タグアーカイブ 消費者行動

消費者はファネルを放棄——流動化する購買行動にマーケターはどう対応すべきか

消費者はファネルを放棄——流動化する購買行動にマーケターはどう対応すべきか

消費者の購買行動が、もはやマーケティングの教科書通りには動かなくなっている。MiQ Sigmaが2026年4月に発表したレポート「From Funnel to Flexibility」によれば、消費者の86%が1時間に1回以上デジタル活動を切り替え、42%が自分の購買までの道のりは「ランダムだ」と回答した。

視聴、閲覧、購買というステップを順に踏むのではなく、同じ30分の間にこれらを行き来する消費者が大多数を占める。ECサイトを運営する事業者にとって、この変化は「待っていれば買ってくれる」時代の終わりを意味している。

ファネルはもはや機能しない——データが示す消費者行動の実態

ファネルはもはや機能しない——データが示す消費者行動の実態

86%が1時間以内に活動を切り替える時代

従来のマーケティングファネルは、認知から興味、比較検討、購入へと消費者が段階的に進むことを前提に設計されている。各段階に応じた広告やコンテンツを用意し、じっくりと購買意欲を醸成する。このモデルは長年、ECを含むあらゆる業界のマーケティング戦略の土台だった。

しかし現実は異なる。MiQ Sigmaの調査では、86%の消費者が1時間に1回以上の頻度でデジタル活動の種類を切り替えており、SNSのチェックから動画視聴、商品検索、そして購入までを短時間で行き来している。42%が「自分の購買プロセスはランダムだ」と考えている点も見逃せない。これは特定のパターンや順序に沿って購買が進むわけではない、という消費者自身の実感を裏付けている。

最短10分で完了する購買——圧縮されるタイムライン

さらに衝撃的なのは、購買までの時間が極端に短縮されていることだ。レポートによれば、ある種の購買はわずか10分で完了するケースもある。つまり消費者が商品を認知し、情報を集め、比較し、決断するまでの全プロセスが、以前は数日から数週間かかっていたのに対し、いまや数十分、ときには数分で終わってしまう。

このスピード感は、段階別にキャンペーンを設計する従来の手法を根本から揺るがす。認知フェーズ用の広告を配信している間に、消費者はすでに購入を終えている可能性があるのだ。

「視聴・閲覧・購買」が30分の間に同時発生する

「視聴・閲覧・購買」が30分の間に同時発生する

ステップではなく「状態の切り替え」としての購買行動

レポートが明らかにした最も重要な発見のひとつは、消費者が「視聴」「閲覧」「購買」という状態を、段階的に進むのではなく、短いバーストの中で頻繁に行き来している点だ。30分という短い時間枠のなかで、動画を観て、SNSをチェックし、検索して、そして購入する。この一連の動きは直線的ではなく、行ったり来たりを繰り返す。

これはメディアプランニングに直接的な影響を与える。メッセージを段階ごとに配置する戦略から、活動が活発化する瞬間を捉えてカバレッジ(網羅率)と応答性を最大化する戦略へと、優先順位を切り替える必要がある。

91%がテレビ視聴中に別のデバイスを使用

デバイスの利用実態も、この行動パターンをさらに加速させている。レポートによると、消費者の91%がテレビを観ながら別のデバイス(スマートフォンやタブレット)を同時に使用している。これは、コンテンツへの接触と購買アクションがほぼ同時に発生しうることを意味する。

たとえばテレビCMや番組内で紹介された商品を、その場でスマートフォンから検索し、数分後には購入している。この「接触とアクションの同時性」は、チャネルごとに独立したキャンペーンを組む従来のやり方では対応が難しい。1つのインプレッション(広告表示)が、即座にクロスチャネルな行動を引き起こすため、全プラットフォームで一貫したメッセージと即応性を備えた施策が求められる。

ソーシャルとAIが購買の入り口を無数に増やす

ソーシャルとAIが購買の入り口を無数に増やす

50%以上がSNSを複数目的で利用——若年層では80%超

購買行動の入り口も大きく変わっている。レポートでは、消費者の50%以上が同じ日にSNSを複数の目的で利用していることが示された。若年層ではこの割合が80%を超える。情報収集、エンターテインメント、友人とのコミュニケーション、そして商品の発見と購入まで、1つのプラットフォーム上で完結するケースが増えている。

