり、支払いが完了したリクエストだけがコンテンツに到達する。コンテンツ所有者はアクセスを遮断する代わりに料金を設定し、ボットトラフィックを収益源に変えることができる。
収益化の設定手順

プロテクションパックの作成
AIトラフィック収益化を使うには、まずAWS WAF Bot ControlをCommonまたはTargetedレベルで有効にしたうえで、プロテクションパック(Protection Pack)を作成する。プロテクションパックとは、どのコンテンツパスを収益化するか、各検証ティアにいくら課金するか、どの支払い方法を受け入れるかといったポリシーをまとめた設定単位だ。AWSマネジメントコンソールで「WAF & Shield」を開き、「Protection packs (web ACLs)」から作成を開始する。
作成時にアプリカテゴリ(コンテンツ・パブリッシングシステム、Eコマースなど)を選択し、保護対象のリソース(CloudFrontディストリビューション)をひも付ける。推奨ルールパッケージが提示されるが、個別のルールを選ぶことも可能だ。プロテクションパックを作成したら、必要に応じて価格帯や支払い方法、コンテンツ範囲、ライセンス条項をカスタマイズする。
収益化ルールの設定
プロテクションパックを選び、「Configure AI monetization」から検証ティアごとにアクションを割り当てる。アクションは6種類ある。Monetize(402を返し課金)、Allow(無料アクセス許可)、Block(完全遮断)、Count(課金せずログだけ記録)、CAPTCHA(人間の確認)、Challenge(ブラウザかどうかのサイレントチェック)だ。Monetizeを選択すると、支払い決済用のブロックチェーンネットワーク(BaseやSolanaなど)を指定し、ウォレットアドレスとUSDC建てのページ単価を設定する。
Monetizeアクションは、Amazon CloudFrontディストリビューションに関連付けられたWeb ACLでのみサポートされる。リージョナルWeb ACLでは使えない点に注意が必要だ。また、本番投入前にテストモード(Currency modeをTestに切り替え)で、テストネット(Base SepoliaやSolana Devnet)を使った検証が可能となっている。テストモードでも実際の402レスポンスと支払いフローが再現され、すべてのイベントにCurrencyMode: TESTのログが付与される。
この一連の流れは、サイトのオリジンサーバーに一切手を加えることなく、AWS WAFのエッジで完結する。コンテンツ提供者はアプリケーションコードを修正する必要がないため、既存のWebサイトに迅速に収益化機能を追加できる。
AIトラフィック分析ダッシュボードと収益トラッキング

価格設定を最適化するためのAIトラフィック分析ダッシュボードも提供される。プロテクションパックを選択すると、ボットリクエスト全体、AIボットリクエスト、検証済みAIトラフィック、未検証AIトラフィックの4カテゴリに分けてトラフィックを可視化する。帯域幅の消費量、推定月間コスト、ピークリクエストレートといったインフラ影響指標も表示され、パスごとのヒートマップで時間帯別のAIボット集中度がわかる。
Currency modeをRealに切り替えると、「AI access monetization」ダッシュボードで実際の収益をリアルタイムに追跡可能だ。総収益、検証済みボットと未検証ボットの内訳、リクエストあたりの平均単価が表示され、上位の収益ソースやコンテンツパス別の収益ランキングも確認できる。Settlementsタブでは決済プロバイダーごとの精算状況や支払い失敗の分析も行える。
導入のポイントと今後の展望

この機能は、CloudFrontを利用するすべてのAWS WAFユーザーに対して追加料金なしで提供される。ただし、Monetizeを適用できるのはCloudFrontディストリビューションに関連付けたWeb ACLのみである点は押さえておきたい。また、テストモードを活用して本番適用前に価格設定やウォレット設定、x402フローを十分に検証することが推奨される。
今後、Stripeの直接アカウント決済やMPPに対応することで、より多様な支払い手段が利用可能になる見通しだ。AIボットのトラフィックが増え続ける中、コンテンツの価値を適切に回収する仕組みとして、この収益化機能は重要な選択肢となる。自社サイトへのAIクローラーの影響を分析している企業は、まずBot Controlのダッシュボードでトラフィックの可視化から始め、段階的に収益化を検討するのが良いだろう。
この記事のポイント
