
米国でオンライン販売者保護法案が提出。アカウント停止と在庫保留に30日ルール
2026年7月21日、米国下院に「オンライン販売者の権利章典法(Online Sellers’ Bill of Rights Act of 2026)」が提出された。AmazonやWalmartといった巨大マーケットプレイスで商品を販売する事業者を、突然のアカウント停止や資金凍結から守る内容だ。
この法案が成立すれば、プラットフォーム側は販売者に対してペナルティの理由を詳細に説明し、30日以内に在庫や売上金を解放しなければならなくなる。異議申し立ての手続きも明文化される。越境ECで米国市場に進出している日本の事業者にとっても、大きな追い風となる可能性がある。
法案の概要と背景

なぜマーケットプレイス事業者は保護を必要としているのか
AmazonやWalmartのマーケットプレイスは、小規模事業者でも数百万の顧客にリーチできる強力な販路だ。しかし、ひとたび売上が立ち始めると、そのプラットフォームへの依存度は高まる。突然のアカウント停止や資金凍結は、事業そのものを脅かしかねない。
現状では、規約違反が疑われた販売者に対し、プラットフォームは十分な説明なしにアカウントを停止し、売上金や在庫を長期間にわたって留め置くことがある。違反の詳細が分からないまま数ヶ月に及ぶ保留状態に陥り、事業をたたまざるを得なくなるケースも報告されている。
「オンライン販売者の権利章典法」の中身
下院司法委員会で審議中のこの法案(H.R. 9799)は、マーケットプレイスが販売者に対してとる執行措置に、連邦レベルでの手続きを義務付けるものだ。偽造品や不正販売の排除は引き続き認めつつ、在庫保留や支払い停止、規約変更、調査、異議申し立てに一連の基準を設ける。
主な規定

法案は、マーケットプレイスの執行措置に対し以下の保護を提供する。いずれも「30日」という期限が大きな軸となっている。
在庫保留の制限
偽造品の疑いで在庫が倉庫に留め置かれる場合、これまでは数ヶ月単位で放置されることがあった。法案では、在庫保留と制限の期間を暦日30日以内に制限する。30日を超えて保留を続けるには、当該商品が明らかに不正であることをプラットフォーム側が証明しなければならない。
支払い保留の制限
売上金の凍結についても同様に、30日間の上限が設けられる。それを超えて資金を保持するには、違法な取引であったことを証拠によって示す必要がある。単なる疑いだけでは長期保留は認められなくなる。
ゲート製品への対応
ある商品が一度はフルフィルメントネットワークに受け入れられた後、新たに販売制限がかけられる「ゲート製品」に関する規定もある。プラットフォームが製品カテゴリに新たな制限を課す場合、販売者に対して少なくとも30日間の猶予を与え、残った在庫を販売するか、送料負担なしで返却する権利を保証する。
事前通知義務
商品掲載の適格条件やコンプライアンス要件、手数料などに実質的な変更がある場合、プラットフォームは30日前までに書面で通知しなければならない。この猶予があれば、販売者は梱包の変更や書類の準備、価格改定、在庫の移動といった対策をとれる。
異議申し立て手続きの明確化
アカウント停止やリスティングの差し止めに際して、プラットフォームは疑われる違反内容を個別具体的に通知する義務を負う。どのポリシーに違反したのか、関連する事実や資料は何か、科されるペナルティの内容、そして異議申し立ての方法と解決までの見込みスケジュールを提示しなければならない。テンプレートの定型文だけでは要件を満たさない。
上図は現状と法案が求めるプロセスの違いを概念化したものだ。実際の条文では、虚偽の申告や偽造品の販売には厳しい対応が続けられる一方、正当な事業者には適正な手続きが保証される枠組みになる。
販売者にとってのメリット

この法案の本質は、プラットフォームによる一方的な執行から「商業デュープロセス」を確立することにある。詐欺的な出品や危険な商品を排除する権限は維持しながら、そのプロセスに説明責任と異議申し立ての機会を組み込む。
プラットフォームの説明責任強化
個別具体的な通知義務により、販売者は「なぜ停止されたのか」を理解し、問題を速やかに是正できるようになる。テンプレートの返答ではなく、事実と根拠に基づいた対応が求められるため、曖昧な理由でビジネスが断たれるリスクが減る。
ビジネス継続性の確保
在庫や支払いの30日ルール、ゲート製品への猶予期間は、キャッシュフローと在庫回転の予測可能性を高める。突然の政策変更で売れなくなった商品があっても、少なくとも1ヶ月の対応期間が与えられるため、損失を最小限に抑えられる。
法的効果と執行

法案が成立した場合、FTC(連邦取引委員会)は施行から180日以内に規則を制定する。その規則違反は、連邦取引委員会法上の不公正な競争方法として扱われる。さらに、州の司法長官も居住者を代表して民事訴訟を起こす権限を持つ。
最も強力なのは、被害を受けた販売者が連邦裁判所に直接訴えを起こせることだ。プラットフォームの利用規約に仲裁条項があったとしても、この法律に基づく訴訟は妨げられない。勝訴した販売者は、実際の損害額の3倍の賠償と、裁判費用・相当額の弁護士費用を請求できる。単なる通知義務にとどまらず、強力な抑止力を持つ設計になっている。
法案の不確実性と課題

一方で、この法案には適用範囲の曖昧さという弱点も指摘されている。保護の対象となる「第三者の販売者」は「支配的プラットフォーム」上で事業を行う企業と定義されているが、支配性を判断する売上高や取引量、ユーザー数、市場シェアといった具体的な基準は明記されていない。
AmazonとWalmartが主な標的であることは明白だが、eBayやEtsy、Poshmarkといった特化型マーケットプレイスにまで一律に適用されるかは不透明だ。FTCの規則制定で一部は明確化される可能性があるが、数値基準がないことは法廷闘争の引き金にもなりうる。
日本から海外マーケットプレイスを利用する事業者への影響

Amazon.comやWalmart.comで越境ECを行っている日本の事業者にとって、この法案が成立すれば大きな後ろ盾となる。米国内の法律である以上、適用対象はこれらのプラットフォームに限られるが、日本国内で販売する場合と異なり、海外の巨大プラットフォーム相手に身を守る手段が大幅に強化されるからだ。
また、こうした立法の動きはグローバルな潮流になる可能性もある。すでにEUではプラットフォームと販売者の関係を規律するルールが整備されつつある。日本の事業者としても、海外販路を拡大する際のリスク判断にこの法案の行方を加味しておく価値は高い。
この記事のポイント
- 米国下院で「オンライン販売者の権利章典法」が提出され、審議中である
- アカウント停止時の在庫・支払い保留は30日が上限となり、理由の個別通知と異議申し立て手続きが義務化される
- ゲート製品への事後規制には30日の販売猶予か無償返却の機会が与えられる
- 販売者は連邦裁判所に直接訴訟を起こせ、勝利すれば3倍賠償を得られる
- 日本の越境EC事業者にも、Amazon.comなどでの販売リスクを減らす追い風となる

・ 複数業界における17年間のデジタルビジネス開発経験
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