これはブランド側にとって重要な意味を持つ。発見(ディスカバリー)の場が予測しにくく、かつ分散しているということは、企業が消費者をファネルに誘導するのではなく、消費者の興味が芽生えたその場所で「存在している」ことが競争力の源泉になる。検索広告だけでも、SNS広告だけでも不十分で、あらゆる接点にブランドが顔を出す体制が必要だ。

AIが評価から意思決定までの時間を短縮する

この流れをさらに加速させているのがAIツールの普及だ。調査対象の45%以上が、商品比較、レビューの要約、おすすめ情報の取得にAIツールを利用している。AIは人間が情報を処理する時間を大幅に短縮するため、評価から意思決定までのリードタイムがさらに圧縮される。

EC事業者にとっての示唆は明確だ。商品説明やレビュー、比較情報などのコンテンツは、AIによって解釈・抽出されることを前提に、明瞭で構造化された形で提供する必要がある。AIが読み取りやすいデータ構造(たとえば構造化データマークアップの適切な実装)や、要点が整理されたコンテンツ設計が、これまで以上に重要になる。

マーケターに求められるスピードと柔軟性

マーケターに求められるスピードと柔軟性

段階別アトリビューションは信頼性を失う

購買行動が複数チャネルを同時並行的に行き来するようになると、広告効果の測定手法にも変革が迫られる。「この広告が認知に貢献し、こちらが比較検討を後押しした」という段階別のアトリビューション(貢献度分析)モデルは、現実の複雑な行動を捉えきれなくなる。

MarTechの記事によれば、段階ベースのアトリビューションに代わり、シグナル(行動の兆候)とアウトカム(成果)に焦点を当てたモデルへの移行が必要だと指摘されている。また、データ、メディア、分析システムの統合レベルを引き上げ、クロスチャネルでの同時発生を捉えられる基盤が前提となる。

キャンペーン展開の遅延が機会損失に直結する

意思決定のスピードが上がると、マーケティング施策の実行速度がボトルネックになる。キャンペーンの立ち上げやクリエイティブの更新に時間がかかればかかるほど、購買の瞬間に自社のメッセージを届けられる確率は下がる。

これは単に「素早く動く」という精神論ではなく、運用体制の設計問題だ。広告クリエイティブのパターン出しを自動化する、パフォーマンスデータをリアルタイムで反映して配信を動的に切り替える、在庫や価格の変動に連動した広告を即時生成する——こうした仕組みの有無が、成果を左右する時代に入っている。

この記事のポイント

  • 消費者の86%が1時間以内にデジタル活動を切り替え、購買プロセスは「ランダム」とする回答が42%に達する
  • 「視聴・閲覧・購買」が30分以内に同時発生し、最短10分で購買が完了するケースもある
  • 91%がテレビ視聴中に別デバイスを使用し、接触と購買アクションがほぼ同時に発生する
  • AIツールの利用拡大により評価〜意思決定の時間がさらに短縮され、構造化されたコンテンツ設計が不可欠になる
  • 段階別アトリビューションは機能しなくなり、シグナルとアウトカムに基づく測定モデルへの移行が必要
AI検索の利用率は年収で決まる?EC担当者が知るべき検索行動の二極化と対策

AI検索の利用率は年収で決まる?EC担当者が知るべき検索行動の二極化と対策

AI検索の普及は、すべてのユーザーに平等に進んでいるわけではない。最新の調査データによると、生成AIツールの利用率は世帯年収によって明確な差が生じている。高所得層ほどAIを使いこなし、情報の探し方が根本から変化している実態が明らかになった。

英国のマーケティングメディアであるMarTechが報じたデータでは、世帯年収が10万ポンド(約2,000万円)を超える層の約半数がAIを常用している。一方で、年収が3万ポンド以下の層ではその割合が2割を下回る。この所得による「検索の二極化」は、EC事業者にとって見過ごせない課題だ。

顧客がどのツールで情報を探し、どのように意思決定を行うのか。その前提条件が所得層によって分断されつつある。本記事では、AI検索の普及がもたらす新たなデジタル格差と、断片化する顧客行動に対応するための戦略を詳しく解説する。

AI検索の普及に潜む年収格差の実態

AI検索の普及に潜む年収格差の実態

AI検索はすでに一般的になったという論調が多いが、現実はそれほど単純ではない。MarTechの記事で紹介されているBecky Simms氏の分析によれば、生成AIの採用ペースは世帯年収に強く依存している。これは、単なる技術への関心の差ではなく、社会的な構造が背景にある。