- AWS WAFにAIボット向け課金機能が追加され、HTTP 402とx402プロトコルでマシンツーマシン決済を実現
- コンテンツパスや検証ティアごとにリクエスト単価を設定でき、ステーブルコインで収益を受け取れる
- 設定はプロテクションパック単位で行い、CloudFront環境のエッジで自律的に課金とコンテンツ配信が完結
- AIトラフィック分析ダッシュボードでコストと収益を可視化し、価格設定を最適化できる
- テストネットを使った検証モードがあり、本番適用前にリスクを評価可能

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AWS Graviton5搭載EC2 M9g/M9gdがGA。汎用インスタンス性能限界突破の全容
AWSが2026年6月10日、Graviton5プロセッサを搭載したEC2 M9gおよびM9gdインスタンスの一般提供を開始した。Armアーキテクチャベースの第5世代カスタムシリコンであり、前世代比で最大25%の計算性能向上を実現したとされている。
2025年末のプレビュー公開から半年、ClickHouseやHoneycombといった企業が実運用環境で検証を重ね、コード変更ゼロで36%の性能向上を確認している。HubSpotではMySQLデータベースのクエリ処理時間が最大60%短縮されたとの報告もある。
Arm系インスタンスはこれまでも存在したが、192コア、5倍のL3キャッシュ、DDR5-8800対応メモリを搭載したGraviton5は次元が異なる。本記事ではM9g/M9gdの技術的進化と、それがビジネスにどう影響するかを具体的に解説する。
Graviton5とは何か。5世代の進化がもたらしたもの
AWSのGravitonプロセッサは、Armアーキテクチャを採用したAWS独自設計のカスタムシリコンだ。第1世代が登場したのは2018年。以来8年にわたり継続的に投資が続けられ、現在では350以上のインスタンスタイプがGravitonで稼働している。
Arm系クラウドインスタンスの現在地
Armアーキテクチャとは、スマートフォンやタブレットで広く使われている省電力設計のCPU命令セットだ。これに対し、従来のサーバCPUの多くはx86アーキテクチャ(IntelやAMDが採用)で動作していた。Armは消費電力あたりの処理効率に優れており、クラウドの大規模データセンターで電気代を抑えつつ高性能を発揮できる点が評価されている。
AWS広報情報によれば、現在12万以上の顧客がGravitonを採用。スタートアップから大企業まで幅広く、Webアプリケーション、マイクロサービス、データベース、機械学習推論、ゲームサーバ、動画エンコーディングなど多様な用途で使われている。x86依存の強い従来のクラウド常識を、Armが着実に塗り替えつつある。
クラウドインスタンスの選択肢は、この5年で一変した。Armはもはや「実験的な選択肢」ではなく、x86と並ぶ本流の一つとして位置づけられる。特にGraviton5では、その傾向がさらに加速するだろう。
Graviton5が前世代から飛躍した3つの要素
Graviton5の改良点を、AWS公式発表から整理する。最も注目すべきは次の3つだ。
- 計算性能の大幅向上:Graviton4比で最大25%の計算性能向上。Webアプリケーションで最大35%、機械学習推論で最大35%、データベースで最大30%の高速化が実測されている
- 5倍のL3キャッシュ:CPUが頻繁にアクセスするデータを一時保存する高速メモリ領域が前世代比5倍に拡大。コア間のデータ待ち時間が最大33%削減された
- DDR5-8800メモリとPCIe Gen6対応:クラウド上のプロセッサインスタンスとして最速水準のメモリ帯域幅を実現。PCIe Gen6はGen5比でデータ転送速度が2倍となり、NVMeストレージや高速ネットワークとの連携性能が飛躍的に伸びる
L3キャッシュの増量は、単なる数値スペックの向上ではない。CPUは計算のたびにメインメモリまでデータを取りに行くと時間がかかる。L3キャッシュが大きければ近くにデータを置けるため、処理待ちが減り、結果として体感性能が大きく向上する仕組みだ。
実際にAWSの広報記事で紹介された顧客事例では、ClickHouseがコード変更なしでM8g比36%の性能向上を達成。Honeycombは6カ月にわたるA/Bテストで、コアあたりのスループットが36%向上したと報告している。これらの数字は、CPUそのものの改良がアプリケーションレベルで直接的な効果を生むことを示している。
M9g/M9gdのラインアップと性能スペック
インスタンスサイズと性能の詳細
