
Cloudflare DDoS脅威レポート2026年上半期、1Tbps攻撃が935件に急増
Cloudflareが2026年8月11日、DDoS脅威レポートの2026年上半期版を公開した。今回で通算25回目の発行となる。四半期ごとの発表を統合し、1月から6月までを単一のレポートにまとめた形式だ。
レポートによれば、Cloudflareは上半期で2,320万件のネットワーク層DDoS攻撃と29兆6,400億件のHTTP DDoSリクエストを軽減した。1時間あたり約5,343件、1日あたり約12万8,000件の攻撃に相当する。
なかでも1Tbps(テラビット毎秒)を超える超大規模攻撃の急増が目を引く。攻撃ベクトルはボットネット直撃型から反射・増幅型へ移行しつつあり、防御側の自動化がこれまで以上に重要になっている。
2026年上半期のDDoS攻撃概況

4月にピーク、国際摘発作戦で減少へ
4月は攻撃のピーク月だった。攻撃リクエストは6兆4,600億件、通信量は165PB(ペタバイト)に達した。この量は大手動画プラットフォームが1日で処理するデータ量に匹敵する規模だ。
その後、攻撃件数と通信量は減少に転じた。同時期に実施された国際法執行作戦「Operation PowerOFF」が影響したとみられる。21カ国が参加し、DDoS攻撃代行サービスの利用者7万5,000人超を標的に、53のドメインを停止、25件の家宅捜索、4人の逮捕という成果を上げた。
法執行の直接的な抑止効果は計測しにくい。ただし摘発の直後に攻撃数が減少した事実は、DDoS攻撃代行サービス(いわゆるブートストレスサービス)の利用層がインターネット全体の攻撃量に与える影響の大きさを示している。個人が安価に攻撃を「注文」できる構造が、この規模の攻撃増加を支えている構図だ。
1Tbps超の攻撃が6倍以上に急増
1Tbps超の超大規模攻撃は第2四半期だけで805件に達した。前期比で6倍以上の増加だ。上半期全体では935件の1Tbps超ネットワーク層攻撃を軽減している。
DDoS対策の世界では「ハイパーボリュメトリック攻撃」という分類がある。1Tbps以上、または毎秒10億パケット(Bpps)以上、または毎秒100万リクエスト(Mrps)以上のいずれかを満たす攻撃だ。2026年はこの分類に入る攻撃が順調に増えている。
ただし攻撃の中央値は小規模だ。ネットワーク層攻撃の96.62%が500Mbps未満、90.60%が10分未満で終了している。「小規模」といっても相対的な話だ。100Mbpsの攻撃だけで一般的なサーバーやWebサイトは十分にダウンし得る。100Gbpsなら無保護のデータセンターを停止させる威力がある。
攻撃者は帯域とパケットレートの組み合わせも工夫する。高パケットレート(Mpps単位)と低帯域幅(Gbps単位)を組み合わせ、ネットワーク機器の処理限界と回線容量の限界という異なる弱点を同時に狙う手口が観測されている。
攻撃ベクトルの変化とCLDAP急増