高所得世帯ほど生成AIを日常的に活用している

具体的な数字を見ると、その差は歴然としている。世帯年収が2万5,000〜3万ポンドの層では、ChatGPTなどのAIツールを定期的に利用している割合は約18%にとどまる。しかし、年収が7万ポンドを超えると、その利用率は一気に49%まで跳ね上がる。

年収10万ポンド以上の層に至っては、48%から58%という高い水準でAIを利用している。つまり、高所得層は低所得層の2倍から3倍近い頻度でAIを検索や業務に活用していることになる。この格差を視覚化すると、以下のようになる。

世帯年収別のAI利用率(推計)
〜3万ポンド
18%
〜6万ポンド
30%
〜8万ポンド
49%
10万ポンド〜
58%
AIツール(ChatGPT等)の定期利用率

このデモが示す通り、年収の上昇に伴ってAI利用率が加速度的に高まっている。高単価な商品やサービスを扱うブランドにとって、ターゲットとなる層がすでに「AIファースト」な行動をとっている可能性が高いことを示唆している。

デジタルスキルの差が情報のアクセシビリティを左右する

この格差は、単なるツールの所有状況だけではなく、基礎的なデジタルスキルの差とも連動している。非営利団体のFutureDotNowのデータによれば、英国の労働年齢層の約52%が、仕事に必要な基本的なデジタルタスクを完遂できない状態にあるという。

AIの利用は、既存のデジタルスキル格差の上にさらに積み重なる新たな層となっている。情報の検索、評価、そして行動。これらのプロセスをAIで効率化できる層と、従来通りの方法でしか情報を得られない層の間で、情報の非対称性が広がっているのだ。

作家のウィリアム・ギブソンは「未来はすでにここにある。ただ、均等に分配されていないだけだ」という言葉を残している。まさに現在のAI検索の状況は、この言葉を体現しているといえるだろう。

なぜAI利用に格差が生まれるのか(3つの要因)

なぜAI利用に格差が生まれるのか(3つの要因)

AIの採用が所得によって分かれるのは、単に「有料プランを契約できるかどうか」という金銭的な理由だけではない。Simms氏の分析によれば、人間の行動に根ざした3つの要素が大きく関わっている。それは「アクセス」「能力」「信頼」だ。

職場環境によるアクセスの差

第一の要因は、日常生活や業務の中でAIに触れる機会、すなわち「アクセス」の差だ。ITやビジネス、知識集約型の職種に従事している人々は、ワークフローの一部としてAIの使用を推奨される、あるいは期待される場面が多い。

こうした環境に身を置く人々は、自然とAIを使いこなすようになる。一方で、物理的な労働が中心の職種や、デジタル化が遅れている現場では、AIに触れる機会はニュースなどの二次的な情報に限られる。この初期段階での露出の差が、後の大きな習熟度の差へとつながる。

プロンプトを操る能力とAIへの信頼

第二の要因は、AIを使いこなす「能力」だ。AIとの対話には、適切な指示を出す「プロンプト(命令文)」のスキルが求められる。日常的にAIを使う層は、回答を洗練させ、間違いを修正し、出力を組み立てる方法を経験から学んでいく。

第三の要因は、AIに対する「信頼」だ。AIが生成する情報の正確性をどう評価し、どの程度頼ってもよいと判断するか。Perplexityのような信頼性を重視するプラットフォームの台頭はあるものの、AIを使い慣れていない層にとっては、未知のツールに対する心理的な障壁や不信感が拭えない場合も多い。

これらの要素が組み合わさることで、デジタルに自信のある層がさらにAIで優位性を高めるという、新たなデジタルデバイド(情報格差)が形成されている。ECサイトの運営者は、自社の顧客がどの程度のAIリテラシーを持っているかを慎重に見極める必要がある。

断片化するユーザーの検索行動パターン

断片化するユーザーの検索行動パターン

検索行動はもはや一様ではない。かつては「何かを知りたければGoogleで検索する」という単一の道筋があったが、現在はユーザーの属性や目的によって、複数のルートに断片化している。これを理解せずに戦略を立てることは、ターゲットの一部を完全に見落とすリスクを伴う。