M9gは汎用用途向けで、1vCPUあたり4GiBのメモリ比率を採用している。M9gdはこれに加え、高速ローカルNVMe SSDストレージを搭載したバリエーションだ。ラインアップは1vCPUの小規模構成から、192vCPU・768GiBメモリの大規模構成まで幅広く用意されている。
最大サイズの48xlarge(192vCPU)では、ネットワーク帯域が100Gbpsに達する。前世代比で最大2倍の帯域幅になっており、大量のデータを扱うデータベースやログ処理基盤での効果が特に大きい。
IBC(Instance Bandwidth Configuration)の実用性
M9g/M9gdでは、IBC(インスタンス帯域幅設定)と呼ばれる新機能が利用可能になった。これはEBS(永続ストレージ)とVPCネットワーク間で、帯域幅の配分を最大25%調整できる仕組みだ。
たとえばデータベースサーバではEBSへの書き込み性能がボトルネックになりやすい。IBCを使えばEBS側に帯域を多めに割り当て、クエリ処理やログ書き込みを高速化できる。ネットワーク通信が少ないバッチ処理やキャッシュサーバでも有効だ。
Nitro Isolation Engineが実現する「数学的に証明されたセキュリティ」
Graviton5と同時に発表された技術の中で、最も静かでありながら最も革新的なものがNitro Isolation Engineだ。聞き慣れない用語だが、クラウドセキュリティの考え方を根本から変える可能性がある。
形式検証(Formal Verification)とは何か
通常、ソフトウェアのセキュリティは「テスト」で検証する。攻撃パターンを想定し、実際に動かして問題がないかを確認する手法だ。しかしこの方法では、想定外の攻撃や未知の脆弱性を見逃すリスクが常に残る。
形式検証(Formal Verification)はこれとは根本的に異なる。数学の定理証明と同じアプローチで、「このシステムは絶対に想定外の動作をしない」ことを数理的に証明する技術だ。特定のテストケースだけでなく、あらゆる入力パターンで期待通りに動作することを保証する。
AWSによれば、Nitro Isolation Engineはこの形式検証を適用したクラウドハイパーバイザーとして業界初の事例となる。ハイパーバイザーとは、1台の物理サーバ上で複数の仮想マシンを安全に隔離する基盤ソフトウェアだ。この隔離機能が破られると、他の顧客のデータにアクセスされる重大なセキュリティ事故につながる。Nitro Isolation Engineは、その隔離が破られる可能性を数学的にゼロにする設計となっている。
この技術は金融機関や医療機関など、厳格なデータ保護が求められる業界にとって特に重要な意味を持つ。セキュリティ監査のレベルが一段引き上げられることになるからだ。なおNitro Isolation EngineはM9g/M9gd専用の機能であり、既存のインスタンスタイプには搭載されない。
エージェントAI時代のCPU需要とGraviton5の位置づけ
AIが「考える」から「行動する」へのシフト
ここ数年、AIの進化は大規模言語モデル(LLM)のテキスト生成能力に注目が集まってきた。しかし現在、AIの主戦場は「質問に答える」から「行動を実行する」へと急速に移行している。いわゆるエージェントAIと呼ばれる分野だ。
エージェントAIとは、ユーザーの指示に対して、コードを実行し、ツールを使い、結果を評価し、複数ステップのタスクを自律的に組み立てるAIシステムを指す。たとえば「今月の売上データを分析してグラフ化し、経営陣向けのサマリをSlackに投稿して」という指示に対し、AIがデータベースに接続し、集計処理を実行し、グラフを生成し、メッセージを送信する一連の流れを自律的に処理する。
このような処理は、GPUなどのアクセラレータだけで完結しない。指示の解釈、コードのコンパイル、データベースクエリの実行、APIの呼び出しなど、CPUに依存する処理が大量に発生する。AWSの広報記事で、MetaがエージェントAI基盤として数千万コア規模のGravitonを導入していると報告されているのは、このトレンドを象徴している。
エージェントAIが実用段階に入るにつれ、クラウド上のCPU需要はむしろ増大する。Graviton5が192コアという高密度設計を採用したのは、こうした並列処理ニーズを先取りしたものといえる。
Web開発者にとっての実務的意味
中小企業のWeb担当者や個人事業主にとって、「エージェントAI」や「192コア」という言葉は遠い世界に感じられるかもしれない。しかし実際には、以下のような形でM9gの恩恵は身近な領域に及ぶ。
- MySQL/PostgreSQLの応答速度向上:HubSpotの事例ではクエリ時間が最大60%短縮。WordPressサイトやECサイトのデータベース応答が高速化する可能性がある
