
EC成長だけでは救えない郵政の構造危機〜配送依存の限界と日本への教訓
米国郵政公社(USPS)が2026年会計年度第2四半期の決算で、約20億ドルの赤字を報告した。ECの成長に伴い小包収入は前年同期比4.5%増加しているにもかかわらず、だ。赤字幅は前年同期の33億ドルから改善したが、それは決して楽観できる数字ではない。
USPSのデビッド・スタイナー郵政長官は2026年5月8日の理事会で「郵政公社は深刻な財政危機にある。現状は持続不可能であり、そうでないふりをするのは無責任だ」と述べている。ECが郵便事業を支えるという前提が揺らぎ始めているのだ。
この記事では、USPSの決算データを手がかりに、EC事業者が直面する配送インフラの構造問題と、日本市場への示唆を読み解く。
郵政を縛る「ユニバーサルサービス」の重荷

USPSの抱える問題の根幹は、1970年の郵政再編法にまで遡る。この法律は旧郵政省を独立採算制の公社に転換したが、同時に全米1億7千万以上の住所へ週6日配送する責務を課した。人口希薄な地方の不採算ルートも維持しなければならない。
民間の配送業者であれば、採算の合わない地域からは撤退するか、サービス水準を落とす選択ができる。UPSやFedEx、Amazonなどは実際にそうしている。しかしUSPSにはそれが許されない。法律で定められた「ユニバーサルサービス」義務があるからだ。
この構造的緊張はUSPS設立当初から存在していた。スタイナー長官は「議会はユニバーサルサービスのコストが郵政公社の自力でまかなうには大きすぎると予見していた。だからこそ公共サービスに対する償還金を認可したのだ」と指摘する。
減少し続ける第一種郵便のボリューム
かつてUSPSの収益を支えたのは第一種郵便(First-Class Mail)だった。請求書、銀行取引明細、ビジネス文書、個人の手紙が膨大な量で流通していた。2001年のピーク時、全米2億900万人の成人に対して約1040億通が取り扱われ、一人当たり約500通に相当した。
ところが2024年までに第一種郵便の取扱量は443億通まで半減以下に落ち込んだ。成人人口は約2億6000万人に増えているため、一人当たり密度は約170通へ激減している。
問題は、郵政の固定費が比例して縮小しなかったことだ。スタイナー長官によれば、1970年代以降「配達拠点数は数千万件増加し、郵便物量は50%以上減少した」という。少なくなった郵便物を、増えた拠点に届ける構造が続いている。
この構造が、USPSの収益基盤を根本から揺るがしている。日本でも郵便物の取扱量は年々減少しており、構造的に類似した課題を抱えていることは見逃せない。
ECの成長が郵政を支えた10年

第一種郵便が減少する一方で、USPSの収益構造を支えてきたのがECの成長だ。AmazonやWalmartをはじめとするEC事業者の拡大に伴い、軽量な個人向け小包がUSPSのトラックや処理施設、配送ルートを埋めるようになった。
特にパンデミック期には、多くの米国人消費者にとってECが日常的な購買手段となり、ほぼすべての配送事業者に追い風が吹いた。USPSも例外ではなかった。
2021年度には、USPSの総収入に占める小包・配送の割合が41.6%に達し、第一種郵便の30.2%を大きく上回った。6年前の2015年度には小包が21.6%、第一種郵便が40.9%だったことを考えると、わずか数年で主従が完全に入れ替わったことになる。
USPSは事実上、郵便会社から小包物流事業者へと進化しつつある。スタイナー長官は2026年の全米郵便フォーラムで、USPSを米国商取引の中心にある「経済プラットフォーム」と表現し、近代化の取り組みを強調した。
小包収入が増えても赤字が止まらない理由
しかし、ここにパラドックスがある。小包収入が増えているのに、なぜ赤字が続くのか。
2026年第2四半期(2026年3月31日締め)のデータが示す現実は冷徹だ。小包収入は前年同期比4.5%増加した一方、小包の取扱数量は1.4%減少した。収入増は数量増ではなく、単価上昇によるものだったのだ。
これはEC配送市場が成熟段階に入り、数量の成長よりも価格設定と業務効率が利益を左右するフェーズへ移行したことを示唆する。そして、その環境下でUSPSはAmazon、UPS、FedEx、多数のギグワーカー型配送ネットワークとの競争にさらされている。
スタイナー長官は、USPSの財政問題はコスト削減だけでは解決できないと主張する。議会がUSPSにより大きな業務上の柔軟性を与えるか、ユニバーサル配送を公的義務と位置づけて連邦予算で補助するかの二択を迫っているのだ。
日本市場が読み解くべき3つの教訓

