
TemuとSheinの規制違反が生む不公平競争、ドイツ経済損失は年間24億ユーロ
調査結果が示す消費者心理は、価格だけでは説明できない。規制の有無によるコスト差がプラットフォーム間の構造的な優位性を生み、国内事業者の足を引っ張っているのが実態だ。
規制コンプライアンスの格差が生む不公正

TemuとSheinが批判される核心は、製品の安全性や環境規制への対応不足にある。EU市場で販売される商品には、CEマーキングやREACH規則、包装廃棄物指令など、消費者と環境を守るための厳格なルールが適用される。国内事業者はこれらの順守に多大なコストを割いている。
HDEの調査によれば、ドイツのオンライン販売事業者の90%が「規制対応の負担が重い、あるいは非常に重い」と感じている。一方、TemuやSheinはこのコストを回避、あるいは軽視することで圧倒的な価格競争力を実現している。同額の製品でも、国内事業者は安全試験やリサイクル登録、適切な表示義務に対応しなければ販売できない。
EU域外から直接消費者に届く小口貨物は税関の検査が追いつかず、規制違反が見過ごされるケースが後を絶たない。フランスでは最近実施された抜き打ち検査で、輸入された商品の最大75%がEU基準を満たしていなかったと報告されている。
ここで問題なのは、自由競争そのものではない。競争は市場の活力だが、同じ土俵に立っていなければ公正な競争とは呼べない。規制対応に真面目に取り組む事業者ほど不利になる構造は、経済全体の歪みを拡大させる。
雇用喪失は小売業だけで2万8300人

HDEの発表によると、TemuとSheinの台頭によってドイツ国内で4万件以上の雇用が失われた計算になる。このうち小売業だけでも2万8300人にのぼる。
ドイツ経済研究所のエコノミスト、Marco Trenz氏はheise onlineの取材に対し、「TemuとSheinが存在しなければ、購入の大部分はドイツの小売店で行われていた。その場合、より多くの従業員が必要になる」と説明している。毎日ドイツ国内に配送される46万個の小包の多くが、本来は国内店舗のレジを通っていたかもしれない需要だ。
雇用の喪失は単に職を失うという直接的なダメージだけでなく、地域経済の活力を奪う。実店舗は賃料を支払い、地域のサービス業を利用し、人を雇うことで街の経済を循環させる。EC事業者であっても、国内に拠点を置く事業者はこうした循環の一部だ。対して、越境プラットフォームの物流拠点や雇用は主に中国国内にあり、ドイツ国内への波及効果は極めて薄い。
1日に46万個の小包が届くという数字は、消費者に支持されている証拠でもある。だが、その支持の背景に規制回避による価格優位性があるならば、政策対応を検討しなければ小売業の雇用はさらに縮小するだろう。
税収でも年間4.2億ユーロの逸失

雇用だけでなく、税収面でも影響は深刻だ。調査では、連邦・州・地方自治体を合わせて年間約4億2000万ユーロの税収が失われていると推計されている。Trenz氏は「TemuやSheinではなく、ドイツの実店舗で購入されていれば、所得税、営業税、法人税も支払われていただろう」と指摘する。
越境ECの税制上のグレーゾーンは、以前から指摘されてきた。EUは2021年にVAT(付加価値税)の電子商取引ルールを改正し、域外事業者にも課税を義務付ける仕組みを導入した。だが実効性は限定的で、低価格を前面に出すプラットフォームでは、適正な関税や付加価値税が申告されないケースが後を絶たない。
事業者が国内で得た利益から納める法人税や営業税は、そもそも域外事業者にはほとんど期待できない。国内事業者は売上の一定割合をこうした税として納め、さらに従業員の源泉所得税も負担する。この税負担の非対称性が、価格競争に直接影響している。
税収の逸失は道路や教育、医療といった公共サービスに跳ね返る。最終的に不利益を被るのは、消費者でもあるドイツ国民自身だ。
業界団体が求める政策対応と今後の展望

HDEのAlexander von Preen会長は声明で次のように述べたと報じられている。「現在のデータは事態の深刻さを明確に示している。TemuとSheinによる大規模な規制違反は、小売業とドイツ経済全体に甚大な損害を与えている。政策立案者が長年の不作為の後に、ついに断固とした具体的な行動を取らなければ、ドイツのビジネス立地としての未来は暗い。どうしても効果がないなら、このような大規模な違反は停止されるべきだ。競争は良いものだが、公正でなければならない」
HDEは税関に対して取り締まり圧力の強化を求めている。具体的には、フランスですでに実施された輸入小包への的を絞った検査の強化をモデルとして挙げている。
EC事業者にとって、この問題は対岸の火事ではない。公正な競争環境が損なわれれば、規制を順守する事業者ほど不利になるという構造は、日本を含むあらゆる市場で再現される可能性がある。WooCommerceで構築した自社ECサイトを運営する事業者も、価格競争だけでなく、商品の安全性や環境対応といった「信頼の可視化」で差別化することが、これまで以上に重要になる。
この記事のポイント
- TemuとSheinの不公正競争により、ドイツ経済に年間24億ユーロの付加価値損失が発生している
- 国内小売事業者の90%が規制対応に重い負担を感じる中、越境プラットフォームは規制コストを回避し価格競争力を獲得している
- 小売業で2万8300人を含む計4万件以上の雇用喪失と、4.2億ユーロの税収逸失が推計されている
- HDEはフランス型の税関抜き打ち検査強化を求め、公正な競争環境の回復を訴えている

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