- コスト効率の改善:Graviton5はGraviton4比でエネルギー効率も向上。同じ処理をより少ない電力で実行できるため、ランニングコストの削減につながる
- セキュリティの底上げ:Nitro Isolation Engineによる隔離保証は、顧客データを扱うあらゆるサービスに恩恵がある
重要なのは、これらの恩恵がコード変更ゼロで得られるケースが多い点だ。ClickHouseやHoneycombの報告にあるように、Armネイティブ対応が済んでいるアプリケーションであれば、インスタンスタイプをM8gからM9gに変更するだけで性能向上が見込める。
M9g/M9gdへの移行を検討する際の実践ステップ
Graviton5インスタンスの利用を始めるには、いくつかの準備と確認が必要だ。AWS公式が提供する移行ガイドやツールを活用すれば、想定よりスムーズに移行できる。
Arm対応状況の確認と移行パス
最初に行うべきは、現在稼働中のアプリケーションがArmアーキテクチャに対応しているかの確認だ。Java、Python、Node.js、Go、PHPなど主要な言語ランタイムはすでにArm対応が完了している。ただし、x86固有のアセンブリコードを含むC/C++プログラムや、特定のx86向けバイナリに依存しているアプリケーションでは注意が必要になる。
Javaアプリケーションの場合、AWSが提供する「AWS Transform」というAI支援サービスが利用できる。x86用にコンパイルされたJavaアプリケーションをArm向けに自動変換し、互換性分析や依存関係の更新まで処理するツールだ。コードの書き換えが必要なケースでも、変換作業の多くを自動化できる。
コスト面の評価ポイント
M9g/M9gdは、Savings Plans、オンデマンド、スポットインスタンス、Dedicated Hostsのいずれでも購入可能だ。一般にGraviton系インスタンスはx86系より低価格に設定されており、さらにSavings Plansを組み合わせることで長期利用時のコストを大幅に抑えられる。
AWS公式が提供する「Graviton Savings Dashboard」を使えば、Graviton移行によるコスト削減効果を可視化できる。費用対効果を数字で把握しながら、段階的に移行を進めるのが実務的なアプローチだ。
この記事のポイント
- AWS Graviton5搭載M9g/M9gdが一般提供開始。前世代Graviton4比で最大25%の計算性能向上
- ClickHouseで36%、HubSpotのMySQLクエリで最大60%の高速化を実測。コード変更不要のケースが多い
- Nitro Isolation Engineにより、形式検証を用いた数学的に証明されたVM隔離をクラウドで初めて実現
- エージェントAIの普及でCPU需要が急増する中、192コアの高密度設計が新たな計算基盤として台頭
- 移行にはArm対応状況の確認から段階的に進めるのが安全。AWS TransformやSavings Dashboardが支援ツールとして利用可能

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Claude Fable 5がAWSで利用可能に。長時間実行と安全策を両立する新モデル
AWSがClaude Fable 5のAmazon Bedrock対応を発表した。Anthropicの新モデルはMythosクラスの最高性能を備えつつ、有害利用リスクへの安全策を組み込んだ点が最大の特徴だ。ソフトウェア開発や文書解析など長時間の自律作業を任せられる設計になっている。
Fable 5はほぼすべてのベンチマークで最先端のスコアを記録する。注目すべきは、人間の介入なしで複雑なコーディングやナレッジワークを長時間継続できる実行能力だ。単発の応答を超えた「作業の持続」が可能になったことで、開発現場やビジネスプロセスへの組み込みが現実味を帯びてきた。
Claude Fable 5の3つの技術的特徴
従来のLLM(大規模言語モデル)が得意としてきた「質問への即答」とは異なり、Fable 5は「長時間タスクの遂行」にフォーカスしている。AWS公式ブログとAnthropicの技術発表から、その差別化要素を整理した。
長時間の非同期実行
従来のモデルは数分を超えるタスクで精度が低下したり、文脈を見失ったりする課題があった。Fable 5は複雑なコーディングや調査作業を長時間・自律的に続行できる。具体的には、複数ファイルにまたがる大規模なリファクタリングや、長大なドキュメントの横断的分析といった作業を途中で止めずに完了させる。