AIファースト層からAI回避層までの3つの分類

現代のユーザーは、AIへの関与度によって大きく3つのタイプに分類できる。それぞれの層で、情報の受け取り方や期待するコンテンツの形式が異なっている。

  • AIファースト層:タスクの代行、情報の要約、選択肢の絞り込みをAIに委ねる。サイトを訪問する前にAIの回答で完結することを好む。
  • AIアシスト層:AIで概要を把握しつつ、従来の検索エンジンやSNSで情報の正しさを検証する。複数のプラットフォームを跨いで行動する。
  • AI回避層:従来通りのGoogle検索、小売サイト内の検索、あるいはコミュニティ(Redditや掲示板など)を信頼し、AIツールの利用を避ける。

重要なのは、同じユーザーであっても、タスクの内容によってこれらの行動を使い分ける点だ。例えば、法律文書の草案作成にはAIを使い、商品の口コミを調べる際にはGoogleやSNSを使う、といった具合だ。

同じユーザーでも目的によってツールを使い分ける

検索の断片化は、カスタマージャーニーをより複雑にしている。以前のように「検索キーワード」だけでユーザーの意図を把握することは難しくなっている。AIが情報の「要約」と「簡略化」を担う一方で、SNS(TikTokやInstagram)は「人間味のある文脈」や「視覚的な納得感」を提供する場となっている。

以下のデモは、従来の検索と、現代の断片化された検索プロセスの違いを視覚化したものだ。

従来の検索(Before)
Google検索
各Webサイト
※ユーザーが各サイトを訪問して比較検討する
断片化した検索(After)
AI (ChatGPT)
情報の要約・選択肢の絞り込み
SNS (TikTok)
リアルな使用感・視覚的な確認
Google
詳細情報の検証・購入手続き
※サイトを訪れる前に、AIによって意思決定がほぼ終わっている

この変化により、ECブランドは「サイトに来てから説得する」のではなく、「AIやSNSの段階で選ばれている」状態を作らなければならなくなっている。クリックされる前の段階で、いかにブランドを認知させ、信頼を獲得するかが勝負の分かれ目だ。

EC・マーケティング戦略への影響と具体的な対策

EC・マーケティング戦略への影響と具体的な対策

高所得層がAIを使い、意思決定をAIに委ね始めているという事実は、ECのマーケティング戦略を根本から変える。ターゲットがAIファーストであるならば、従来のSEO(検索エンジン最適化)だけでなく、GEO(生成エンジン最適化)への対応が急務となる。

属性ではなく行動でターゲットを分析する

年齢や年収といったデモグラフィック(属性)データは、誰がターゲットかを教えてくれるが、彼らが「どう決めるか」までは教えてくれない。これからは、ユーザーがどのプラットフォームで、どのタイミングでAIを使うのかという「行動」に基づいたセグメンテーションが必要だ。

AIを使いこなす「高自信ユーザー」は、AIに選択肢を絞り込ませることを好む。一方、AIに不慣れな「低自信ユーザー」は、馴染みのある環境や人間の声を求める。ブランドは、この両方のジャーニー(顧客体験)を設計しなければならない。

AIに推奨されるための情報の構造化と信頼性向上

AIに自社ブランドを正しく理解させ、推薦してもらうためには、情報の「明快さ」が不可欠だ。複雑で曖昧な表現は、AIによる解釈ミスを招き、結果として検索結果から除外される原因となる。具体的で構造化されたデータを提供することが、AI時代のSEOの基本となる。

また、AIは効率化には優れているが、最終的な「安心感」を与えるのは依然として人間による証明だ。レビュー、権威ある第三者の評価、ブランドの歴史といった「信頼のシグナル」を強化することで、AIが提示した候補の中から「最後に選ばれるブランド」になることができる。

効率性が重視されるAI検索の世界であっても、最終的な決断を下すのは人間だ。技術の進化に目を向けつつも、その背後にある人間の心理や行動の変化を深く理解することが、これからのEC運営には求められている。

この記事のポイント

  • AI検索の利用率は世帯年収に比例し、高所得層は低所得層の2倍以上活用している
  • AI採用の差は、職場でのアクセス、プロンプト能力、ツールへの信頼度の違いから生まれる
  • 検索行動はAIファースト層、AIアシスト層、AI回避層へと断片化が進んでいる
  • 高価値な顧客はサイト訪問前にAIで意思決定を終えている可能性が高いため、AIへの最適化が重要になる
  • 技術への対応と同時に、レビューや権威性などの「人間による信頼の証明」が選ばれる鍵となる