DNS系攻撃がネットワーク層の3分の1を占める
攻撃の中心はボットネット直撃型から反射・増幅型へ移っている。DNS系攻撃が上半期のネットワーク層攻撃全体の34.3%を占めた。第2四半期にはDNSフラッドの割合が25.7%から40.0%へ急拡大している。
DNSフラッドは、ボットネットが被害者の権威DNSサーバーへ大量のクエリを直接送りつける攻撃だ。このドメインの「電話帳」に当たるDNSサーバーが応答不能になると、そのドメインに依存するサービスはすべて機能を失う。
DNSアンプリフィケーションは別の仕組みだ。攻撃者は送信元IPを偽装した小さなクエリを公開DNSリゾルバへ送る。リゾルバは元のクエリよりはるかに大きな応答を、偽装されたIP(つまり被害者)へ返す。少ない帯域で大きな攻撃を生み出せるため、攻撃者にとって効率がよい。
上の図は3つの攻撃ベクトルの違いを整理したものだ。直撃型は攻撃者自身の帯域がそのまま攻撃力になる。反射・増幅型は第三者のサーバーを踏み台にするため、攻撃者側の帯域が少なくても大きな打撃を与えられる。
CLDAPフラッドが580%増
CLDAPフラッドの伸びは顕著だ。前期比580%増となり、第2四半期だけで第3位の攻撃ベクトルに浮上した。
CLDAP(Connectionless Lightweight Directory Access Protocol)はLDAPのUDP版だ。UDPはTCPと違いハンドシェイクが不要で、送信元IPの偽装が容易になる。攻撃者はUDPポート389で公開されたドメインコントローラーへ偽装クエリを送り、元の数十倍から数百倍の応答を被害者へ反射させる。
CLDAPの急増が示すのは、公開されたUDPサービスの危険性だ。ポート389が外部に開いている組織は、自覚のないまま攻撃者の踏み台にされている可能性がある。インフラ管理者にとっての実務的な教訓は「UDPポートの露出を監査し、不要なら閉じる」という基本対策の重要性が再確認されたことにある。
標的産業と地域の動向
メディア産業が最大の標的に
メディア・制作・出版産業が両四半期で最も攻撃された産業になった。全HTTP DDoSリクエストの14.2%を占め、2位の約4倍に相当する。イランとウクライナの戦況報道、そしてワールドカップ関連の報道が攻撃対象になったとみられる。
報道機関へのDDoS攻撃は、単なる金銭目的や愉快犯ではなく、情報の流れを止める意図を持つことが多い。特定の報道を続けるメディアのサイトを落とすことで、世論に影響を与えようとする動機が背景にある。
この図が示すように、標的と攻撃元の分布は対称ではない。標的は中国・米国など経済規模の大きい国に集中し、攻撃元はブラジル・インドネシアなどボットネット感染端末が多いとされる国に偏る。
政府部門が29位から9位へ急浮上
政府部門の動きは今年最大のトピックだ。2026年2月28日にイスラエルと米国が「Operation Epic Fury」を開始。その72時間以内に、16カ国110組織に対する149件のハクティビストDDoS攻撃が記録された。標的組織の47.8%が政府部門だった。
この結果、政府部門のシェアは第1四半期の29位から第2四半期には9位へ急上昇した。単一セクターの移動幅としては2026年最大だ。地政学的な緊張がDDoS攻撃の規模と方向性に直接影響を与える構図が、データとして明確に現れた。
国別では中国が最多の標的になった。第2四半期に全世界のHTTP DDoSリクエストの22.4%を吸収した。米国は18.8%で2位を維持している。トルコは攻撃シェアが倍増し、第3位に浮上した。6月から7月にかけてのアンカラNATOサミット準備期間中、治安当局が209人以上を逮捕する大規模な事前摘発を行った時期と重なる。
攻撃元の国ではブラジルが米国を逆転して1位になった。上半期のシェアはブラジル14.9%に対して米国13.4%だ。ブラジルは第2四半期に21.4%まで急伸した。インドネシアは両四半期とも3位を維持し、複数四半期連続で上位3カ国に入る常連になっている。
短時間攻撃と自動防御の重要性

90%以上が10分未満で終了
DDoS攻撃の大半は驚くほど短い。上位の超大規模攻撃ですら秒単位で終了する。過去には開始から終了までわずか35秒という記録的な攻撃も観測されている。
攻撃が30秒でも10分でも、人間が介入する実質的な時間窓は存在しない。セキュリティ担当者にアラートが届いた時点で、攻撃はすでに完了しているからだ。手動での軽減策やオンデマンド型の防御はこの現実に対して遅すぎる。
この図のとおり、攻撃の持続時間と人手による対応時間は圧倒的に乖離している。従来型の「監視して手動で対応する」運用モデルは、DDoS対策においては成立しない。
自動防御が唯一の実効策
さらに、短い攻撃の余波は長引く。ルーティングの不安定化、TCP再送、アプリケーションのタイムアウト、下流サービスの劣化などが数時間から数日続くことがある。サービス停止や品質低下は攻撃の終了後も継続するのだ。
この環境では、常時稼働する自動防御が「あったほうがよい」ものではなく必須の要件になる。Cloudflareは330以上の都市に分散したネットワーク全体で、人間の介入なしに攻撃を検知・軽減する仕組みを運用している。ネットワーク容量は500Tbps規模だ。
同社はさらに、DDoS攻撃を仕掛けるIPアドレスやアカウントを特定する無料のフィードをホスティング事業者やISP向けに提供している。世界800以上のネットワークが登録しており、ボットネットノードの撤去に一定の成果を上げている。
日本の事業者にとっての示唆は明確だ。自社サイトが直接の標的でなくても、反射型攻撃の踏み台にされたり、同じホスティング上の他サイトへの攻撃に巻き込まれたりするリスクは常にある。小規模サイトでも「攻撃を受けたら止まる」前提ではなく、自動防御を標準装備する発想が必要になる。
この記事のポイント
- 1Tbps超のネットワーク層DDoS攻撃が上半期で935件に達した
- DNS系攻撃がネットワーク層全体の34.3%を占め、反射・増幅型への移行が進む
- CLDAPフラッドが前期比580%増で第3位の攻撃ベクトルに浮上
- メディア・制作・出版が最も攻撃され、政府部門は29位から9位へ急上昇
- 攻撃の90.60%が10分未満で終了し、自動防御が実質唯一の対策になる

・ 複数業界における17年間のデジタルビジネス開発経験
・ ウェブサイト開発のためのHTML、PHP、CSS、JavaScript等の実用的知識
・ 15ヶ国語対応の多言語SaaSの開発経験
・ 17年間にも及ぶ、Eコマース長期運営経験
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