これは単にトークン数が増えただけではない。モデル内部のアーキテクチャが「途中経過の自己管理」を強化しており、タスクのゴールを見失わずに作業を継続する仕組みだ。AWSの発表では「長時間のコーディングや知識労働を継続的に実行する」と表現されている。
この変化により、ソフトウェア開発における「任せっぱなし運用」の幅が広がる。たとえばコードベース全体のリファクタリングを夜間に任せ、朝には完了しているというワークフローが視野に入る。
高度なビジョン機能
Fable 5はテキストだけでなく、図表、グラフ、PDF内に埋め込まれた表などを高精度で理解する。金融や法務、建築、ゲーム開発など、文書や設計図を扱う業種での活用が期待される領域だ。
コーディングの文脈でも大きな意味を持つ。デザインファイルを読み取ってUIを実装したり、出力結果のスクリーンショットを自己チェックして「要件と合っているか」を検証したりできる。従来のモデルはテキスト情報だけを頼りにしていたが、Fable 5は「見て判断する」能力を作業フローに組み込める。
プロアクティブな自己検証
Fable 5はタスク実行中に得た学習をもとにスキルを自己更新し、自ら評価用のハーネス(テストフレームワーク)を作成する。AWSの発表では「自身の出力を目標と照らし合わせて批判的に評価する」と説明されている。
これはソフトウェアテストの自動化と深く関わる。たとえば「単体テストのコードを生成する」という指示ではなく「この機能を実装し、テストを作成し、通るまで修正を繰り返せ」という指示が現実的になる。モデルが自律的にPDCAを回すため、人間は成果物の最終確認に集中できる。
安全策の仕組みとMythos 5との棲み分け

Fable 5の最大の独自性は「性能と安全策の両立」にある。同じモデルから安全性を引き上げたFable 5と、制限を外したMythos 5という2つのバリエーションが用意されている。
有害プロンプトは自動でOpus 4.8にルーティング
Fable 5はサイバーセキュリティ、生物学、化学、健康に関連する有害プロンプトを受け取ると、内部で自動的にOpus 4.8へルーティングする。AWSの公式発表では「安全策によって、ほぼすべての最先端機能へのアクセスを提供しつつ、誤用リスクの高い領域では応答を制限する」と説明されている。
重要なのは、ユーザー側で切り替えを意識する必要がない点だ。通常のAPIコールでFable 5を指定しておけば、安全と判断されたプロンプトにはFable 5が、リスクありと判断されたプロンプトにはOpus 4.8が自動で応答する。
Mythos 5は限定的なプレビュー提供
Fable 5の制限を取り払ったMythos 5も、Amazon Bedrockで限定的に利用可能だ。ただしMythos 5はサイバーセキュリティやライフサイエンス(創薬、バイオディフェンススクリーニング等)といった専門領域向けであり、審査を受けた一部の顧客のみアクセスできる。一般提供は行われない。
この「制限付きスーパーモデル」と「制限なし最強モデル」の二層構造は、AIの社会実装における新たなパラダイムとなり得る。AWSの発表でも、Mythos 5はデュアルユース(軍民両用)の性質を持つため厳格な管理下に置かれていると明記されている。
Amazon Bedrockでの利用環境とセットアップ

Fable 5はAmazon BedrockとClaude Platform on AWSの両方で利用できる。ここではBedrock経由のセットアップ手順を中心に解説する。
データ共有へのオプトインが必須
Fable 5を利用するには、データ保持ポリシーでプロバイダーデータ共有(provider_data_share)にオプトインする必要がある。AnthropicはMythosクラスの全モデルで、入力と出力の30日間保持および人間によるレビューを必須としている。これは単一のやり取りでは検出できない誤用パターンを長期的に監視するためだ。
オプトインするとデータはAWSのセキュリティ境界を離れる。機密性の高いデータを扱う場合は、この点を事前に評価しておく必要がある。設定はAWS CLIで以下のように実行する(bedrock-mantleエンジン向け)。
curl -X PUT https://bedrock-mantle.us-east-1.api.aws/v1/data_retention \
-H "x-api-key: <your-bedrock-api-key>" \
-H "Content-Type: application/json" \
-d '{ "mode": "provider_data_share" }'bedrock-runtimeエンジンを使う場合は、エンドポイントと認証方式が異なる点に注意が必要だ。詳細はAWSの公式ドキュメントを参照してほしい。