USPSの事例は決して対岸の火事ではない。日本のEC事業者や物流事業者にとっても、以下の3つの教訓が浮かび上がる。
配送網への過度な依存リスクを分散する
USPSの収益がECに大きく依存しながらも赤字を脱せない構造は、特定の配送インフラに過度に依存することのリスクを示している。EC事業者としては、単一の配送手段に頼らず、複数のキャリアや配送方法を組み合わせた戦略が求められる。
WooCommerceを利用しているなら、複数配送業者との連携プラグインを活用し、注文内容や配送先に応じて最適な配送方法を自動選択する仕組みを整えておきたい。配送料の値上げやサービス縮小が発生した際の影響を最小限に抑えられる。
配送コストの上昇を価格戦略に織り込む
USPSの小包単価が上昇しているように、世界的にラストワンマイル配送のコストは上昇傾向にある。特に人口減少地域での配送単価は今後さらに上がる可能性が高い。
EC事業者は「送料無料」を安易に標準設定するのではなく、商品価格への適切な配送コストの織り込みや、一定金額以上での送料無料化など、収益性を確保できる送料設計を再点検すべき時期に来ている。
配送インフラの構造変化を先読みする
USPSが直面している「ユニバーサルサービスと収益性の両立」という課題は、日本郵便にも共通する構造問題だ。過疎地域での郵便・物流サービス維持が政治課題化すれば、配送料金の規制や補助金制度の変更がEC事業者に直接影響を与える可能性がある。
店舗受け取りや宅配ボックスの活用、地域ごとの配送ハブ設置など、既存の配送網に依存しないラストワンマイル戦略の検討を始めておくことが、中長期的な競争力につながる。
ECと郵政の共進化は可能か

USPSの決算データは、ECの成長が郵政インフラを支えるという前提が限界に近づいていることを示している。スタイナー長官が言うように、現状維持は持続不可能だ。
では、解決の方向性はどこにあるのか。スタイナー長官が提示したのは大きく二つだ。不採算郵便局の閉鎖や大幅な値上げを含む業務の柔軟性獲得か、ユニバーサルサービスを公共財とみなす連邦補助金の導入か。
いずれの道を選ぶにせよ、EC事業者は配送コストとサービス水準の変化に適応する必要がある。特に小規模EC事業者にとっては、大手ECモールの配送網に頼るだけでは不十分で、自社の配送戦略を主体的に設計することが競争力の分かれ目になるだろう。
日本においても、人口減少とECシフトが同時進行する中で、配送インフラの持続可能性はEC事業者自身の経営課題として捉えるべき段階に入っている。10年先の配送環境を見据えた戦略的な備えを始めるタイミングだ。
この記事のポイント
- USPSは2026年第2四半期に約20億ドルの赤字を計上し、小包収入増にもかかわらず財政危機が継続している
- 第一種郵便の取扱量は2001年の約1040億通から2024年には443億通へ半減以下に落ち込み、固定費を吸収できなくなった
- ECの成長により小包・配送の収益比率は2015年の21.6%から2025年には40.5%へ拡大したが、それでも赤字は埋まらない
- 日本でも同様の構造問題が進行中であり、配送網の過度な依存分散や配送コスト上昇への備えがEC事業者の重要課題となる

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