Python SDKからの呼び出し例
Anthropic SDKをインストールした後、Messages API経由でFable 5を呼び出すコードは以下の通りになる。リージョンは現時点で米国東部(バージニア北部)と欧州(ストックホルム)に対応している。
import anthropic
client = anthropic.Anthropic(
base_url="https://bedrock-mantle.us-east-1.api.aws/anthropic",
api_key=<your-bedrock-api-key>
)
message = client.messages.create(
model="anthropic.claude-fable-5",
max_tokens=4096,
messages=[
{
"role": "user",
"content": "秒間10万リクエストを複数リージョンで処理するAWS分散アーキテクチャを設計してほしい"
}
]
)
print(message.content[0].text)BedrockのConverse APIを使う場合はBoto3経由となる。マルチモデル対応の統一インターフェースが使えるため、既存のBedrockワークロードとの統合が容易だ。
課金体系の注意点
有害プロンプトがOpus 4.8にルーティングされた場合、そのリクエストの課金はOpusの価格で計算される。また途中でブロックされた会話では、Fable 5が処理した初期トークンはFable 5の料金、それ以降はOpusの料金が適用される。大規模なワークロードを計画する際は、見積もりにこの変動要素を含めておく必要がある。
ソフトウェア開発の現場に与える影響

Fable 5の登場は、とりわけソフトウェアエンジニアリングのワークフローを変える可能性が高い。AWSの発表でも「長時間のコーディングタスク」と「自己検証」が前面に押し出されている。
「コードを書く」から「コードを任せる」へ
従来のLLMは「関数を1つ書いて」という短い指示には強かったが、プロジェクト全体を見渡すようなタスクには限界があった。Fable 5は「このリポジトリの全テストを補充し、カバレッジが90%を超えるまで繰り返せ」といった高レベルな指示を理解し、自律的に遂行できる。
これは開発者の役割を「実装者」から「設計者・監督者」へとシフトさせる。コードを書く時間が減り、アーキテクチャの意思決定やビジネスロジックの検討に集中できるようになる。ただし出力の品質チェックは依然として人間の責任だ。
CI/CDパイプラインとの統合可能性
Fable 5の自己検証機能は、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)の自動化範囲を拡大する。プルリクエストの自動レビュー、テスト自動生成、失敗時の自律的な修正までを一気通貫で行える可能性がある。
ただし現時点でFable 5は非同期実行向けに設計されており、リアルタイムのチャット応答を前提とした従来のCI/CDトリガーとはワークフローが異なる。ジョブキューと組み合わせたバッチ処理型の統合が現実的なアプローチになるだろう。
日本市場での受け入れと課題
国内のソフトウェア開発現場では、セキュリティ要件の厳しさから「データを外部に出せない」という制約が根強い。Fable 5の必須条件である30日間のデータ保持と人間によるレビューは、金融や医療分野での採用ハードルになる。AWSの東京リージョンでの利用可能時期も現時点では未発表だ。
一方で、スタートアップやゲーム開発のようにスピードを重視する領域では、Fable 5の長時間自律実行能力は強力な武器になる。日本でも段階的に導入が進むと見られる。
この記事のポイント
- Claude Fable 5はMythosクラスの性能を持ちつつ、有害利用を自動遮断する安全策を内蔵している
- 長時間の非同期実行により、コードの大規模リファクタリングや文書横断分析を自律的に完了できる
- 図表やPDFを読み取るビジョン機能が加わり、金融・法務・建築など文書集約型の業種で活用が広がる
- 有害プロンプトは自動でOpus 4.8にルーティングされ、ユーザーはモデルを意識せず使える
- Amazon Bedrockでの利用には30日間のデータ保持オプトインが必須。機密データの扱いには注意が必要だ

・ 複数業界における17年間のデジタルビジネス開発経験
・ ウェブサイト開発のためのHTML、PHP、CSS、JavaScript等の実用的知識
・ 15ヶ国語対応の多言語SaaSの開発経験
・ 17年間にも及ぶ、Eコマース長期運営経験
・ 幅広い業界でのSEO最適化の豊富な経験
